ひとりよがりの勇者
第十八話 いつかは失う平和の風景
太陽が段々と地平線へ近づき始め、一日の半分が過ぎ去ったことを静かに主張する頃合。人通りも最高潮となり、圧倒的な人口密度を誇る王都の城門を五人の冒険者たちが潜り抜けていた。
冒険者にしては全体的に若く、ヒューマン以外に様々な種族で構成されたそのパーティーだ。非常に珍しい集団である彼らも、さすがにここでは人目を集めることは無い。誰もかれもが、この大通りを突破することに必死なのだ。
そんな人間だらけの通りを変わった冒険者たちは騒がしく、上機嫌に歩いていた。
「よっしゃー! 帰ったぞ!!」
「お仕事終了―っ! 今回は大物だったし、数日はゆっくりしてもいいよね?」
達成感からか無駄に余力たっぷりのブライアンとソラが両手を振り、喜びの叫びをあげる。
「ギルドに報告するまでが仕事ですが……今回ばかりは先に宿へ戻っておいてくださいね。私が一人で手続きはしておくので」
その無邪気な姿を見て、困ったように指摘するのはエルフのセレナだ。彼女は己の長い銀髪を触りながら、今ばかりはソラたちのはしゃぎっぷりに眼を瞑る。
それから隣を歩くレオン、正確にはレオンの背中に視線を向けて、
「エリアスさんがこんな状態ですからね」
「ま、頑張ったのは良かったけど、無茶しすぎってことだな。これを機会に反省してもらおうか」
その言葉にレオンも笑って返すと、肩越しに見える青髪碧眼の少女──エリアスへ視線を送る。男勝りで強気な彼女は、こうして大勢の前でだらしなく背負われているのが屈辱なのか、真っ赤にした顔を懸命にレオンの背中へ隠していた。
その様子からも窺えるように、特段大きな怪我をしたわけではない。ただ、体が自由に動かせないのだ。
“変異種”のゴーレムをエリアスが巨大な魔力で討伐した後、バラバラになった他のゴーレムを掃討。後は剥ぎ取りを済ませて帰還するだけだったのだが、そこで突然エリアスが倒れてしまったである。
意識の無いエリアスを見て、慌てて全員が駆け寄ったのだが特に負傷などは見当たらない。一体何が原因だとセレナが調べた結果、魔力の枯渇という結論に落ち着いたのだ。
それからのことは見ての通り。最低限の剥ぎ取りを終わらせ、意識の無いエリアスをレオンが背負いながら王都への帰路へ。途中で目を覚ましたエリアスとの間で一悶着がありながらも、無事に帰還したという訳だった。
「もういいだろ……! 一人で歩くぐらいには」
「ダーメにゃ。そんな手足ブラブラで、どこら辺が大丈夫なの?」
ソラの指摘にエリアスは何も言い返すことができず、言葉を詰まらせるだけだ。それが紛れも無い事実であるのだから当たり前である。
とは言っても、エリアスは若い少女。体が動かせないほどの疲労が溜まっているのなら、素直に甘えたところで誰も非難はしない。それをしないのがエリアスの個性でもあるのだが。
「とにかく、私が仕事の報告と換金はやっておきますので。先に宿で休んでいてくださいね。あ、ブライアンさんは元気そうなのでご同行お願いします」
「え、いや、俺様はこれから酒を飲むことで忙しいからな……」
「“魔核”だけでも結構な量なんですよ。エリアスさんの看病も、男部屋の整理も、二人がいれば十分ですので、荷物持ちぐらいやってください」
セレナが言い切るのとほぼ同時に、ソラが無言で手元の袋をブライアンに押し付ける。こうして荷物持ちの依頼を強制的に受諾させられたブライアンはしょぼくれた様子だった。もちろんその仕事に報酬は無い。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「はい、“変異種”の討伐ですから報酬は期待して待っていてくださいね」
「ガハハハッ! 酒も飲み放題だな!!」
「ブライアンはそろそろ貯金って言葉を覚えたほうがいいにゃ」
楽しげに言葉を交わし合う冒険者たち。今回の騒動では結局のところ何かが進展したわけではない。エリアスの信念も、レオンたちの願いも、叶ったどころか一歩も前進していない。
ただ、それでも。こうして意味も無く騒ぐのを完全には否定し切れないエリアスがいた。
「体調が良くなったら、何か美味しいものでも食べに行こうか?」
「……肉料理にしろよ」
小声だが、しっかりと要求だけは忘れないエリアスにレオンが苦笑する。
王都の騒がしさは相変わらずで、騒々しく感じることに変わりはない。しかし、その騒々しさを少しは前向きに捉えてみよう。
