大和戦争 - Die was War -
『第三線 vs 第四線』
大和帝國には、いくつもの巨大な森林がある。生い茂る木々たちが風に揺れ、時に天気の移り変わりなどを伝えてくれる。その森の中を、まるで忍者のように木の枝から別の木へと飛び移っている者がいた。それは、雪太達とともにこの世界へ召喚された男子生徒、香芝健一朗だ。
香芝は体操部に所属しており、クラス一の身軽だった。身長もあまり高くなく、まして男子としては低い方だ。
その日は、第三線と第四線による第一回戦が行われる日だった。香芝は第四線に属しており、敵の部屋を覗きに行っていたのだ。少しでも、相手のことを把握しておかなければならないためだ。顔見知りとはいえ、相手がどんな仏力を持っているのかなど、知らないことは山ほどある。そのために、一番気づかれるリスクの少ない香芝がリーダーの命令で遣いに出されたというわけだ。
香芝は第四線の扉を開けると、中にいる三人に相手の状況を伝えた。
「おかえり、お疲れ様」
藍が、息切れしている香芝を労わった。藍は、相変わらず優しい。
「香芝君、大丈夫だった? うちのリーダー、人使い粗いのよねー」
藍の隣にいた、朱雀あかねという女子が言った。その部隊のリーダーは、ベッドで悠々と寝ている。まるで、家来に何もかもやらせている王様のようだ。
「ちょっと! 香芝君が帰ってきたよ! 聞いてるの?」
朱雀が、寝ている男子生徒を揺すり起こす。
「ったく……。んだよ、いいとこだったのによぅ」
「何がいいとこなのよ、また夢の話?」
「あぁ。この国のやつらを血祭りにあげる、それは爽快な夢だったぜ!」
男子生徒は起き上がると、とんでもないことを興奮気味に語った。第四線のリーダー、西和清だ。
「さぁて、そろそろ行くか。あいつら全員ぶっ殺してやるぜ。いつか人の血を浴びてみたかったんだ、神力さえ手に入れば無敵だからな」
「ほんとに殺さないから。っていうか、あたしら他の部隊と比べて一人少ないから、わざわざ敵の様子見にいったんでしょ? ほんとに勝てるの?」
朱雀は不安気に西和を見るが、西和は悠然としている。
「心配すんな。香芝、敵の仏力を教えてくれ」
「榛原が読心と銅聴、五條と御所が自動治癒、王寺と山辺が他動治癒だった」
「よっしゃ、じゃあ榛原だけに気をつけた方がよさそうだな」
「でも、銅聴って金属の音を聴き分けられるんでしょ? 一回戦ってたしか、銅鏡をより多く集めた方が勝つんだよね。じゃあ、その仏力を持ってない私達って不利なんじゃない?」
藍の不安も尤もだと、朱雀と香芝は頷いた。しかし、西和は顔色一つ変えない。何か、よい考えがあるとでもいったような顔だ。
「だから心配いらねーんだって。いい方法がある。あいつらが見つけた銅鏡を、奪い取ればいい。あいつらを利用するんだよ!」
西和がニヤリと笑った。まるで犯罪者のような笑みが、寒気を誘う。すると朱雀が出てきて、なんと西和に対して回し蹴りをしたのだ。
「どこがいい方法よ! ただのズルじゃない!」
「いてーな、仕方ねえだろ。それしか方法がねーんだから」
「ほんとに、それでうまくいくの?」
「あぁ、俺を信じろ!」
仕方なく、朱雀達も西和の言う通りに動くことにした。
そして、四人はフィールドに向かった。合戦は、周りを池に囲まれた古墳のような山で行われる。そこまでボートで行き、山を登った。
西和の立てた作戦は、香芝が木の上に登り、第三線のメンバー、主に榛原がどこにいるのかを確かめる。次に、香芝が示した場所を目指して全員で移動する。そして相手が銅鏡を見つけたところを、素早く奪い取るというものだ。
香芝は持ち前の運動神経を生かし、一回のジャンプだけで一本の木の上に飛び乗った。そして次に、仏力を使って相手の居場所を特定する。香芝の仏力は「透視」といい、半径数十メートル先まで見渡すことができる。すると……発見した。第三線が五人揃って、山を登っているのが見えた。やはり、榛原しか頼れる者がいないからだろう。
見られていることに気づいていない第三線は、銅鏡を探していた。先頭にいる榛原は耳を澄まし、精神を集中させている。すると、五條が前を歩いている山辺に言った。
「おい、お前でかいんだから、もっと屈めよ」
「はぁ? 余計なお世話よ。っていうか、あんたの方がでかいから」
「まあまあ、五月蠅くすると榛原君が集中できないよ」
