ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第二十話 カフェテラスにて


 休日の午前とだけあってか、学院のカフェはそれなりに空いていた。
 ガラス張りの壁からは日差しが射しこみ、その外では木造りのテラスの上でテーブルが並べられている。
 せっかく天気がいいので俺達はテラスの方の席に座る事にした。

「ちょっと時間貰ったのはフラミィについての事でな」

 言うと、エクレの澄んだ瞳に動揺の色が現れる。とりあえず嫌われてないという事実は伝えてやらないと。

「一応フラミィに話を聞いてみたんだけど、別にエクレの事は嫌いじゃないみたいだぞ」
「嘘」
「嘘じゃないよ」

 言って、フラミィがエクレについて、自分が一緒にいれば、またあの時の様に迷惑がかかるかもしれないから避けているのだという事を話してやる。

「そんなの気にしなくていいのに……」

 エクレは悲し気に目を伏せ呟く。
 おおよそ俺の想像した通りの反応だった。まぁ仲良くなりたいとは言っていたからこう反応するのは当然と言える。

「この事をフラミィに言ったら仲直りできる?」
「……たぶん無理だろう」
「そう……」

 エクレの問いに首を振ると、その顔は悲し気に伏せられる。
 だが、フラミィの思いはとても強いようにみえた。だから言葉で伝えたところで気を遣っているんだろと言って信じようとしないだろう。

「でも、仲直りする方法はあると思う」

 言うと、エクレの目が俺へと向けられる。

「さっきも言った通り、フラミィはエクレを守るために暴走するのを恐れてる」
「うん」
「だったらそれを抑えるだけの力、そして守られなくてもやっていける力を示しすんだ」
「力を……」

 フラミィはエクレを守るために暴走する事を恐れている。だったら守る必要が無い事を示せばいい。

「でもどうやって? 闘儀バタイユは双方の同意があって初めて成り立つ」

 要するにエクレはこう言いたいのだろう。フラミィが受けてくれる保証はないと。
 扇動したり大きな対価を提示したらフラミィも受けてくれるかもしれない。だがそれだと色々と面倒だ。ただ、丁度いい事に対価無しで戦える場が近いうちに用意されている。

「新人戦だ。この新人戦は対人戦有りだからな。フラミィの事だ、勝負事は本気でやるだろう。たぶん、こちらから仕掛ければ確実に迎え撃ってくるはずだ」 

 エクレはしばらく黙り考える素振りを見せると、小さく頷く。

「フラミィは昔、勝負事が好きだった。よく私とも戦ってくれた」
「決まりだな」

 立ち上がろうとすると、エクレがどこか浮かない表情をし「でも」と呟く。

「どうした?」
「勝てるか分からない……」

 やはりそうか。確かにフラミィは強かった。それは身をもって体感したし、新入生の成績もトップクラスだとも聞いた。
 実際手合わせしたのと模擬戦を見るに、剣術についてはエクレ以上。魔法の事はあまり分からないが、学院で上位というならそれもハイレベルな気がする。

「ちなみに一番最後に戦ったのでどんな感じだったんだ?」

 エクレは思い出しているのか顎に手を当てる視線を落とすと、やがて答える。

「負けた。フラミィの体術、剣術は本当にすごい。それに戦い方も荒々しいように見えて緻密な計算がされてる。唯一張り合えたのは魔法だけど、総合力は完全に劣ってた」
「なるほど……」

 その最後の戦いから二人がどれくらい成長したのかは分からないが、やはりエクレに足りないとすれば体術だとか剣術だとか、直接的な打撃力や対応力と言ったものなのだろう。
 確か新人戦までは一週間だったか……。

「分かった。一週間でどこまで伸ばせるか分からないけど俺が練習相手になるよ」
「クロヤが?」
「ああ。総合力はともかく、剣術ならなんとかフラミィよりは上回っているつもりだ。ちょっとあいつとは遊ぶ機会があったんだけど、その時はぎりぎり勝てた」
「フラミィに勝ったの? すごい」
「たまたまだよ」

 エクレが顔に関心の色を覗かせるので、否定しておく。
 実際、次やって勝てるかと問われれば五分、あるいはそれ未満と答えるだろう。

「それで、いつやるかだけど……」
「今から」
「え?」
「今から練習したい」

 エクレはむんと言い放つと、澄み渡った空色の目が俺を見つめる。
 まぁ、練習は多いに越したことは無い。言い出しっぺでしかも暇とくれば断る理由は無いだろう。

「分かった。第一演習場に行こう」

 エクレがコクリと頷くので、演習場へと向かった。




「ゼロ魔力の劣等種族」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く