元神様の異世界放浪記(仮

辛味噌

第20話 女性の買い物は恐ろしい(金銭的に

 乗り合いの魔導客車マギ・ビーグルで富裕層の住む区画に移動しマネイナ商会の総合商店への道すがら尋ねてみた。
「本当に身体の方はなんともないのか?」
 俺の心配は無理な魔法強度アップで体内の魔術回路の具合が気になる。魔法が使えなくなったから価値がないとか言う話ではなく、背中を預けられる存在か単なる庇護対象としてみるかと言う話だ。価値は変わらないが生活様式は検討しなければならない。

 メフィリアは顎に人差し指を当てて少し思案する。
「暫くは魔法は禁止かな。特に負荷のかかる真語魔法は控えるね。後は……うん。異常ないよ。気絶しちゃったのは魔術回路が限界超えちゃったからだし。ちょっと予想を超えちゃった」
 いま一瞬だが間があったぞ?人の器で神の同等以上の力を使う。普通はそのまま昇天コースだ。それをちょっとと称した。間違いなくかなりの負荷が掛かってる。弱音を吐いたときは、たぶん手遅れに近い状況だろうから俺も気合入れなおすか。負荷を減らしてやらないとな。
「意地っ張りめ」
 思わず口に出た。
「何の事か判らないなぁ」
 あくまでも惚ける気らしい。
「暫くは身元の保証をしてくれる冒険者ギルドに世話になる、軽い依頼を受けつつのんびりしよう」
「騒動好きのヴァルザスがそんな生活にいつまで耐えられるかな?フフフ」
 左手で口元を隠し笑う。別に騒動好きじゃないぞ。勝手に騒動が寄ってくるだけだ。

 後ろで女三人がこそこそ話しているが聞こえてるぞ。
 君らの好意は察するに余りあるし、爛れた関係も魅力がないとは言わないが……。とりあえずメフィリアを除いて、その位置に落ち着きたいとか言わないから聞き流してやるが……。
 でもさ前世でお互い惹かれあったけど、最後の最後でやっと口付けだけだぞ。転生して記憶が戻って10年もお預け食らって、再会したらこんなにちんまいとかさ……。暫く二人の世界を築いてもいいじゃん。流石にちんまいメフィリアをベッドに連れ込んで時間も忘れて快楽の海で溺れさせてやりたいとかほんのちょっとしか思ってないぞ。
「イタタ……」
 ちんまいと思ったあたりで絡めている腕を抓られた。

 こちらに向かってくる一団が俺らの進路上に割り込んできた。街中で統一性のない武装集団なんて冒険者くらいだ。この手の輩が冒険者はゴロツキ集団と未だに揶揄される原因でもある。真面目に仕事してる冒険者さんに土下座しろと言いたい。
「お兄さん。ずいぶん可愛い方々を侍らせてますが、俺らにも分けてくれま……ぶへっ!」
 突然5メートルほど吹き飛んでいった。俺の放った魔力撃ブラスターだ。単に魔力の塊とも言うんだがね。
「ヴァルザス。まだ相手が話してるのに失礼だよ」
 突っ込むところはそこなのか?
「下手にでれば調子に乗りやがって!」とか「ギタギタにしてやんよ」など聞こえるが、誰も吹っ飛ばされて倒れ付してる彼の安否は気にしないのか?面倒なので少し意識して殺意を放つ。
 途端に固まり冷や汗を浮かべてガタガタ震えだす。そのまま歩き始め通り過ぎるが反応がない。今程度の殺意であの反応じゃギルド内の階梯ランクも低く先行きがないタイプか。

「こんな街の往来でお漏らしとかいい歳の男の人なのに……」「ママ。あの人漏らしてるよ」「こら、見ちゃいけません」など聞こえる。

 後ろから付いてくるお嬢さん方に特に問題はないと言うことは、あの冒険者風の奴等が雑魚過ぎただけか。それどころか
「ボク、師匠があんな穏便にやり過ごすなんて初めて見たかも」とか「私も何人か首が宙に舞うんじゃないとかと」とか聞こえる。

