ひとりよがりの勇者

Haseyan

第十三話 ひとりよがりの末路

 周囲一面、どこまでも大自然の景色。王都の南に広がるマンダリヤ平原と呼ばれる大草原をエリアスたちは踏破していた。太陽は未だ頭上高くに上がっておらず、日の出とともに王都を出てから既に五時間ほどは足を進めている。
 予定通りであれば、もうじき目的地であるマンダリヤ森林地帯に突入できるはずだった。

「そろそろ見えてくるんじゃねえか?」

「俺たちもこの辺りの土地勘は無いからはっきり分からないけど……地図を見た限りはこの丘を越えたら見えるはずだ」

 レオンが手元の地図とコンパスで地形を再確認する。その作業中の姿に近づき、横から首を突き出し覗き込んでみるが、確かに目的地は目と鼻の先のようだった。
 背中に背負っている荷物と剣のせいで重心が危うくなり、手近にあったレオンの肩へ手をかけていると、ふと視線が交じり合い、

「……なんだ?」

「いやさ、ちょっと近くないか?」

 何を言われているのか理解できず、きょとんとした表情を作る。確かに少々体をくっつけすぎているかもしれないが、背が低い今の体で長身のレオンの手元を覗き込むために仕方がない。
 少し距離を置いたところでソラとセレナが困ったように顔面を手で覆っているのも目に入る。どうして自分が悪いことになっているのか、納得いかないながらもレオンから離れて荷物を背負い直した。

「こいつが悪いんだよ……日帰りの仕事でどうしてこんな大荷物なんだ?」

 ソラに押し付けられた、微妙に少女趣味の混じったリュックサックを摩りながら愚痴をこぼす。魔力を染み込ませ頑丈に作られた革製のそれは通常のものとは異なる点がいくつか存在する。

 どれも冒険者や旅人を助ける機能であり、最も目立つのはショルダーストラップ──肩にかける部位に取り付けられているボタンだ。押した時に反応は実に単純。
 リュックサックが分解され、背中からその場に落ちる。それだけだ。要は危険な状況で少しでも身軽になるための処置である。

 一度分解するともう一度元の状態にするのが中々面倒だった。宿で興味本位に弄り回している時にやらかし、ソラに小一時間責められた記憶が蘇る。

 そんな冒険者御用達のリュックサックだが、エリアスからしてみれば無駄に膨れ上がっていた。
 正直、日帰りで行き来できる距離ならば武器と最低限の食事さえあれば問題無いと、エリアスは思うのだが。

「保険の上から保険をかけて、安全を第一にするのが冒険者だよ。これも、何かの間違いで日暮れまでに帰れにゃかったときの用の野営装備だし」

「仕事が完遂できないだけならまだいいですが……命を失っては後悔すらできませんからね」

 確かに死んでしまった全てがお終い、ということは同意できる。できるものの、ゴーレムの狩り程度で命の危険など感じるわけがない。
『勇者』の時なら当たり前、今の体でも最悪恥も外聞も無く逃げ出せば鈍重なゴーレムに追いつかれるわけがないのだ。

 そうは思いながらも、一応は先輩である彼らにはよっぽどのことが無い限り逆らう気は無いため、従ってはいる。

「お! 森が見えるぞ!」

 正面から大声が響き渡り、目の前の小さな丘の頂上を見上げるとブライアンが腰に手を当てて興奮した様子だ。正確には、何も無い時以上に興奮した様子だ。常にハイテンションでいつも笑っているアホがブライアンと言う人物である。

「保険がなんだとか言っておいて、あっちの方が危険じゃねえか」

「ま、まあ、ブライアンの勘の良さは凄いからにゃ……ああしてるってことはこの辺りに危険はいないってことだよ。……たぶん」

 あの状態で盗賊にでも襲われたら一大事だ。すぐに駆け付けられる距離とはいえ、戦場での数十秒の遅れが即、取り返しのつかない事態になってもおかしくない。
 それを頭空っぽなブライアンが理解しているのか、本音では全く期待していない。

