元神様の異世界放浪記(仮

辛味噌

第10話 まさかの襲撃

 慌しく兵士たちや冒険者達が走り回っている広場で二人してパンケーキを頬張っている。イチゴソースを堪能しているが時々俺の持つ生クリームのほうにも視線がいっている。目が合うと餌を強請る雛鳥の如く口を開けて待つので生クリームをたっぷりつけて口に放り込んでやる。
 外の状況でも確認するかと略式で魔術師の瞳ウィザード・アイを発動させる。半透明の球体が上昇していき、周囲を見回す。
「あ、これは流石に慌てる訳だ。豚鬼オークの分際で魔導従士マギ・スレイブなんぞ操ってるのがいるな」
 鹵獲品だろうけど、居ると居ないでは戦力がかなり違う。数は3騎か……。簡易生産型の開放型と呼ばれる騎体で、箱に手足を取り付けたような形状である。開放型と言うように胴体….この場合は操縦槽が背面と上面が開放と言うかないためにそう呼ばれる。しかし誰が豚鬼オーク魔導従士マギ・スレイブを提供したんだ?
「どうするの?手出ししなくてもなんとかなりそう?」
 生クリームやらイチゴのソースを口元につけたままそう聞いてきた。それを指で拭って自分の口に含む。それを見て恥ずかしそうに頬を染める。
「この街の守備隊の戦力もそれなりに揃ってるはずだから、俺らが出張る必要はないかな」

 ま、気にしても仕方がない。それより大事な話をしなくては。
「実は書類上だが娘が出来た。成人したら契約は終了するがあと二年ほど俺の娘という扱いになる」
「これからの旅にも同伴するの?」
「連れて行くつもりだ。メフィリアを冒険者ギルドで登録した後に紹介しようと思っている」
「私のひとつ年上かぁ……仲良くやっていけるかな?」
 そこは何とか頑張って欲しいかな。
「取り敢えず食べるもの食べたしギルドへ行こう。たぶん今なら冒険者が出払ってて受け付けも空いてるはずだ」
 周囲は豚鬼オークで慌ただしいが、見た感じだと簡易型魔導従士マギ・スレイブ3騎に豚鬼オークが100匹程だったか?気になるのは装備が結構良かった事だろうか。まさか負けるとは思えないけどな。門も閉じられてるし街の人々も落ち着きだしてきている。そんな状態を眺めつつ冒険者ギルドへと向かう。



 予想通り冒険者ギルドはガランとしていた。豚鬼オークは討伐報酬もそこそこな金額だが、普段は大都市近くまで現れることは稀で、このような機会に稼いでおきたい冒険者が多いんだろう。登録そのものはあっさり終わった。受付で未成年は~と説明されたが、前の世界も含めれば3回目だし適当に聞き流す。

「そう言えば何ができるか確認取ってなかったがメフィリアは魔法使いスペルキャスターで問題ないよな?」
 人差し指を顎に当てちょっと考え込む。
「うん。一応、武器の取り扱いも習ってるけど三人に比べると心許ないだろうしね」
「一応訓練はしたのか。実際には何が使える?」
「これかな」
 そういって何もないところから小剣ショートソードを取り出す。長さセ60センチ程で小剣ショートソードにしてはやや小型に分類される。非力な彼女が使うならそんなものか。魔力のオーラがうっすらと鞘の隙間から漏れているあたり魔法の工芸品アーティファクトだ。じっくり見ると内包する魔力が凄い。最低でも準伝説級セミ・レジェンダリだ。
「自衛出来れば問題ない。どうせ避けきれないのは多重詠唱マルチ・キャストで防御魔法を使い対処するんだろ?」
「うん」
 時空収納インベントリから指輪リングを取り出す。
「これを身に着けて欲しい」
「まぁ。婚約指輪はまだ早いと思うの」
 右手で口元を隠しクスクスと笑う。
「分かってて言ってるだろ?」
 メフィリアの左手を取り中指に指輪リングを嵌める。
「この守護の指輪プロテクション・リングは最後の防壁になるから伝説級レジェンダリを用意した。それだけで鋼の甲冑並みの防御性能がある。魔法は失敗のリスクもあるから最後の砦だ」
「別に薬指でもいいのよ?」
「それは成人したらあらためて用意するよ」

