ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第十五話 呼び出し


 あの二人を元の関係に戻すのはやっぱりあれが一番か……?
 フラミィとの戦いを終え、どうやってすれ違いを解消させようかと考えながらオルニス寮に戻ると、鍵を解錠し扉を開く。

「くっく、待ちわびたぞク」

 全て聞く前に扉を閉じる。
 あれ、おかしいな。ここは俺の部屋だったはずだぞ? なのに何故眼帯をつけた金髪の女の子が片手で顔を覆い隠しながら立っていたのだろう? 鍵だってかけてたはずだけどな。
 そもそも自分の持つ鍵で扉が開いたのだが、念のために部屋のプレートを確認してみる。
 うん、ちゃんと俺の名前が刻まれてるな。
 深呼吸をして今度は慎重に開くと、クラティアが涙目でこちらを見ていた。

「ぐすん……」
「って、なんで泣いてるんだよ!?」
「だって、せっかく待ってたのにクロヤ扉閉めた……」
「いやいや、そりゃいきなり部屋に変な子がいたら……」

 言おうとして、口をつぐむ。
 何故ならクラティアがぽろぽろと涙を流しながらこちらを見つめ始めたからだ。

「わ、分かった。俺が悪かったからとりあえず泣き止んでくれ」
「うん……ぐすん」

 クラティアは腕で涙をぬぐうと、一つしかない部屋の奥に入り、またこちらを向く。

「というわけでクロヤ! 私を弟子にしてほしい!」
「は?」

 いきなり言うので意思に反して間抜けな声が出てしまった。
 どういうわけでそういう発想に至るんですかね? あと立ち直りも早いな……。

「これまで数々の死線を聖剣デュランダルと歩んできたが、クロヤのような剣の使い手は今まで存在しなかった。恐らくかなりの手練れと見た。いや、私がそう言うのだから間違いはあるまい。だからもう一度頭を下げよう。私を弟子にしてほしい」

 そう言ってクラティアは深々と頭を下げてくる。
 恐らく模擬戦での戦いでそう感じたのだろうが、厨二病も度が過ぎると少し厄介だな……。確かに剣の修行はしてきたけど、まだまだ修行中の身だし、というかそもそも俺の剣術は刀剣術だから、たぶんクラティアのあの大きな剣には向かない。

 かと言って、あんまりきっぱり断ると泣き出しそうだしな。即閉じしただけで泣いちゃう子だしなこの子。こういう時は確か自分を卑下した上で相手を持ち上げて遠回しに断るんだったかな……。

「クラティアがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺なんてまだまだだし、模擬戦も実はけっこうぎりぎりだったんだ。だから俺に教えられることは無いし、そもそもクラティアくらいの腕だったら弟子入りする必要は無いと思うぞ」

 よし、我ながら巧い事言えたと思う。これで諦めてくれればいいが……。

「そんなはずは無い! クロヤの腕は確実に私を凌駕している!」

 やはりそう簡単に諦めてくれないか。さてどう断ればいいか。
 なんとかして打開策を編み出そうとしていると、不意に右目に軽い痛みが走る。
 何事かと目をこすると、同時に扉が誰かの手によってノックされた。

「クロヤ君はいるかなー?」

 気の抜けた様な声は聞き覚えがある。確か寮監のエミリー先生だ。

「今出ます」

 返すと、クラティアに断りを入れて扉を開く。

「やあやあー」
「何かありましたか?」
「ああうん。ちょっとお呼び出しがあってねー。今時間は……」

 エミリー先生は言いかける口をつぐんだ。
 その目線は俺の後ろの方へとやられているようだった。

「あ、もしかしてお取込み中だった……」
「いいえまったく」

 しっかりと答えると、エミリー先生はふーんとどこか意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「連れ込むのはいいけどあんまりおイタしちゃいけないよ~? 一応教育の場だし」
「だから何も無いですよ……。というか連れ込んだんじゃなくて勝手に入って来てたんです」
「ほんとかねぇ?」

 なおも続くエミリー先生の追撃に、クラティアからも説明してやれと目くばせすると、合点がいったのかいってないのか、クラティアは力強く首肯する。

「私とクロヤはこれより主従関係を結ばねばならなくて忙しい、要件は後にお願いする!」
「え、主従?」
「え、い、いやいや違いますよエミリー先生!?」

 この厨二病の子はなんて言葉のチョイスをするんだよ!? せめて師弟関係とかそういう言葉を使ってくれないかな!

「へぇ~、ふぅん……。クロヤ君、ちょっと生徒指導室に……」
「いやだから違うって言ってますよね!? この主従っていうのは剣の師弟的な意味で合って決してそういうやましいことじゃないですから!」
「クロヤの刀剣・・は細かったがとても凄かったぞ!」
「え、って事は長い?」
「だから! とりあえずクラティアは頼むから静かにしてくれ! あとエミリー先生しれっと変な事言わないでください!」

 壁に頭を連打したい衝動に駆られると、エミリー先生がくすくす笑い出す。

「冗談冗談。なんとなーくクロヤ君は寡黙めな印象だったけど、意外と面白い反応してくれるんだねー?」
「んなっ……」

 遊ばれたのか俺は……。ていうか寡黙めな印象って、俺そんなに暗いですかね……。なるべく明るくしてたつもりだったんだけど。

「それで、話を戻すと、そのお呼び出しって言うのが先ほど帰ってこられた学院長からなんだ」
「え……」

 学院長が俺を呼びだしただと?

「授業があるかもしれないから少し遅くなっても構わないとは言ってたけど、クロヤ君会いたがってたからねー」
「学院長室、ですよね?」
「うん、そうだよ~」
「分かりました。ありがとうございます。悪い、クラティア。急用だ」
「あ、クロヤ」

 クラティアには悪いが最後まで話を聞いている暇はない。
 すぐさま扉を出るとまた右目が少し痛むが、気にしている時間は無いので早歩きで学院長室へと向かった。




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