『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!
6 マッシュルームパーティーはヤバイよ!
あたしは、二日寝込んだ。
瑠美ちゃんと瞳ちゃんにはさんざん心配をかけたけど、火曜日にはちゃんと大学に戻った。一年のうちから単位落とせないもんね。
もちろん、お化粧もちゃんとして行った。格好も、ミニスカワンピースって訳じゃないけど、デニムばかりじゃなくてちゃんとスカートもはくようにした。
あたし思ったんだけど、いつも地味なあたしが、ちょっとその日だけオシャレしたってダメなんじゃないかって。やっぱり、いつも可愛くしてないと、本当に可愛くなったって言えないんじゃないかって。
オシャレしただけで付き合えるなんて、そんなの考えが甘かったんだよね。そういうところ、きっと先輩に見透かされてた。だから、ダメだったって訳じゃないかもしれないけど、そう思うことにして、とりあえずあたしは前を向くことにしたんだ。
もっと可愛くなろう。もっと素敵な人になろうって。
先輩のことは考えないようにして。
だって、彼女がいる人なんてすきでいても不毛だし。
だけど、だからと言って、先輩に会って、笑顔でいられる自信なんてなかった。それでも先輩と一緒の授業は一般教養の選択必須科目だから、落としたりしたら、来年に響く。失恋くらいでやるべきこと、全部放り出してられないのが現代人なんだ。
あたしは教室に着くと、不安で緊張しながら、奏多先輩が来るのを待った。
だけど、奏多先輩は授業に来なかった。
初めは気を遣ってくれてるのかな、って思った。
でも、次の週も、その次の週も、先輩は授業に来なかった。一度、講義中に教室を見回してみたけど、あたしに隠れて離れた席に座ってる訳でもないみたいだった。
それどころか、6月の部会にも来なかった。
そんなに、避けなくても、いいじゃん。気まずいかもしれないけどさー……。
あたしだって、最初は会うの怖かったけど、そんなに避けられると、逆にもっと悲しい気持ちになってくる。
奏多先輩は、本来一般教養の科目は全部とってるけど、文学が好きだから、気まぐれで講義を受けてるって言ってたから、授業に来なくても単位的には何の問題もないはずで。
部会だって、あたし達1年が5人入ったから、奏多先輩一人が来なくても、部会として十分やっていける。
大学生活が始まってから今まで、3ヶ月経ったけど、はじめの二ヶ月は毎週先輩と会ってたから、先輩のいない大学が、どこか別の場所みたいに思えて来る。
寂しい。
でも、時は無情に過ぎて行き、あたしたちの大学は夏期休暇に入った。
♡ ♡ ♡
8月頭の日差しがキツイ日だった。
ちょっと早めに部室に来たあたしと、瑠美ちゃん、瞳ちゃんの三人は、ペットボトルのジュースとポッキーを机に広げて、部会が始まるまでの時間をつぶしていた。
「ねえ、梨花、合コン行かない?」
瑠美ちゃんがズバリ言って、あたしは飲んでいた午後ティーでむせた。
「ゴホ、はあ。合コン!? なんでいきなりそんな……。いいよ。そんなとこ。行かない」
あたしが速攻断ると、瑠美ちゃんは不満も顕にポッキーを突きつけてきた。
「なんで、詳細も聞かずに断るのよ。いい!? ただの合コンじゃないのよ、医学部との合コンなんだからね! いいオトコとの出会いあるかもしれないよ!?」
「ええー? 医学部? なんか、堅苦しくて気難しい人が多そう」
あたしが言うと、瑠美ちゃんと瞳ちゃんは溜息をついた。
「あんたねえ、それはないわ。偏見もいいところだし、もし堅苦しくて気難しかったとしても、あいつらは将来金持ちになることを確約されてる。ううん、高い授業料を払えるんだから、今だって金持ちなのよ。医者になって崇拝されるのに慣れちゃう前に捕まえて、上下関係作っとくのが賢いオンナってもんなの。アンダスタン!?」