 ギルドを出て中央通り沿いのそれなりに高級な宿屋に戻ると玄関口で瑞穂と遭遇する。手間が省けた。瑞穂は俺とメフィリアを交互に見て何か言いかけた。
「紹介と今後の話をするから食事でもしよう」
 相棒とバルドも呼び宿屋併設の食堂で夕飯を共にする事にする。しかし豚鬼オークの集団が来ているのに危機意識が欠けているのだろうか?普通に営業してるし。普通は市壁は大扉を閉ざせば簡単には破られないし、守備隊にも魔導騎士マギナイトがいるし、これで街に侵入されたら無能過ぎだろ。

 夕飯のメニューは鶏肉のクリームシチューにサラダと柔らかいパンだ。自己紹介と今後の方針を話、一番気にしていた瑞穂の動向だがこの街や同じ異邦人である仲間には興味がないのか明日から我々と行動を共にすることとなった。
 食事も終わり明日の支度でも思ったその時……爆発音が響き渡った。中央通りに出てみると周囲は慌ただしい。のんびりと魔法を唱え始める。
「我は綴る。付与。第四階梯。創の位。視線、浮遊、移動、探索、発動。魔術師の眼ウィザード・アイ
 球体が浮かび上がり周囲を見渡す。
「うわ、北門が破壊されてるぞ」
 豚鬼オークが駆っていた魔導従士マギ・スレイブが三騎とも失散している。自爆兵のようだ。街の守備隊の魔導騎士マギ・ナイトや配下の魔導従士マギ・スレイブは巻き込まれて大半が大破ないし中破という惨状である。冒険者にも死傷者が出ているようだ。討ち減らされたとはいえ40匹近い豚鬼オークが街へ雪崩込んできた。豚鬼オークは知能は低めだが、人並みの身長と人以上の膂力に全身を厚い皮下脂肪で覆われていて結構タフだ。軽装で軽量の斥候スカウトあたりじゃ足止めできないようで中央通りを獲物を求めて移動してくる。冒険者達は遅滞防御が精々のようだ。足止め要員の盾戦士タンカーが不足してるのが原因のようだ。乱戦になりつつ少しづつ押し込まれている。
「さてどうしたものか?」
 思案していると….。
「斬り込むぞい」
 平服に戦斧バトルアックスを担いだバルドが走り出した。
「お先に」
 相棒も2本の愛剣を抜き走り出す。
「私の出番かな?」
 金の鈴を鳴らしたような可憐な声音で詠唱を始める。乱戦状態でどういう魔法を選択するのか?
「我は綴る。付与。第1階梯。衰の位。鈍化、弱体、鈍刃、拡大、発動。威力減衰ブラントウェポン
 魔法が完成すると豚鬼オーク達の武器に魔力のオーラが纏う。このオーラが武器の威力を鈍らせる緩衝材代わりとなる。単体を標的にする威力減衰ブラントウェポンを40匹近い豚鬼オーク達に同時にかけるとか相変わらず規格外だな。
「我は綴る。八大。第3階梯。与の位。火炎、維持、増強、炎撃、拡大、強化、発動。火炎付与ファイアウェポン
 続いて完成させた魔法によって応戦していた冒険者60人ほどの武器から炎が吹き上がる。驚いているのもいるようだが、誰ともわからない援護を受け気炎を上げて盛り返していく。

 どちらの支援魔法も本来は単体を目標とし、数が増えればそれだけ術者に負荷がかかるわけだが、ケロっとしてる。俺でも出来なくはないが、流石に遠慮したい数だ。
「これで最後かな」
 そう呟くと……。
「我は綴る。付与。第1階梯。与の位。回避、流動、不可視、魔盾、拡大、強化、発動。不可視の盾シールド
 魔法が完成すると豚鬼オークが外れるようになった。
「お仕事終わりっと」
 くるっと振り返りにこりと笑みを浮かべる。
防御膜プロテクションは掛けないのか?」
 人差し指を頬にあて少し考え込む。
「素人でなければこれで十分だと思うなぁ」

 相棒とバルドが乱戦エリアに到着すると勝負は決した。一振りごとに豚鬼オークの命を刈り取る2人に、支援魔法で戦闘力の上がった冒険者たちの猛攻に耐えきれる訳がないか……。

「いらん干渉は避けたいからさっさと部屋に戻ろう」
「うん」

 宿屋の玄関口で瑞穂が呆然としていた。
「私……皆さんに追いつけるんでしょうか?」
「何事もすぐに成果は出ないもの……。私で出来る事ならいくらでも相談に乗るよ」
 瑞穂の呟きにメフィリアがそう返す。
「部屋に戻ろ」
 瑞穂の手を掴んで中に入って行ってしまった……….寂しい。

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