 呆れ顔と苦笑。それぞれ同じ方向性の表情を浮かべて丘を登り、

「へえ、結構大きな規模だ。奥地の方に行けば危険な魔獣も潜んでいるかな」

「……恐らくは。ここもかなり魔力の汚染具合が酷いですから」

 地平線の先まで続いていく広大な森林地帯が視界を覆い尽した。王都の比較的近場にこれほどの森林があるとは驚きだ。
 恐らくは生息する獣や魔獣が氾濫し、周辺の通行に被害ができるのを避けるために、敢えて大規模な伐採などをしていないとは思われる。

「んなことはどうでも良くて……魔力の汚染ってなんだ?」
  
「魔獣や魔物が大量発生してるとは言いましたよね。大陸中の随所で魔力濃度が上昇していることが原因なのですが、ここら一帯もかなり淀んだ魔力が漂っているんです」

「魔力の濃度が高くなった理由は分からないのか?」

「一説によれば、大陸の地下を流れる巨大な魔力の流れ、霊脈に乱れが生じていると言われていますがね。はっきりとは分かっていません」

 結局のところ原因は謎に包まれているということだ。分からないことだらけの解答に、考えても仕方ないと判断。エリアスはすぐに興味を無くす。

 それよりも今は仕事の方が大事だ。手早くこの森林で狩りを終わらせて日暮れまでに王都に戻りたい。

「さっさと終わらせようぜ」

 エリアスが急かすように呟き、レオンが頷く。それを合図に一行は警戒心をさらに高めて、森の中へ姿を消していった。




 ☆☆☆☆




「──前方にゴーレム種が五体。恐らく樹木型のウッド・ゴーレムです」

 セレナの言葉にエリアスたちは一斉に立ち止まると、その場で身を屈めた。
 森に突入してから一時間も経過していないのにこれだ。偶然でないとしたら、魔獣の大量発生は本当ということだろう。

 草影から頭を出し正面の空間を凝視。獲物の姿を探してみるが、

「普通の木が邪魔でよく分からねえ」

「どれかが擬態してるゴーレムのはずだけどね。セレナも分からない?」

「大気の魔力濃度が高すぎて正確な場所までは。すぐ近くにいるのだけは間違いありませんが」

 魔獣という存在は魔力に呑まれた獣や物質の総称であり、魔力に対して一種の中毒衝動に陥っている。奴らが積極的に人間などの高い魔力を持つ生物を襲うのはそのためだ。

 その獲物を狙うため、ゴーレムは普段元々の植物や物質、今回の場合は木々に擬態して潜んでいる。独特の魔力を保有しているため、魔法に精通していれば関知することも可能なのだが、それすらも今の状況では不可能だった。

 高位の魔法使いであるセレナでさえそれだ。元々感知などの小細工が苦手なエリアスにはさっぱり分からない。
 そもそも魔法を使えない他のメンバーはなおさらである。

「ゴーレムとはいえ先に場所を把握しておかないと奇襲が怖い……。弱ったな」

「いつもはセレナに任せっきりだったからな。感知できないとなると困ったもんだ!」

「ブライアン、声が大きいにゃ」

 ゴーレム種はほとんど聴覚を持たないため、特に問題は無いのだがそれでも心臓に悪い。

 そのままの状態で数分ほど、相談し続けるがこれと言った案は挙がらない。まるだ進展しない事態にエリアスは遂に痺れを切らして、

「あーあ、めんどくせえな。これでいいだろ」

 その場で立ち上がると、右手で剣を抜き放った。一体何をするのだとレオンたちが見守り、セレナだけがエリアスが練り込んでいく魔力の高まりに気がついて──

「待ってくだ──」

「おら! ゴーレムども、出てきやがれ『トネール』!」

 そのまま短く詠唱すると、獰猛な笑みをニヤリと浮かべて、空いている左手を突き出す。溜め込まれた魔力が詠唱によって雷へと変換された。
 眩い光と共に魔法陣が浮かび上がると、そこから放たれた雷撃が扇形に拡散するようにして木々を貫いていき──その中の五本が大きく揺れ出す。

