自分価値

陰東 一華菱

戻る場所

 「戻ってきな? 戻って来た方がいいよ。皆で和気あいあいと楽しく働こう? 今ならまだ戻れるし。ちょっと血迷ったけど、戻りますで大丈夫だよ。そもそも、こっちも人足りてないし」

 園長先生に話を聞いてもらってからは、このモヤモヤとした気持ちを誰かに少しでも話を聞いてもらいたくて、コンビニの仲の良い仲間にこの話をしてみた。
 すると、自分にとって願ってもない言葉をかけてもらえた。

「全然構わないですよ。まだ誰も入ってきてないし。誰か入ってたら難しかったでしょうけど、今は全然大丈夫」

 一度は辞めると言っておいて、また都合良く戻るとは、なんてワガママで自分勝手なのだろう。

 そう思いはしたが、また新しく仕事を探し直すのもしんどいし、実際収入がなくなるのは困る。
 苦手な人もいるが、梶谷さんたちに比べれば全然問題などない。

 私は多大な迷惑をかけてしまった事を店長に謝罪し、もう一度復帰させてもらえるようお願いをした。

「オッケー! ついてきな!」

 快く受け入れてくれた店長や仲間に、本当に感謝してもしたりない。
 戻れる場所がある。受け入れてくれる場所がある。それがなんて有難い事か、身に染みて感じた瞬間だった。

 それから、コンビニの仕事に戻ると旦那にいうと、最初は呆れられはしたものの、日頃の私を見ていたせいか仕方がないと了解を得た。




「分かりました。取り敢えずこちらのことも少しは考えて頂いて、次のシフトも出てることですし、意思表示から最低1ヶ月はいてもらいたいので5月15日か5月いっぱいまでか、どちらがいいですか?」

 クリニックの仕事を終えて、院長に2度目の辞める先月を告げると、彼はそう言ってきた。
 5月いっぱいは考えられない。15日まで働くのも嫌だった私は、思いきって4月いっぱいで辞めたい、と言うと院長は狼狽えた。

「4月いっぱい? いやいや……ちょっと待って下さい。言いましたよね? 次のシフトが出てるって。取り敢えず他の二人にお聞きして、それからまたどうするか連絡します」

 院長は笑いながらそう言って来た。

 笑いながら言うこと? こっちは切羽詰まってると言うのに。クリニックの雰囲気が悪くなっていることに気づいてないの?

 その院長の態度に、また嫌な気持ちになった。

 翌日には返事があり、2日の午後と10日の午後だけは出てほしいと言われ、渋々それを了解する。

 半日だけなら我慢できるだろう。一人だし。

 そう思ったものの、正直私が何かをすれば必ず苦情が入るので、半日も出たくはないのが本音だ。しかし、仕方がないと半ば諦めた。

 これが4月11日頃の事である。

 落ち込んだり浮上したりの毎日を繰り返す中、4月末に梶谷さんと二人で月締めの作業をしなければならない日が目に留まる。

 嫌だが、この日だけなら何とか我慢して頑張ろう。

 そう考えていたものの、運がいいのか悪いのか、その日の前日に息子が風邪を拗らせ、熱を出してしまったのである。

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