元神様の異世界放浪記(仮

辛味噌

第34話 これが反面教師か

 薄暗い妖魔の森は夕刻近くになるとかなり暗い。疲労も回復したのかルクスが追撃すると言い出した。一匹わざと逃がしたらしい。

「師匠。わざと逃がしたって言ってるけど、もう半刻も過ぎてるのに追跡できるの?」
 そうアリアが小声で聞いてきた。
「こう鬱蒼とした森だと月明かりも微妙だし追跡の光跡シルバートラックの魔法も使えないだろうし、獣人族アルマーで鼻の利くのでなければ無理だろうな」
 そう考えると人狼族ケーラ斥候スカウトが欲しいな。無い物強請りをしても仕方ないな。
「んじゃ適当に探すって事?」
「向かった方向に歩いていくつもりだろうが、こんな鬱蒼とした森でまっすぐ歩くのは彼らじゃ難しいだろうな」


「何やってるの早く追撃するわよ!」
 アデリンがこちらを見て怒鳴る。早くも何も逃げてから半刻も過ぎてるのに追いつける気なんだろうか?

 松明に火を灯し薄暗い妖魔の森を追跡していて思った。見失いそうになると露骨に痕跡が見つかる。
「これは何処かへ誘導されているな」
 その呟きが聞こえたのかエルナが嫌そうな顔をした。斥候スカウトのアデリンを先頭に追跡しているが、さて連中の薄っぺらい自尊心を傷つけずにどうやって伝えるかね?
「見つけた!」
 ルクス達は松明を持ったまま走り出した。
「この薄暗い中で松明なんて持って移動したら単なる的だろ」

 先のほうで悲鳴が上がり、明かりが地面に落ちるのが見えた。世話の焼ける奴らだ。
「見殺しにも出来ん。いくぞ!」

 走った先では4人がそれぞれ複数の赤肌鬼ゴブリン達に組み敷かれていた。ただ組み敷かれてるだけなら良かったんだが、手にした刃こぼれのした短剣ダガーで何度も突き刺している。じわじわとなぶり殺しを楽しんでいるのだ。
 こいつらの怖いところは戦意が高いときは死を恐れず集団で襲い掛かる事だ。様々な方向から襲われて対処できる戦士は多くはいない。子供並みの体格とはいえ複数で組み付き地面に押し倒されると膂力がそれなりにないと厳しい。
 夢中でいたぶっていてこちらに気がついてないようなのでさっさと処理する。程なくして赤肌鬼ゴブリンどもを処理し終えた。

 メフィリアの神語魔法の重傷治癒キュア・インジャリーの奇跡によって傷は塞がったが、出血も多く暫くは活動に支障が出るだろう。
 だが1人は意外と元気なようで「あんたは下僕のくせにさっさと着いてこないからこんなめにあったのよ。この愚図め!」とアデリンが怒鳴り散らしている。
 ドンは平謝りしているが、元々足も遅かったが荷運人ポーターとして大荷物を背負っている状態で軽装の君らに追いつけとか無理があるだろ。
 こいつら救いようがなさすぎて見捨てた方が良かったかな……。
「すまないがここで野営しよう。明かりは目立つから使わないで欲しい。朝になったら討伐の続きをしよう」
 ルクスがそう言うが、明かりがないとこっちが困るし、それに赤肌鬼ゴブリン赤外視インフラビジョンがあるから気休めにしかならないぞ….。明りがない方が目立たないのは間違いけどな。
「ハハハ….今回は格好悪いところを見せてしまったね。明日は先輩としてきちんと良い所を見せるよ」
 そういって先に休んでしまった。結局見張りとか面倒事はこっちに丸投げかよ。


 野営地にしてはひどい環境だ。季節的に温かいので寝袋か毛布に包まるかするしかないな。その前に一仕事だ。周囲に魔化エンチャントメント済みの銀片を一定間隔で撒いていく。
「我は綴る。統合。第2階梯。陣の位。月明、陣地、侵入、警報、発動。星の加護スター・ワード
 侵入者対策の魔法を用意した。ただこの妖魔の森でこれだけでは不安なのでもう一つ魔法を使うことにする。
「我は綴る。統合。第9階梯。縛の位。捕縛、侵入、感電、麻痺、網目、不可視、発動。雷鎖網ショックアレスト
 魔法は発動したが侵入者が来るまでは発動しない。余程の大物が来ない限りはこれで十分だな。

 戻ると光源ライトによる白っぽい明りで野営地は照らされていた。簡易釜戸をまで作ってある。鍋にはシチューが煮込まれていた。
 ルクス達を指さし「アレは大丈夫なのか?」そう聞いてみる。

「念のため深き眠りの雲ディープスリープ・クラウドをかけたから朝まで起きることはないわ。私とかヴァルザスやエルナは精霊魔法を使える恩恵で意識すれば赤外視インフラビジョンで周囲が見えるけど、残りの3人は真っ暗闇なのよ。明かりを灯さないわけにはいかないでしょ?」
 メフィリアはそう言ってお碗を差し出す。この状況下で熱いシチューとかなぁ……と思いつつ礼を言って受け取る。

「今回は阿呆な冒険者の生きたサンプルを見せる事が出来て、ある意味組んだ甲斐はあった。ただ君らに余計なストレスを与えてしまったのも事実でそれに関しては済まないかったと思う」
「大丈夫です。これは実地訓練ですからこういう事態もあるという事ですよね?」
 瑞穂の気遣いが正直言って嬉しい。内心はお嬢さん方は結構怒ってるんだろうなとは思っているが….。
「ある程度の安全を確保してあるんで丁度いいから夜営の訓練をしよう。ドンを含めて6人いるし3人ずつで2交代で見張りをしよう」
 パーティの疲労状況や人数などでも変動するが基本的に斥候スカウト野伏レンジャーとそれ以外で組む。魔法使いスペル・キャスターは見張りに参加しない場合も多いなど一通り説明し前半組をエルナ、アリア、瑞穂に任せる。
 訓練と言っても単に交代で見張るだけだし防御策も取ってあるからよほどの大物が来ない限りは問題ないとは思うが、妖魔の森は油断大敵だからなぁ…….。

 調べて判った事だがルクス達は誘い込まれた先に上位種の赤肌鬼呪術師ゴブリン・シャーマンが居たと思われる。彼らは精霊魔法の転倒スネアーで転ばされたところを木の上にや物陰に潜んでいた赤肌鬼ゴブリン共に一気に襲われたと思われる。迷宮宝珠ダンジョン・オーブで作られた遊技場的な迷宮で戦い慣れた冒険者がこの手のミスをよくやらかしていた。
 行動パターンも戦術も一定のパターンしかなく不意打ちなどもあまりない。
 育てる以上はルーチンワークをこなすだけの似非冒険者にだけはしたくない。最初に西方地方に向かわなくて正解だったかもな。あっちは至る所に迷宮宝珠ダンジョン・オーブばかりだし。

 とりあえず一眠りしよう。







「元神様の異世界放浪記(仮」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く