ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第六話 貸しと借り


 食事を終え、卒業要件についての説明が行われるという寮の会議室まで行くと、既に多くのオルニス寮生が席についていた。並ぶ長机はどれも綺麗にされていてなかなか良い雰囲気だ。

 この学校は授業は自分で選んでいく形、選択科目制なのでクラスは無い。その代わり、一部屋およそ三十人収容できる会議室は各寮に何部屋か設置されており、何か学院側から連絡事項がある場合は寮生を小分けにして今のように各会議室に集める。だいたいこういうのは寮生会議と呼ぶ事になるらしい。

 今回に至ってはあらかじめ席が決まっているらしいので、どこかなと見てみると窓際の一番後方の席が空いていた。
 行ってみると、確かに俺の名前が刻まれたプレートが置かれていた。
 着席し、しばらくぼけーっと外の景色を眺めていると、不意に何やら視線を感じる。
 振り返ってみると、隣の席の子と目が合う。
 エクレだった。視線がぶつかるといなや、エクレはわちゃわちゃと目を泳がせ顔をそむける。
 なんの因果かは知らないが、謝る機会ができた事は有り難い。

「えっと、昨日も言ったかもしれないけど、改めて言う。本当に昨日はごめんな」

 隣に座る少女に深々とお辞儀をするが、以前そっぽを向いたままエクレが呟く。

「……変態」

 やはり嫌われてしまっているようだ。まぁ無理も無い。

「そうだよな。うん。こっちとしては謝り足りないけど、これ以上やっても鬱陶しいだけだろうから、これからは話しかけないし近づかないようにする。安心してくれ」

 伝えるべき事は伝えたので前に向き直ると、ふと制服の裾が掴まれる。

「や、やっぱり許す……」

 怒りに打ち震えているのか、あるいは思い出して恥ずかしくなっているのか、エクレは頬を赤らめながらも言葉を伝えてくる。

「本当にいいのか? 無理しなくてもいいぞ?」

 念のため確認するが、エクレは無言でこくりこくりと頷く。

「それならいいけど……一応自己紹介しとくと俺はクロヤ・シラヌイ。クロヤとでも呼んでくれ」
「分かったクロヤ。私は、エクレ・セルウィル。エクレでいい」
「よろしく」
「……よろしく」

 って俺何してんだろ……。別に友達作ろうとかいう気はさらさら無かったのに自己紹介なんかしてしまうとは。
 でも不思議だ。エクレとは学院で初めて知り合ったはずなのに初めてな気がしない。いや、本人に会ったというよりは似てる人に会った事があるというようなそんな感じか。まぁいずれにせよそのせいでこうして自己紹介をしてしまったんだろう。友達がいくらいたところで減る物は無いし別にいいさ。

「あっ、あと……」
「ん?」

 まだ何か言う事があったのか、エクレが口を開く。

「許したのは、貸しを返しただけ……」
「貸し?」
「さっき階段の所で」

 階段の所と言えばたぶん女子に絡まれていた時の事だろう。

「別に私はどうでもよかったけど、一応、助けてくれたから。その貸を返しただけ」

 要するに助けてくれたから風呂での事は許すという意味か。
 なんかそれはそれですっきりしないな……。命を助けたりとかならともかく、ただ単に声掛けて注意した位だもんな。

「やっぱり無理してないか? 俺としては許されない事をしたと思ってるし、許されなくても仕方ないと思ってる。だからそう貸し借り云々で無理に許してくれる必要は無いぞ」

 言うと、エクレがどこか不服そうに小さく頬を膨らます。

「それでいいって私が言ってる。だからクロヤは大人しく受け入れて」
「お、おう……」

 決して大きな声ではなかったが、謎の強制力を感じたのでとりあえずは受け入れる事にする。

「やーやーオルニス寮の新入生諸君~」

 エクレとの話もひと段落ついたという所で、笑顔で穏やかそうなオーラを醸す女の人かが会議室に入ってきた。肩まで届いた毛先はウェーブがかりなんとなくこの人を象徴してるように感じる。

「えー、私がここオルニス寮の寮監にして学院教諭、エミリー・フォートだよ~。どうぞよろしく~」

 エミリー先生は黒板に自らの名前を書くと、改めて前に向き直る。

「やー、とりあえずまずは入学おめでと~。これから学院生活頑張ってね~」

 エミリー先生は笑顔のままお祝いの言葉を述べると、さてと言って説明を始める。

「まぁみんなも知ってると思うけど、この学院は完全実力主義。それだけあって進級や卒業の方法も他の学校とは少し違うくて、全部ポイント制になりまーす」

 ポイント制というのはあまり聞き慣れない。しっかり聞いておいた方が良さそうだ。
 気を引き締めて耳を傾けると、エミリー先生は続ける。


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