 その後は特に問題なくマネイナ商会の総合商店に到着した。約束の時間まではまだあるし、先に買い物を済ませるか。
「今日は装備は買わない。日用品、衣類限定。暫くは宿屋暮らしだから買う量は程ほどにな」
 そう宣言して中に入る。一階は食料品を取り扱っているから今回はスルー。昇降機があるので女性向けの品のある5階へ。
「なんか私が居た元の世界と余り差異を感じなくて……異国感はあるけど、異世界感はあまりないですねぇ」
 瑞穂の感想だ。この都市だけは他所とはまるっきり世界が違う。度々異世界から人が来て自分たちが住みやすいように文化的侵略をしていった結果だ。
 元々魔導機器も魔法に長けた瑞穂と同じ世界の人が作り出したと言う話で、向こうの世界では電化製品だったか?

 ココでの生活に慣れると他の土地では住めないと言う話も判らなくないくらい物が揃っているし衛生面でも優れているし、衣食住の充実振りも凄いし、そして価格が他所より安い。この都市が市民権の審査を厳しくしているのも流入者が多い事もある。是非この街で住みたいと言う者が後を絶たないらしい。
 女性陣4名は波長が合ったのか、出会って大して時間もたってないのに既に仲がいい。険悪や無関心よりはいいが……。
 家を建てる事は知っているので、それを見越してあれこれ悩んでいるようだ。男所帯の長い俺にはそのあたりはさっぱりだ。相棒ならそのあたりも無難なアドバイス出来るんだろうけど、頭を振って別件の思案に耽ろうとしていた俺をメフィリアが呼びにくる。

 手を引かれていくつかある床に置かれた買い物かごを見てその分量の多さに絶句した。
「これ全部買うのか?」
「「「「勿論」」」」
 こいつらハモりやがった。どれだけ買う気だよ……。
 なんか最初は底辺生活から慣らしていってとか考えていたけど、もうどうでもいいや。非常時を考えればとか思っていたが俺が守ってやれば済む話だ。
 会計を済ます。
「合計で4535ガルドになります」
 店員さんがにっこりと言う。俺の聞き間違いだろうか。底辺冒険者の食費一年以上だと…….。
 俺は各種錬金術で稼げるから金には困らないが、金遣い荒くないか?これが女の普通なのか?そういう価値観ってことで納得しておこう。しておこう……。
 支払いを済ませて、荷物は時空収納インベントリへ。昇降機で7階へ。ここは女性用の衣服専門フロアだそうだ。存分に楽しんでおいでと思い、あれこれ思案しようかと思ってたら、またもやメフィリアに手を引かれて売り場まで連行された。


 結構地獄だ……。試着室から何度も出て来るたびに感想を述べるのだが、正直言えば素材….この場合メフィリア当人が良すぎて、似合わないものを探せと言うほうが難しい。おのずと感想も単調になる。彼是四半刻はこんなやり取りが続いている。他の3人も見て欲しいと顔に書いてある。ここは地獄の一丁目か……。

 その地獄の合間にこれだと思う衣装を見つけた。嫌味にならない程度の飾り布に銀の刺繍の白地のワンピースに白地に同じような銀糸の刺繍のケープ、白い革のショートブーツに赤い小さめのリボンがワンポイントの白地のベレー帽をこそっと店員にお願いして包んでもらう。金額は結構張った。2200ガルドですって言われたときは女性の冒険者の金遣いの荒さはこの辺りにあるのかと思った。こっそり時空収納インベントリへしまう。メフィリアには白が合う。別に緊急時に脱がして幻影地図ファンタズマル・マップの触媒にしようとかは考えてはいない。脱がすときはベッドの上だ。

 旅用と平時用で服を分けてるのか結構時間が掛かっている。
 エルナは森霊族エルフらしく起伏はあまりないがスラリとした肢体は大変美しいと思う。色気があるかは別だが。平時の衣装も旅用のも同じようなものが多い。アンダーバストで切り替えて裾までふわりと広がった膝上15センチくらいのチュニックで統一している。細かいデザインは違うが色合いは緑系ばかりだ。あとはショートブーツをいくつか見繕っている。