「最初からこうしておけば良かったんだよ!」

「何言ってるの!? 魔獣の棲み処でそんな大規模な魔法にゃんて使ったら……!」

「それは後だ! 今回の攻撃の軸はブライアンとセレナ。俺とソラとエリアスは注意を引き付けて……っておい!?」

 レオンの指示が行き渡る前に最速でエリアスはゴーレムの群れに突貫する。いくら今の貧弱な体でも、ゴーレム五体程度に負ける気は全くしない。作戦など、エリアスには不要だ。

 ウッド・ゴーレムは右正面に二匹、左正面に一匹、奥に二匹。ただし、周辺の木々が邪魔して、奥の二匹がこちらに向かってくるにはほんの少しだけ猶予がある。
 それまでに、他を少しでも多く片付ける。

 右正面の二匹が最初の獲物だ。地面から根を引きずり出し、それを足代わりに器用な動きで歩き出す。
 幹が胴体、枝が腕、根が足の形である。それ以外は普通の樹木と変わりは無く、自力で動く力を手に入れた植物と言って間違いはない。

 顔などは存在せず、どうやって世界を認識しているのか。一瞬だけ疑問が頭の片隅を過るが戦闘の高揚感ですぐに洗い流した。

「おらッ!」

 二体のうち、奥側にいた個体に敢えて斬りかかる。剣を振るう瞬間、『強化魔法』によって一時的に強化された腕力で薙ぎ払い、それでもウッド・ゴーレムの表面を僅かに削る程度に収まる。

 そして、足を止めたエリアスに二体のウッド・ゴーレムが動き出した。一体を素通りしたため、前後から挟まれる状況。エリアスに攻撃された方の個体が真っ先に腕代わりの枝をまとめて突き出して、

「エリィっ!?」

「おっと」

 それを読んでいたエリアスは寸前のところで回避し、対象を失った枝がエリアスの背後にいた片割れに直撃した。エリアスを叩き潰すべく枝を頭上高く持ち上げていたウッド・ゴーレムは重心が安定していなかったこともあり、後ろ向きに倒れていく。

 背後のウッド・ゴーレムは行動不能。前方のウッド・ゴーレムも鈍重な体では攻撃後の硬直が絶望的に大きくて、

「死ね」

 溢れ出す魔力の奔流で青髪をなびかせながら、エリアスが短く詠唱。白く細い人差し指がウッド・ゴーレムの幹の中心辺り──魔獣の心臓部である“魔核”を指差した。

 ──直後、指先から放たれた一筋の雷がウッド・ゴーレムを貫く。

 強烈な電撃の余波により、ほとんどの葉を焼かれたウッド・ゴーレムは煙を上げながら沈黙する。体内の奥に存在する“魔核”を今の一撃で破壊したのだ。

『勇者』の力があれば、力技で直接叩き割っていたが、今の貧弱な筋力ではそんなこと到底不可能。
 しかし、ピンポイントで魔法を叩きつければ、今のエリアスにだって止めを刺すことは可能。

 続いて背後に倒れるもう一体にも同じことをしようと振り返って、

「──『風穿』。独断で行動して……後でゆっくり話をしましょうか」

 暴風が巻き起こり、セレナが風穴を開けられたウッド・ゴーレム越しに言い放った。微笑を浮かべてこそいるが眼がまるで笑っていない。その身に纏う魔力も相まって思わず剣を向けてしまいそうになるほどの迫力だった。

「今はこっちが優先だ……!」

 一言吐き捨てるとセレナから逃げるように次の獲物を探す。見れば、ブライアンが単独で左にいた一体へ大鎚を振り下ろしており、奥にいた二体はレオンとソラが抑え込んでいた。
 ブライアンの相手しているウッド・ゴーレムは既に破損が酷く、もうじき地に沈むだろう。ならば、レオンとソラが相手している奥の二体を狙うべきだ。

