自分価値

陰東 一華菱

最後の言葉

「遅くに申し訳ありません。実は息子が風邪を拗らせてしまい現在38度の発熱がありまして、旦那も明日は忙しくて休めず、母も明日から旅行に行くと言うので息子の世話を頼める人がおりません。こんな時に度重なるご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ないのですが明日はお休みさせて頂けませんでしょうか?」

 私はまた何か言われてしまうと怯えていたが、それでも言わなければならない事だと、梶谷さんにそうメッセージを送った。
 それから2時間ほど経ち、ようやく返事が返ってくる。

「貴女のミスの処理、どうするのかしら? 5月2日と10日で、必ず終わらせて下さい!ノートに書いておきますので、決して「やったふり」はしないで下さいね。
 1度も私に対して謝罪もせずに、辞めていくんですね。事実なら、息子さん、お大事に」

 そのメッセージに、彼女は私が嘘を言っていると思っていることが良くわかった。

 何でこんな嘘を言わなければならないのか。

 この文面を見た瞬間、腹が立つやら悔しいやら、また涙が滲んでくる。
 それでも事実。嘘はついてないのだから、仕方がない。

「色々と申し訳ございません。きちんと、落ち着いて対処させて頂きます。
 梶谷さんにはきちんとお会いしてこれまでの多大なご迷惑と失礼な事をしてしまった謝罪と、私の至らない点を的確にご指摘頂いた感謝をするべきだと思っています。後日改めて謝罪しに伺います。本当に申し訳ありません」

 そう送ると、待っていたかのようにすぐ返事が返ってきた。

「以前にも伝えていた事ですが休みたいならば、ご自分で院長に許可得て下さい。そして、その結果をスタッフ、つまり私に報告して下さい。これが常識的な流れです。私からは院長には、何も言いません」

「分かりました。後程連絡を入れさせて頂きます。申し訳ございません」

 そのメッセージにも、彼女はすぐに噛みついてきた。恐ろしいほど感情直結で思い込みの激しい人だと感じざるを得ないメッセージだ。

「言われなかったら、自分で院長に連絡しなかったの? 以前にも言っているのに? 本当に常識ないのね!? 今日、月末〆で、GW前日って知ってるかしら? 何から何まで、言わないと出来ないって、全く信じられません! ご近所のお姉さんにもお願いしたんですよね⁉」

 具合の悪い子供を、他の人に押し付けてまで出てこいと言う彼女の神経を疑ってしまった。
 自分も、もう成人したとは言え子供がいるだろうに、これが自分の事だったらどうしたのだろうかと思った。

「いえ。院長に連絡は最初から入れるつもりでした。
 姉にも確認しましたが、姉は昼は店があり、さらにモデル事務所も立ち上げているのでそちらも忙しく、難しいとのことです。本当にすみません。連絡を入れます、というのは、梶谷さんに、と言う意味合いでした。言葉足らずで申し訳ありません……」

 ムカムカとした気持ちでそう送り返すと、その事に関しての返答はなかった。
 ちなみに、姉がモデル事務所を立ち上げていると言うのも事実である。決して嘘は言っていない。

 私もバカじゃない。一度言われた事は分かっているし、世間一般的な常識は持っている。人がちゃんと順序立てて事を運ぼうとしている事などそっちのけで、人を非常識だなんだと叩いておきながら、私が返した真っ当なメッセージに対して何もないと言うのは、それこそ如何なものか。

 崩れかけていた自信を、周りの人達の支えによって僅かに取り戻し始めた私は、ムカムカとした気持ちを抑えて先生に連絡をとり、許可を得た連絡を入れると、返ってきた彼女のメッセージで、完全に私の中で彼女との関係は終わった。

「だから?」

 この一言は、何なんだろう。

 それを見た瞬間、彼女のSNSにブロックをかけた。
 これ以上彼女の文面など見たくもないし、事故防衛のためにも見ない事にする。
 佐山さんのSNSもやはりブロックをかけた。
 もうどちらとも連絡を取りたくはないし、私の中では終わった人達だ。

 謝る事をやたらと要求してくる梶谷さんだが、理不尽な思いとあらぬ疑いをかけた私に対しても何もないのだから、お互い様だ。これが非常識であると言うのかもしれないが、謝ろうとしていたタイミングも、頑張ろうと立ち直り、やり直すチャンスすら与えてはもらえず潰してきたのは、彼女自身だ。

 手元に来たこれらのメッセージは、全て証拠として抑えておく。消してなどやらない。
 そう思い、悔し涙が滲む目元を拭った。

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