いつかは無くなる冒険者の日常を噛みしめながら、エリアスもそう考えられるようになっていた。
冒険者にしては全体的に若く、ヒューマン以外に様々な種族で構成されたそのパーティーだ。非常に珍しい集団である彼らも、さすがにここでは人目を集めることは無い。誰もかれもが、この大通りを突破することに必死なのだ。
そんな人間だらけの通りを変わった冒険者たちは騒がしく、上機嫌に歩いていた。
「よっしゃー! 帰ったぞ!!」
「お仕事終了―っ! 今回は大物だったし、数日はゆっくりしてもいいよね?」
達成感からか無駄に余力たっぷりのブライアンとソラが両手を振り、喜びの叫びをあげる。
「ギルドに報告するまでが仕事ですが……今回ばかりは先に宿へ戻っておいてくださいね。私が一人で手続きはしておくので」
その無邪気な姿を見て、困ったように指摘するのはエルフのセレナだ。彼女は己の長い銀髪を触りながら、今ばかりはソラたちのはしゃぎっぷりに眼を瞑る。
それから隣を歩くレオン、正確にはレオンの背中に視線を向けて、
「エリアスさんがこんな状態ですからね」
「ま、頑張ったのは良かったけど、無茶しすぎってことだな。これを機会に反省してもらおうか」
その言葉にレオンも笑って返すと、肩越しに見える青髪碧眼の少女──エリアスへ視線を送る。男勝りで強気な彼女は、こうして大勢の前でだらしなく背負われているのが屈辱なのか、真っ赤にした顔を懸命にレオンの背中へ隠していた。
その様子からも窺えるように、特段大きな怪我をしたわけではない。ただ、体が自由に動かせないのだ。
“変異種”のゴーレムをエリアスが巨大な魔力で討伐した後、バラバラになった他のゴーレムを掃討。後は剥ぎ取りを済ませて帰還するだけだったのだが、そこで突然エリアスが倒れてしまったである。
意識の無いエリアスを見て、慌てて全員が駆け寄ったのだが特に負傷などは見当たらない。一体何が原因だとセレナが調べた結果、魔力の枯渇という結論に落ち着いたのだ。
それからのことは見ての通り。最低限の剥ぎ取りを終わらせ、意識の無いエリアスをレオンが背負いながら王都への帰路へ。途中で目を覚ましたエリアスとの間で一悶着がありながらも、無事に帰還したという訳だった。
「もういいだろ……! 一人で歩くぐらいには」
「ダーメにゃ。そんな手足ブラブラで、どこら辺が大丈夫なの?」
ソラの指摘にエリアスは何も言い返すことができず、言葉を詰まらせるだけだ。それが紛れも無い事実であるのだから当たり前である。
とは言っても、エリアスは若い少女。体が動かせないほどの疲労が溜まっているのなら、素直に甘えたところで誰も非難はしない。それをしないのがエリアスの個性でもあるのだが。
「とにかく、私が仕事の報告と換金はやっておきますので。先に宿で休んでいてくださいね。あ、ブライアンさんは元気そうなのでご同行お願いします」
「え、いや、俺様はこれから酒を飲むことで忙しいからな……」
「“魔核”だけでも結構な量なんですよ。エリアスさんの看病も、男部屋の整理も、二人がいれば十分ですので、荷物持ちぐらいやってください」
セレナが言い切るのとほぼ同時に、ソラが無言で手元の袋をブライアンに押し付ける。こうして荷物持ちの依頼を強制的に受諾させられたブライアンはしょぼくれた様子だった。もちろんその仕事に報酬は無い。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「はい、“変異種”の討伐ですから報酬は期待して待っていてくださいね」
「ガハハハッ! 酒も飲み放題だな!!」
「ブライアンはそろそろ貯金って言葉を覚えたほうがいいにゃ」
楽しげに言葉を交わし合う冒険者たち。今回の騒動では結局のところ何かが進展したわけではない。エリアスの信念も、レオンたちの願いも、叶ったどころか一歩も前進していない。
ただ、それでも。こうして意味も無く騒ぐのを完全には否定し切れないエリアスがいた。
「体調が良くなったら、何か美味しいものでも食べに行こうか?」
「……肉料理にしろよ」
小声だが、しっかりと要求だけは忘れないエリアスにレオンが苦笑する。
王都の騒がしさは相変わらずで、騒々しく感じることに変わりはない。しかし、その騒々しさを少しは前向きに捉えてみよう。
いつかは無くなる冒険者の日常を噛みしめながら、エリアスもそう考えられるようになっていた。
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