「もう! 斬れない相手はあたしじゃどうしようもないよ」

「俺もちょっと厳しいな。やれなくはないけど、時間がかかりすぎる」

 二人はお互いに愚痴りながら、二体のウッド・ゴーレムたちを捌いていく。ソラが隙を見て枝を斬り落とし、レオンが少しずつ幹に槍を突き立てていくが大きな成果は上げていない。
 だが、苦戦しているという訳では無くただ膠着状態になっているだけだ。ウッド・ゴーレムたちの鈍い動きに二人が捕まる様子は微塵も無い。

 その二人と二体の間にエリアスは飛び込むと、頭上から振り下ろされる枝を剣で受け止めて見せる。『身体強化』も使っていたが、無茶をし過ぎた彼女の細腕が悲鳴を上げた。

「いって……。おら、後は俺に任せておけ。お前らじゃいつまで時間がかかるのか分かったもんじゃねえよ」

 その痛みを歯ぎしりすることで無視し、剣の腹で巨大な質量を受け流す。再び右腕の骨が軋むの感じ、思わず左手で押さえるエリアスの背中に向かって、レオンが慌てたように叫んだ。

「エリアスなら魔法で止めを刺せるんだろ!? 俺たちが足止めするから君は一歩引いて……」

「魔力の制御は苦手なんだよっ! 近くにいたらまとめて薙ぎ払っちまうぞ!!」

 そもそも味方に気を使って戦うという概念がエリアスには存在しない。接近戦を行う敵と味方を区別して撃ち抜くなんて器用な真似ができるものか。
 腕に多少痺れが残っているがこの戦闘に支障は無いはずである。残り二体の魔獣程度、エリアス一人でも危なげなく倒せる。倒せなくてはならない。

「うおぉっ!!」

 己を鼓舞するように雄たけびを上げ、剣を構えながら跳躍。再び叩きつけられた枝の一撃を飛び越えその上に着地する。
 そのままウッド・ゴーレムの堅い体の上を駆け抜けて枝の根本、幹にまで辿り着く。それと同時にエリアスの剣に雷が迸っていき、

「は!」

 電撃を纏った刺突がウッド・ゴーレムを貫いた。そのまま足を宙に浮かせると剣に全体重を乗せて、ウッド・ゴーレムに突き刺さったまま剣が地面にまで落下する。
 結果、真っ二つに両断された哀れな魔獣は最期の力で僅かに暴れて、それきりただの倒木へと成り下がった。

「あともういった……がぁっ!?」

 これであとは一体だけだ。最後の仕事を仕上げようと再び剣を持ち上げて──心臓から骨身に響く激痛で武器を取りこぼしそうになる。
 またもや、貧弱な少女の体が根を上げだしていた。心臓が鼓動と共に悲鳴を奏でているのだ。

「この弱々しい女の体が……! 少しは踏ん張りやがれっ……俺は、俺はこの程度じゃ!!」

 痛みとは人間のリミッターのようなもの。体の限界を予め知らせるための機能。その警告を無視すれば、良くないことが起きるだろう。
 だが、ここで膝を折っては“少女”の体よりも先に、『勇者』のプライドが傷ついてしまう。そんなこと、エリアスは断じて認めない。

 今度こそ剣を構え直し、目の前でエリアスに目標を定めたウッド・ゴーレムに剣を突き付けて、

「すまんな! 俺様がいただくぞ!!」

 清々しいほどに激しい激突音が正面から放たれ、ウッド・ゴーレムが前めりに倒れていく。痛みから咄嗟に動くことのできないエリアスがあわや下敷きに──直前、レオンが小柄な体を救い上げると素早く安全圏に離脱した。

 レオンの腕の中から唖然とした表情で活動を停止する五体目のウッド・ゴーレムを眺めていると、その影から拳を振り上げるブライアンが現れる。今の一撃も彼によるものなのだろう。
 魔法による補助も無しにゴーレムを一撃で粉砕とは、相変わらずの馬鹿力と言うべきか。

「……降ろせ。男に抱え上げられる趣味はねえよ」

 それを見届けてから、自分がレオンに抱えられていることに気が付くと、身をよじりすぐに地面に足を付ける。その動作をレオンは無言で一瞥して、それから大きくため息を付いた。