と、瑠美ちゃん。すると、横に座ってた瞳ちゃんが、
「そうだよ? あんた、オシャレするようになって、可愛くなったんだからさ。もったいないよ。しかも、また痩せたんじゃない?」
と、言いながら、あたしのおっぱいを鷲掴みにしてきた。
「へあっ!? ちょっと!」
慌てて振り払い、自分を抱きしめるようにおっぱいをガードすると、瞳ちゃんはにっと笑った。
「でも、おっぱいはしぼんだ?」
「っ! 違う! これは元からだもん! って、言わせないでよっ!」
片手でガードしながら、瞳ちゃんを叩くと、瑠美ちゃんが、あたしの口にポッキーを突っ込んで来た。
「ほら、これでも食べて、胸に栄養を送るのじゃ」
「もぐもぐ……ごくん。こんなんでおっぱい大きくならないよ!」
「毎日豆乳飲んでるのにねえ」
「おいたわしや」
「うるさいっ!」
あたしが怒ると、瑠美ちゃんと瞳ちゃんはこらえきれずに爆笑した。ひとしきり笑った後、指で涙を拭いながら、瞳ちゃんは口を開いた。
「もう一ヶ月経ったよ。まだダメ? 忘れられない?」
誰を、とは言わなかったけど、あたしの頭には一人の人しか思い浮かばない。
金髪で、いじわるだけど優しい人。
奏多先輩。
あたしは、こくん、と頷いた。そして、照れてしまって苦笑した。
「やだな。なんでだろうね。やっぱ、まだ一ヶ月しか経ってないし」
「一ヶ月も経てば十分でしょ。出会って二ヶ月しか経たずに失恋したんだから。次行こ、次! ぐずぐずしてたらお婆ちゃんになっちゃうよ!」
瑠美ちゃんが言えば、瞳ちゃんも頷く。
「そうだよ。合コン行って、新しい恋見つけなよ。梨花に元気ないと、こっちも調子狂っちゃうよ」
「そんなこと言われても……。そう簡単に気持ち切り替えられるなら、苦労してないよ」
あたしが思わずすねて俯くと、瑠美ちゃんをイラっとさせてしまったみたい。
「ごめん、瞳。やっぱりあたし我慢できない」
「ちょっと、それ今言うことじゃ。だいたい、見間違いかもしれないし」
瞳ちゃんが瑠美ちゃんを止めるようなことを言ったけど、瑠美ちゃんはそれを無視して口を開いた。
「瞳がこの前、彼氏に車で送ってもらう途中、渋谷を通ったらしいんだけど、マッシュルームパーティーに入っていく奏多先輩を見たんだって。横にはステゴサウルスみたいな緑色のモヒカン男がいたって」
「マッシュルームパーティー?」
あたしが首を傾げると、瞳ちゃんが仕方なく、という感じで補足してくれた。
「不良がたむろするって有名なクラブだよ」
「ええ!? クラブ?」
「そう! 他のクラブならまだしも、マッシュルームパーティーはヤバイよ! 奏多先輩は、どう考えても梨花の手に負えるような相手じゃない。もし、奏多先輩が告白OKしてたとしても、あたしは絶対反対! 目を覚まして、梨花!」
瑠美ちゃんが、必死の声であたしに訴えかけてくる。
え? でも、そんなこと急に言われても。
あたしが戸惑っていると、瞳ちゃんも畳み掛けて来た。
「梨花は知らないかもしれないから言うけど、マッシュルームパーティーでは去年麻薬の売人が出没するって噂になってたくらい危険なクラブなんだよ。そんなとこに出入りしてるかもしれない人、やっぱり友達としては心配だよ」
「ね!? 奏多先輩は見た目通り、チャラくて危ない人! だから、もう忘れる! わかった!?」
その時、バタン! と大きな音がして振り返ると、部室の入り口に見覚えのない女の子が立っていた。
ロングの黒髪をふわふわの縦巻きに巻いた巨乳の女の子で、歳はあたし達と同じくらいに見えるけど、すらっと背が高くて、いわゆるモデル体型ってやつだ。
ノースリーブの白いブラウスに、黒のスキニージーンズで大人っぽく決めている。
その子は、あっけに取られて見ているあたし達をきっと睨みつけて、敵意もむき出しに口を開いた。
