ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第九話 クラティア・アマデウス


  目的を達成するまでどれくらいかかるか分からないので退学するわけには行かない。一応行事だけでも五百ポイントは軽く溜まるようだったが、念には念をと魔法学系統はなるべく避けて授業はとっておいた。
 まぁそもそもここは西洋なので魔法学以外の授業は少なかったが、そこはもう仕方が無い。

 オルニス寮から七、八分歩くと、石柱が円状に立ち並ぶ第一演習所に来た。
 ここで剣術演習Aの授業がある。西洋には武具と魔法両方を扱う魔法戦士パラディンが存在し、それを志す人間が受ける授業らしい。

 演習場の石畳に足を踏み入れると、十数人の生徒が来ていた。全ての優劣は魔法に在りと謳われる西洋でも、魔法戦士パラディンを志す人間は一定数いるようだ。
 様子を観察していると、ふとその中に見知った後ろ姿があったので声をかけてみる。

「よ、エクレ」

 挨拶すると、エクレは何故かビクリと文字が出そうな勢いで肩をひと震えさせた。
 恐る恐ると言ったようにエクレはこちらを振り返ると、ハッとした表情を見せ、小さく言う。

「べ、別に心細いわけじゃなかった……」

 頬を朱に染めるエクレの目線は少し逸らされていた。

「俺は挨拶したけだぞ?」
「ッ……!」

 指摘すると、エクレはますます顔を紅くし、ぷいと顔ごと逸らす。

「さっきのはセルウィル家独自の挨拶」
「流石にそれは無理があるだろ……」
「うるさい。クロヤは一生口を開かなくていい」

 エクレはぴしゃりと言い放つと、とうとうそっぽを向いてしまった。
 ていうか一生って、そこまで言われますか俺は……。

「がっはっは! おはよう生徒諸君!」

 向けられた小さな背中に軽い哀愁を抱いていると、高らかな笑い声が聞こえる。
 ふり返ると、そこにはがたいのいいひげ面の男が暑苦しい笑みを浮かべて歩いて来ていた。

「私がこの授業を担当するマックスだ! 早速だが君たちの実力を見たいので、適当にペアを組んでくれたまえ! その相手と模擬戦をしてもらう!」

 マックス先生は生徒の前まで来ると、いきなりそんな事を言いだす。大丈夫だろうなこの先生。
 まぁとりあえず模擬戦ならエクレと組むか。実力もちょっとだけ気になるし。

「なぁエク……」
「む……」

 声をかけようとすると、エクレは軽く頬を膨らませ軽く睨んでくる。
 ああそういえば一生口を開くなと言われてたんだったな……。かといって組む相手もいないのでとりあえず謝り倒して許してもらおうかと考えると、不意に別方向から女の子の声がかかる。

「そこの漆黒の髪を湛えし男よ」

 言い方はどこかくどい気がするが、黒髪と言えば俺しかない。
 声の方へと目を向けてみると、眼帯をつけた女の子が片手で顔半分を隠す謎のポージングをとる。

「貴様、どうやら弥国人のようだな?」
「まぁそうだけど……」
「ならば、恐らく貴様と組もうという人間はいなかろう。故に、この私が組んでやっても構わんぞ!」

 女の子は双方に結わえられた黄金こがねの髪を振り乱すと、腰を微かに反らし、掌を勢いよく向けてくる。
 どうしようかとエクレに目を向けてみるが、視線が合うとぷいと逸らされてしまった。どうやら相当お怒りの様子らしい。

「さぁ答えよ漆黒の男よ! 私と組むか、否か!」

 変な口調の子ではあるが、せっかく誘ってくれている上にエクレもああなので、とりあえず肯定しておくことにする。

「分かった。俺で良ければ相手するよ」

 言うと、エクレの方からブチンと何かが切れた様な音が聞こえる。

「えと、エクレ、雷出さなかった?」
「……気のせい。別にクロヤの好きにすればいい」

 それだけ言うと、エクレはその場から離れていってしまった。
 とりあえず後で謝っておこうかと考えていると、金髪の女の子がこちらへとやって来た。

「クックック、そういえばまだ名乗っていなかったな……」

 女の子は静かに言うと、やがて虚空から大ぶりの大剣を取り出し地面突き刺す。

「我こそは剣神に愛されし申し子であり、邪気覇眼に選ばれし者、クラティア・アマデウス!」

 クラティアという少女が勢いよく眼帯を取り外すと、そこからなんと碧眼が姿を現した。

 

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