 アリアは普段が重武装だった反動なのか平時の服装は割と性的なアピールの大きい衣装が多い。その肢体も起伏があり、特に胸はかなり大きい。その胸を強調する上着にスカートも膝上20センチと結構悩ましモノを選択する。この一年で特に色気が出てきたから時々目のやり場に困る。そのあたりを自覚しての選択だとしたらちょっと困るな。

 瑞穂はフリルだのレースだのがふんだんに使われたワンピースばかり選んでいる。高谷の知識から適当な言葉を捜すとゴスロリ系というのか?向こうの世界じゃ悪目立ちするから着れなかったそうで憧れてはいたらしい。旅向けの衣装は逆にシンプルだ。靴は以前買ったのがあるからなのか今回は遠慮したようだが一足買わせた。

 半刻ほどしてようやく全員まとまったし恐怖の会計だ。
「9250ガルドになります」
 にっこり告げた。女性の買い物マジ怖いわ。服だけで一人7着以上買ってるし……でも買いすぎとも言えなんだよな。街中で着る用と旅路で着る用になるしな。単純に富裕層向けで単価が高いだけで。
 会計を済ませ品物を時空収納インベントリへしまう。次は男の浪漫であり魔境な8階の女性用の寝巻きや下着売り場だ。出来れば辞退したいが連行された……。


「元いた世界と種類とかデザインとか似通ってて安心しました」
 瑞穂の感想だ。そういえば前の世界は下着事情はあまりよくなかったな。そのせいかアリアがやけに興奮している。これだけ色とりどりでデザインも種類も豊富だと確かに観賞用としてはアリだな。

 どんな下着を買うか興味はあるが、見知らぬ恰幅の良いご婦人達の視線が痛い。別に貴女方が何を身につけようと興味はないし見たいとも思わないのだがな。
 気になるうちのお嬢さん方は黄色い声を上げつつ物色している。展示品はサンプルらしく試着やら購入時は倉庫から持ってくるようだ。試着した品はたぶん裏で洗濯クリーニングの魔法を行使するんだろう。魔術師は才能が乏しくても就職先には意外と困らない。

 今後の予定を頭の中で再調整しつつぼんやりと売り場を眺めているとエルナがあれこれと手にとっては唸っている。その布面積の少ない下着とか透け透けの下着とか何処とは言わないが穴が開いてる下着とかセクシー路線と言うかもう痴女路線だろそれ……。上位森霊族ハイエルフの華奢な肢体にエロ成分は皆無だと思うのだが……。

「凄いよ師匠!見てよこれ!ボク感動しちゃったよ」
 そういって態々下着を見せに来る馬鹿弟子アリア。元いた世界は確かに下着事情は酷かった。その反動なんだろうけど、いちいち見せに来なくてもいいぞ。 というよりおまえは一体いくつ買うつもりだ!

 メフィリアと瑞穂はこそこそしててよくわからない。気にはなるが魔術師の眼ウィザード・アイを飛ばしてまで確認したいかといえばそうでもないし……。
 しかし女性の衣装や下着は色とりどりで豊富だが反面男物は少ないんだよな。異邦人のデザイナーが男物なんてどうでもいいんだとか言ったとか言わなかったとか。
 富裕層向けとはいえ女性用下着上下セットで150ガルドが平均価格とか眩暈がする価格だ。四半刻ほどしてようやく会計らしい。
「6500ガルドでございます」
 店員さんがにっこりと眩暈のするような価格を提示した。纏め買いのつもりなんだろうけど買いすぎじゃないかね君たち。会計を済ませ既に袋詰めが終わっている袋も時空収納インベントリにしまいこむ。

 程よく時間を潰す事もできたようで約束の時間まであと少しと言ったところか
「ヴァルザス様。お迎えに上がりました。準備の方が出来てますので事務所の方へどうぞ」
 マネイナ会頭の秘書が態々迎えに来た。


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