「蒼井梨花って言うのは、どなたですの!?」
瑠美ちゃんと瞳ちゃんにはさんざん心配をかけたけど、火曜日にはちゃんと大学に戻った。一年のうちから単位落とせないもんね。
もちろん、お化粧もちゃんとして行った。格好も、ミニスカワンピースって訳じゃないけど、デニムばかりじゃなくてちゃんとスカートもはくようにした。
あたし思ったんだけど、いつも地味なあたしが、ちょっとその日だけオシャレしたってダメなんじゃないかって。やっぱり、いつも可愛くしてないと、本当に可愛くなったって言えないんじゃないかって。
オシャレしただけで付き合えるなんて、そんなの考えが甘かったんだよね。そういうところ、きっと先輩に見透かされてた。だから、ダメだったって訳じゃないかもしれないけど、そう思うことにして、とりあえずあたしは前を向くことにしたんだ。
もっと可愛くなろう。もっと素敵な人になろうって。
先輩のことは考えないようにして。
だって、彼女がいる人なんてすきでいても不毛だし。
だけど、だからと言って、先輩に会って、笑顔でいられる自信なんてなかった。それでも先輩と一緒の授業は一般教養の選択必須科目だから、落としたりしたら、来年に響く。失恋くらいでやるべきこと、全部放り出してられないのが現代人なんだ。
あたしは教室に着くと、不安で緊張しながら、奏多先輩が来るのを待った。
だけど、奏多先輩は授業に来なかった。
初めは気を遣ってくれてるのかな、って思った。
でも、次の週も、その次の週も、先輩は授業に来なかった。一度、講義中に教室を見回してみたけど、あたしに隠れて離れた席に座ってる訳でもないみたいだった。
それどころか、6月の部会にも来なかった。
そんなに、避けなくても、いいじゃん。気まずいかもしれないけどさー……。
あたしだって、最初は会うの怖かったけど、そんなに避けられると、逆にもっと悲しい気持ちになってくる。
奏多先輩は、本来一般教養の科目は全部とってるけど、文学が好きだから、気まぐれで講義を受けてるって言ってたから、授業に来なくても単位的には何の問題もないはずで。
部会だって、あたし達1年が5人入ったから、奏多先輩一人が来なくても、部会として十分やっていける。
大学生活が始まってから今まで、3ヶ月経ったけど、はじめの二ヶ月は毎週先輩と会ってたから、先輩のいない大学が、どこか別の場所みたいに思えて来る。
寂しい。
でも、時は無情に過ぎて行き、あたしたちの大学は夏期休暇に入った。
♡ ♡ ♡
8月頭の日差しがキツイ日だった。
ちょっと早めに部室に来たあたしと、瑠美ちゃん、瞳ちゃんの三人は、ペットボトルのジュースとポッキーを机に広げて、部会が始まるまでの時間をつぶしていた。
「ねえ、梨花、合コン行かない?」
瑠美ちゃんがズバリ言って、あたしは飲んでいた午後ティーでむせた。
「ゴホ、はあ。合コン!? なんでいきなりそんな……。いいよ。そんなとこ。行かない」
あたしが速攻断ると、瑠美ちゃんは不満も顕にポッキーを突きつけてきた。
「なんで、詳細も聞かずに断るのよ。いい!? ただの合コンじゃないのよ、医学部との合コンなんだからね! いいオトコとの出会いあるかもしれないよ!?」
「ええー? 医学部? なんか、堅苦しくて気難しい人が多そう」
あたしが言うと、瑠美ちゃんと瞳ちゃんは溜息をついた。
「あんたねえ、それはないわ。偏見もいいところだし、もし堅苦しくて気難しかったとしても、あいつらは将来金持ちになることを確約されてる。ううん、高い授業料を払えるんだから、今だって金持ちなのよ。医者になって崇拝されるのに慣れちゃう前に捕まえて、上下関係作っとくのが賢いオンナってもんなの。アンダスタン!?」
と、瑠美ちゃん。すると、横に座ってた瞳ちゃんが、
「そうだよ? あんた、オシャレするようになって、可愛くなったんだからさ。もったいないよ。しかも、また痩せたんじゃない?」