更に前を歩いていた王寺が、二人に注意を促す。
しばらく歩くと、急に榛原が立ち止まった。
「ここだ……」
皆は前を向くと、そこは崖だった。榛原が言うには、この中に数多くの銅鏡が埋まっていると言うのだ。崖崩れなどの恐れがあるため、掘り出すには細心の注意を払わなければならない。
「……よし、掘るぞ」
榛原の掛け声とともに、皆は一斉に崖に近づいた。その時、後ろから声がした。
「ちょっと待った!」
振り向くと、そこには第四線の生徒達の姿があった。
「ずっとお前らの後をつけてたんだよ。俺達も、一緒に掘らせてもらうぜ!」
「……ッチ、相変わらずセコい真似しやがるな」
そう言って西和の前に立ちはだかったのは、御所実だった。
「何だよ、ラグビーオタク。そこをどけ!」
「嫌だね。お前らには絶対負けたくないからな」
「しょうがねえな……。おい、お前ら、先に行って掘り出して来い!」
西和は後ろを振り向き、三人にそう伝えた。それを聞いた三人は走り出し、崖から銅鏡を見つけようと掘り始める。その隣で、すでに第三線のメンバーが銅鏡を何枚か掘り出している。
一方、西和と御所は取っ組み合いを始めていた。御所の方が体格ががっしりとしていて、西和の方が押されつつある。
「意外と力つえーな、お前……」
「ラグビーオタクは伊達じゃねーよ。観戦だけが趣味だと思ってたんだろうけど、少しはカジったことがあるんだよ」
二人は互いに譲らず、ほぼ静止状態だった。そうしているうちに、他のメンバーは互いに銅鏡を何枚も掘り出していく。しかし人数が一人少ないこともあり、第四線の方が不利なことに変わりはなかった。
結局、第三線の方が多くの銅鏡を見つけ出してしまった。
「どうだ、やっぱり下の部隊は上には勝てないんだ。これで分かっただろ!」
御所は、西和に対して得意気に言った。しかし、西和は納得いっていない様子だった。
「お前ら……。全員、血祭りにあげてやる!」
西和は言うと、ポケットに手を入れ、小型ナイフを取り出した。それを見ると、御所は一歩後ろに下がった。
「おい、よせ!」
すると、誰かが西和の腕にチョップし、ナイフが地面に落ちる。
「バカなことやめて、潔く負けを認めなさいよ」
朱雀が、西和の暴走を止めてくれたのだ。朱雀はその後、ごねる西和を引きずって山を下りていった。その後を、香芝や藍も追っていった。御所は腰が抜けてしまったように、その場にしゃがみこんでいた。
「何なんだよ、あいつ……」
合戦に勝利した第三線のメンバーも、それを見て気が重くなったようだ。
部屋に戻ってくると、朱雀は西和の方を振り向いた。
「誰を信じろって?」
「あ……、いや、これは……」
「へぇ、言い訳するんだ」
「ちげーんだよ、色々と計算ミスがあったみたいでさ……」
西和が何とかして弁解しようとするが、朱雀は認めてくれないようだ。そして、自分のポケットから金槌を取り出した。それを見た西和は、ドキッとし後退る。
「さぁ、覚悟はできてる?」
朱雀は、不気味な笑顔を見せた。
「ひぃ~!」
逃げる西和を、朱雀は追いかけ始めた。それを止めることなく、藍と香芝は見ていた。
「あかねちゃんの暴走って、西和君より止めるの苦労するのよね」
朱雀は、まるで獅子のような目で西和を追い回していた。
香芝は体操部に所属しており、クラス一の身軽だった。身長もあまり高くなく、まして男子としては低い方だ。
その日は、第三線と第四線による第一回戦が行われる日だった。香芝は第四線に属しており、敵の部屋を覗きに行っていたのだ。少しでも、相手のことを把握しておかなければならないためだ。顔見知りとはいえ、相手がどんな仏力を持っているのかなど、知らないことは山ほどある。そのために、一番気づかれるリスクの少ない香芝がリーダーの命令で遣いに出されたというわけだ。
香芝は第四線の扉を開けると、中にいる三人に相手の状況を伝えた。
「おかえり、お疲れ様」
藍が、息切れしている香芝を労わった。藍は、相変わらず優しい。
「香芝君、大丈夫だった? うちのリーダー、人使い粗いのよねー」
藍の隣にいた、朱雀あかねという女子が言った。その部隊のリーダーは、ベッドで悠々と寝ている。まるで、家来に何もかもやらせている王様のようだ。
「ちょっと! 香芝君が帰ってきたよ! 聞いてるの?」
朱雀が、寝ている男子生徒を揺すり起こす。
「ったく……。んだよ、いいとこだったのによぅ」
