ゼロ魔力の劣等種族
第四話 出会いはありのままで
春先とは言え真夜中のオルニス寮はまだ若干肌寒い。
制服に薄い上着を羽織ると、音を立てないよう慎重に扉を開く。
廊下をそっと覗くと、月明かり以外に照らす光は無く、人影も皆無だ。
一人も人がいないことを確認すると、抜き足差し足と目的地へと向かう。
二階から一階へと階段を降り、食堂とは逆の方へと歩いていくと、昨日消灯時間まで学生がたむろしていたラウンジを越える。
やがて、目の前にのれん付の両面開きのドアが立ちはだかった。
暗くてよく見えないけどたぶんここで合ってたはずだ。
静かに開いて中へ入ると、ようやく一息つくことができる。
やっと大浴場に到着できたか。こんな時間に部屋を抜け出してる事がばれたらば学院側に何を言われるか、最悪退学すら危ぶまれるからヒヤヒヤしっぱなしだった。
でもここまで来たらよほど騒がない限り外に音は漏れない。そうそう見つかる事は無いはず。親切にも明かりは付いてるみたいだから警戒も特にされてないんだろう。
まぁそんな事より、今は兎にも角にも風呂だな風呂。弥国からこの国に来るまでまともな風呂に入ってなかったから流石に辛い。
服を脱いでいると、自分の姿が映った大鏡に目が行く。
冴えない顔に、極東の国、弥国の人間特有の黒髪。どこまでも黒く底が窺い知れない漆黒。
やっぱりあらかじめ染めておくべきだったな……。せめて焦げ茶色くらいにしておけば風呂に入るのにこんな苦労しなかっただろうに。何せ脱衣所に入るだけで物珍しそう、あるいは侮蔑の眼差しを、しかも野郎どもに受けるわけだからな。そりゃ居心地が悪い。
にしても弥国人がここまで嫌われれてたとは思いもよらなかった。弥国人という理由だけで難癖つけられて果てには入学一日目でリンチを受けそうになった俺の気持ちを誰か理解してほしい。
フラミィだけは何故か俺が弥国人でも普通に接してくれたけど、それでも同じ人種がいないのはいささか悲しい。
まぁ、別に馴れ合いたいかと言われればそうでもないからいいんだけども。
まぁいい、さっさと入って寝てしまおう。明日も早くからこの学院についての卒業要件やらの説明があるらしいからな。
貸し切り状態なので、適当に服を脱ぎ散らかすと、引き戸を開く。
「ぁっ……」
広々とした空間の中、小さいながらも透き通った声が微かに聞こえ、いるはずのない誰かと目が合う。
冬の空のように澄み渡った瞳だった。
背は俺より頭一つ分、あるいはそれ以上小さく、腰のあたりまで湛えられた髪の毛は濡れているからか、まさに白銀色に輝いて見えた。それに併せて、控えめながら柔らかそうなモノと、白く華奢な肢体が遅れて飛び込んでくる。総じて美少女と呼ばれる部類の西洋人だ。確かフラミィの知り合いの子、だったはずだ。
まぁそれはともかく、うん、やばい色々。
「その、なんというか、まさかこの時間に誰かいるなんて思わなくてだな。これはどうあがいても予想できないというか、まぁ、事故なわけで……」
しどろもどろに言葉を吐き出すと、目の前にいる女の子も状況を把握したのか、次第にその頬が紅く染まっていく。
「いつまで、見てるの……?」
「あっ、おう、そうだよな。ごめん」
控えめで物静かな声が耳をつんざいたので、すぐさま扉を閉める。
即座に着替えると、本来なら脱衣時に入れるための籠に、女の子用の制服と薄水色のシュシュが入っているのを見つけた。何て事だ……これに気付いていればこんな事には。一生の不覚。
もはやなりふり構わず脱衣所を出ると、自分の部屋へと一目散に逃げ帰った。
制服に薄い上着を羽織ると、音を立てないよう慎重に扉を開く。
廊下をそっと覗くと、月明かり以外に照らす光は無く、人影も皆無だ。
一人も人がいないことを確認すると、抜き足差し足と目的地へと向かう。
二階から一階へと階段を降り、食堂とは逆の方へと歩いていくと、昨日消灯時間まで学生がたむろしていたラウンジを越える。
やがて、目の前にのれん付の両面開きのドアが立ちはだかった。
暗くてよく見えないけどたぶんここで合ってたはずだ。
静かに開いて中へ入ると、ようやく一息つくことができる。
やっと大浴場に到着できたか。こんな時間に部屋を抜け出してる事がばれたらば学院側に何を言われるか、最悪退学すら危ぶまれるからヒヤヒヤしっぱなしだった。
でもここまで来たらよほど騒がない限り外に音は漏れない。そうそう見つかる事は無いはず。親切にも明かりは付いてるみたいだから警戒も特にされてないんだろう。
まぁそんな事より、今は兎にも角にも風呂だな風呂。弥国からこの国に来るまでまともな風呂に入ってなかったから流石に辛い。
服を脱いでいると、自分の姿が映った大鏡に目が行く。
冴えない顔に、極東の国、弥国の人間特有の黒髪。どこまでも黒く底が窺い知れない漆黒。
やっぱりあらかじめ染めておくべきだったな……。せめて焦げ茶色くらいにしておけば風呂に入るのにこんな苦労しなかっただろうに。何せ脱衣所に入るだけで物珍しそう、あるいは侮蔑の眼差しを、しかも野郎どもに受けるわけだからな。そりゃ居心地が悪い。
にしても弥国人がここまで嫌われれてたとは思いもよらなかった。弥国人という理由だけで難癖つけられて果てには入学一日目でリンチを受けそうになった俺の気持ちを誰か理解してほしい。
フラミィだけは何故か俺が弥国人でも普通に接してくれたけど、それでも同じ人種がいないのはいささか悲しい。
まぁ、別に馴れ合いたいかと言われればそうでもないからいいんだけども。
まぁいい、さっさと入って寝てしまおう。明日も早くからこの学院についての卒業要件やらの説明があるらしいからな。
貸し切り状態なので、適当に服を脱ぎ散らかすと、引き戸を開く。
「ぁっ……」
広々とした空間の中、小さいながらも透き通った声が微かに聞こえ、いるはずのない誰かと目が合う。
冬の空のように澄み渡った瞳だった。
背は俺より頭一つ分、あるいはそれ以上小さく、腰のあたりまで湛えられた髪の毛は濡れているからか、まさに白銀色に輝いて見えた。それに併せて、控えめながら柔らかそうなモノと、白く華奢な肢体が遅れて飛び込んでくる。総じて美少女と呼ばれる部類の西洋人だ。確かフラミィの知り合いの子、だったはずだ。
まぁそれはともかく、うん、やばい色々。
「その、なんというか、まさかこの時間に誰かいるなんて思わなくてだな。これはどうあがいても予想できないというか、まぁ、事故なわけで……」
しどろもどろに言葉を吐き出すと、目の前にいる女の子も状況を把握したのか、次第にその頬が紅く染まっていく。
「いつまで、見てるの……?」
「あっ、おう、そうだよな。ごめん」
控えめで物静かな声が耳をつんざいたので、すぐさま扉を閉める。
即座に着替えると、本来なら脱衣時に入れるための籠に、女の子用の制服と薄水色のシュシュが入っているのを見つけた。何て事だ……これに気付いていればこんな事には。一生の不覚。
もはやなりふり構わず脱衣所を出ると、自分の部屋へと一目散に逃げ帰った。
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