と、言いながら、あたしのおっぱいを鷲掴みにしてきた。
「へあっ!? ちょっと!」
慌てて振り払い、自分を抱きしめるようにおっぱいをガードすると、瞳ちゃんはにっと笑った。
「でも、おっぱいはしぼんだ?」
「っ! 違う! これは元からだもん! って、言わせないでよっ!」
片手でガードしながら、瞳ちゃんを叩くと、瑠美ちゃんが、あたしの口にポッキーを突っ込んで来た。
「ほら、これでも食べて、胸に栄養を送るのじゃ」
「もぐもぐ……ごくん。こんなんでおっぱい大きくならないよ!」
「毎日豆乳飲んでるのにねえ」
「おいたわしや」
「うるさいっ!」
あたしが怒ると、瑠美ちゃんと瞳ちゃんはこらえきれずに爆笑した。ひとしきり笑った後、指で涙を拭いながら、瞳ちゃんは口を開いた。
「もう一ヶ月経ったよ。まだダメ? 忘れられない?」
誰を、とは言わなかったけど、あたしの頭には一人の人しか思い浮かばない。
金髪で、いじわるだけど優しい人。
奏多先輩。
あたしは、こくん、と頷いた。そして、照れてしまって苦笑した。
「やだな。なんでだろうね。やっぱ、まだ一ヶ月しか経ってないし」
「一ヶ月も経てば十分でしょ。出会って二ヶ月しか経たずに失恋したんだから。次行こ、次! ぐずぐずしてたらお婆ちゃんになっちゃうよ!」
瑠美ちゃんが言えば、瞳ちゃんも頷く。
「そうだよ。合コン行って、新しい恋見つけなよ。梨花に元気ないと、こっちも調子狂っちゃうよ」
「そんなこと言われても……。そう簡単に気持ち切り替えられるなら、苦労してないよ」
あたしが思わずすねて俯くと、瑠美ちゃんをイラっとさせてしまったみたい。
「ごめん、瞳。やっぱりあたし我慢できない」
「ちょっと、それ今言うことじゃ。だいたい、見間違いかもしれないし」
瞳ちゃんが瑠美ちゃんを止めるようなことを言ったけど、瑠美ちゃんはそれを無視して口を開いた。
「瞳がこの前、彼氏に車で送ってもらう途中、渋谷を通ったらしいんだけど、マッシュルームパーティーに入っていく奏多先輩を見たんだって。横にはステゴサウルスみたいな緑色のモヒカン男がいたって」
「マッシュルームパーティー?」
あたしが首を傾げると、瞳ちゃんが仕方なく、という感じで補足してくれた。
「不良がたむろするって有名なクラブだよ」
「ええ!? クラブ?」
「そう! 他のクラブならまだしも、マッシュルームパーティーはヤバイよ! 奏多先輩は、どう考えても梨花の手に負えるような相手じゃない。もし、奏多先輩が告白OKしてたとしても、あたしは絶対反対! 目を覚まして、梨花!」
瑠美ちゃんが、必死の声であたしに訴えかけてくる。
え? でも、そんなこと急に言われても。
あたしが戸惑っていると、瞳ちゃんも畳み掛けて来た。
「梨花は知らないかもしれないから言うけど、マッシュルームパーティーでは去年麻薬の売人が出没するって噂になってたくらい危険なクラブなんだよ。そんなとこに出入りしてるかもしれない人、やっぱり友達としては心配だよ」
「ね!? 奏多先輩は見た目通り、チャラくて危ない人! だから、もう忘れる! わかった!?」
その時、バタン! と大きな音がして振り返ると、部室の入り口に見覚えのない女の子が立っていた。
ロングの黒髪をふわふわの縦巻きに巻いた巨乳の女の子で、歳はあたし達と同じくらいに見えるけど、すらっと背が高くて、いわゆるモデル体型ってやつだ。
ノースリーブの白いブラウスに、黒のスキニージーンズで大人っぽく決めている。
その子は、あっけに取られて見ているあたし達をきっと睨みつけて、敵意もむき出しに口を開いた。
「蒼井梨花って言うのは、どなたですの!?」
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