自分価値

陰東 一華菱

にわかな喜び

 結論からすれば、私はその状況から逃げたのと同じ意味を持つ。だから彼女には一言もその話をせず、週に3日働いていたところを大幅に削ってもらい、週1回、彼女とは組まない曜日に入る事にした。

 次の仕事先を探していた。
 私は以前、医療関係の仕事についていたので、せっかく持っている資格を活かすためにも、もう一度その仕事に復帰したかった。

 子供たちの為にも、いつか来るであろう大災害を想定して、地元近辺の幾つかのクリニックに応募してみた。だが、どこも書類審査で落とされ、面接にさえ至らない毎日が続く。
 既婚者で小さな子供がいて、何より年齢的にも問題があるのだなと、あまりの書類審査落ちに、改めて職探しの難しさを痛感した瞬間だった。

 この時の私は、過去に8年ほど仕事経験がある事を、心のどこかで自負していたのもあった。
 今思えば浅はかだったと思う。いくら経験はあっても3年ほどのブランクがあるのだ。その壁は大きい。

 半ば投げやりな気持ちになりながら、ネット求人を毎日のように見続ける。
 医療と言うこだわりは、散々足掻いても駄目だった時に捨てるつもりでいた。だから足掻ききるまでは、医療関係の仕事の求人を毎日のように見続けた。

 ふとある時、今ままで開いた事がなかった求人サイトを開くと、自宅から目と鼻先のクリニックに求人が出ているのを見つけ、駄目元で応募してみた。

 まぁ、無いだろうな。

 そう思ってそのままパソコンを閉じ、翌日出掛ける用事があっために早めに就寝した。


 翌日。仲の良い仲間と古都へ繰り出していると電話が鳴った。
 知らない番号だが、市外局番を見てピンと来るものがあり応答すると、昨晩応募したクリニックで間違いがなく、面接してもらえる事になった。

 私はその時、運がいい! と喜んでいたように思う。その後の古都巡りの足取りはとても軽かった。


 そして約束の日。
 約束の時間に履歴書を持って向かうと、年老いた院長先生との面接になった。

「忙しいところわざわざありがとうございます。言えね、うちは是非あなたに来てもらいたいと思っててね……」

 履歴書を渡す前から採用決定を言い渡され、驚きの余り拍子抜けしてしまった。

 面接や履歴書を見なくても採用すると言うことは、それだけ切羽詰まっているのか、よほど応募がなかったのだろうか?
 しかし、それでも私としては有り難かった。
 これでまた医療関係の仕事について資格を活かせる。そう思っていた。

 その後、こちらの話はトントン拍子で進み、コンビニとの兼ね合いを見て初出勤する日が決められた。

 私はその旨を店長に伝え、それとなく辞める雰囲気を作り出す。
 人手が全く足りてない事は良く分かっていたが、もはや決めたことだ。今さら辞めるのをやめる、などと言うつもりはない。

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