「エリアス、一人で先走らないでくれ。何かあったらどうするんだ」

「ゴーレム程度で“何か”なんて無いっての。少しは、ほんの少しだけ苦戦しても俺一人でどうにか……」

「──なってにゃいから言ってるんでしょッ!?」


 少女の叫び声が背後から聞こえ、肩を震わせて立っているのはソラだった。初めて見せる本気の怒りを浮かべて、ソラは尚も続ける。

「エリィ、何をしでかしたか分かってるの!?」

「作戦なんて必要無かったからとっとと動いただけだ」

「あたしたちは仲間だよ! 何でもかんでも一人でやろうとする必要は無いよね?」

 責めるような口調の中にその単語を聞き、エリアスは内心うんざりとした気分だ。仲間なんて、これ以上に胡散臭い言葉などありはしない。どうせ、目の前の少女だって口先だけのはずなのだ。

「逆に一人で全部片付けて何が悪いんだよ?」

 だから、敢えて誘うように質問に質問をぶつけた。ここで本音を聞き出してしまおう。いつものように、規則だからだとか、周りに迷惑が掛かるからだとか、お互いの利益のためにだとか。どうでも良い類の言葉が聞くことに──

「悪いに決まってる……! こんな危険なことしでかして、怪我したらどうするの!?」

 だから、ソラが次の瞬間に叫んだ言葉を飲み込むのに時間を要した。この猫耳少女は今、エリアスの心配をしたのだろうか。信じられなかったが、今のところエリアスの耳は正常だ。
 想定外の言葉にエリアスの思考が停止する。仲間だなんて綺麗ごとを平気で言ってのける連中など、所詮口先だけのはずなのだ。全て嘘でなくてはならないのだ。

 なのに、ソラには嘘を付いている様子は何一つ見つからなくて。真摯に“エリアス”のことを考えてくれていて。

 ──頭痛によってぶれた世界で、ソラと赤髪の少年が重なって見えたような気がした。

「いっつ……!」

「エリアス、どうした!?」

「大丈夫!?」

 激しい頭痛によってそのまま膝を付く。慌てた様子でレオンとソラ、遅れてブライアンとセレナも駆け寄ってきて、

「これは……恐らく魔力の使いすぎですよ。一度森の入り口にまで下がりましょう。さっきのエリアスさんの魔法で魔獣に感づかれたかもしれません。群れで襲われる前に早く最低限の剥ぎ取りだけ済ませて……」

「──残念だけどよ! そいつはちっとばかし、遅かったみたいだぜ……!」

 改めて大鎚を担ぎ上げたブライアンが臨戦態勢を取った。その様子に一同が疑問の視線を向けていき──大地が激しく揺れ出す。
 同時に激しい崩壊音が鳴り響き、慌てて視線を移すと遠い場所で次々と木々が薙ぎ倒されていくのが見えた。その破壊は着実にエリアスたちの元へ近づいており、

「“変異種ミュータント”……っ!? 俺がエリアスを運ぶから、みんな急いで逃げるぞ!」

 圧倒的巨体を誇るウッド・ゴーレムが姿を現していた。異形はそれだけに留まらず、樹木の体はドスの利いた紫色に染まっており、枝の一つ一つが金属のような光沢を放っている。全身から魔法の心得の無いソラやブライアンにも感じられるほどの不快な魔力を醸し出していた。
 葉も毒々しい色に変色していて──何よりも目に付くのは幹の中心やや下側に横一文字に入った亀裂だ。

 撤退を始めようとするレオンたちの前で、その亀裂が大きく開かれていき、

「ギョォオワワアアアアァァァァ!!!」

 聞いた者の戦意を叩き折る奇怪な咆哮を盛大に上げる。それと呼応するように、異形のウッド・ゴーレムの進んできた道を通常のウッド・ゴーレムと、大小の岩石が合わさった姿をしたロック・ゴーレムが大量に追従してきた。

 とても数え切れないほどのゴーレムが冒険者一行に襲い掛かる。香ばしい愚かな人間の魔力に、異形の怪物は歓喜の咆哮をもう一度放った。

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