「何がいいとこなのよ、また夢の話?」
「あぁ。この国のやつらを血祭りにあげる、それは爽快な夢だったぜ!」
男子生徒は起き上がると、とんでもないことを興奮気味に語った。第四線のリーダー、西和清だ。
「さぁて、そろそろ行くか。あいつら全員ぶっ殺してやるぜ。いつか人の血を浴びてみたかったんだ、神力さえ手に入れば無敵だからな」
「ほんとに殺さないから。っていうか、あたしら他の部隊と比べて一人少ないから、わざわざ敵の様子見にいったんでしょ? ほんとに勝てるの?」
朱雀は不安気に西和を見るが、西和は悠然としている。
「心配すんな。香芝、敵の仏力を教えてくれ」
「榛原が読心と銅聴、五條と御所が自動治癒、王寺と山辺が他動治癒だった」
「よっしゃ、じゃあ榛原だけに気をつけた方がよさそうだな」
「でも、銅聴って金属の音を聴き分けられるんでしょ? 一回戦ってたしか、銅鏡をより多く集めた方が勝つんだよね。じゃあ、その仏力を持ってない私達って不利なんじゃない?」
藍の不安も尤もだと、朱雀と香芝は頷いた。しかし、西和は顔色一つ変えない。何か、よい考えがあるとでもいったような顔だ。
「だから心配いらねーんだって。いい方法がある。あいつらが見つけた銅鏡を、奪い取ればいい。あいつらを利用するんだよ!」
西和がニヤリと笑った。まるで犯罪者のような笑みが、寒気を誘う。すると朱雀が出てきて、なんと西和に対して回し蹴りをしたのだ。
「どこがいい方法よ! ただのズルじゃない!」
「いてーな、仕方ねえだろ。それしか方法がねーんだから」
「ほんとに、それでうまくいくの?」
「あぁ、俺を信じろ!」
仕方なく、朱雀達も西和の言う通りに動くことにした。
そして、四人はフィールドに向かった。合戦は、周りを池に囲まれた古墳のような山で行われる。そこまでボートで行き、山を登った。
西和の立てた作戦は、香芝が木の上に登り、第三線のメンバー、主に榛原がどこにいるのかを確かめる。次に、香芝が示した場所を目指して全員で移動する。そして相手が銅鏡を見つけたところを、素早く奪い取るというものだ。
香芝は持ち前の運動神経を生かし、一回のジャンプだけで一本の木の上に飛び乗った。そして次に、仏力を使って相手の居場所を特定する。香芝の仏力は「透視」といい、半径数十メートル先まで見渡すことができる。すると……発見した。第三線が五人揃って、山を登っているのが見えた。やはり、榛原しか頼れる者がいないからだろう。
見られていることに気づいていない第三線は、銅鏡を探していた。先頭にいる榛原は耳を澄まし、精神を集中させている。すると、五條が前を歩いている山辺に言った。
「おい、お前でかいんだから、もっと屈めよ」
「はぁ? 余計なお世話よ。っていうか、あんたの方がでかいから」
「まあまあ、五月蠅くすると榛原君が集中できないよ」
更に前を歩いていた王寺が、二人に注意を促す。
しばらく歩くと、急に榛原が立ち止まった。
「ここだ……」
皆は前を向くと、そこは崖だった。榛原が言うには、この中に数多くの銅鏡が埋まっていると言うのだ。崖崩れなどの恐れがあるため、掘り出すには細心の注意を払わなければならない。
「……よし、掘るぞ」
榛原の掛け声とともに、皆は一斉に崖に近づいた。その時、後ろから声がした。
「ちょっと待った!」
振り向くと、そこには第四線の生徒達の姿があった。
「ずっとお前らの後をつけてたんだよ。俺達も、一緒に掘らせてもらうぜ!」
「……ッチ、相変わらずセコい真似しやがるな」
そう言って西和の前に立ちはだかったのは、御所実だった。
「何だよ、ラグビーオタク。そこをどけ!」
「嫌だね。お前らには絶対負けたくないからな」
「しょうがねえな……。おい、お前ら、先に行って掘り出して来い!」
西和は後ろを振り向き、三人にそう伝えた。それを聞いた三人は走り出し、崖から銅鏡を見つけようと掘り始める。その隣で、すでに第三線のメンバーが銅鏡を何枚か掘り出している。
一方、西和と御所は取っ組み合いを始めていた。御所の方が体格ががっしりとしていて、西和の方が押されつつある。
「意外と力つえーな、お前……」
「ラグビーオタクは伊達じゃねーよ。観戦だけが趣味だと思ってたんだろうけど、少しはカジったことがあるんだよ」
二人は互いに譲らず、ほぼ静止状態だった。そうしているうちに、他のメンバーは互いに銅鏡を何枚も掘り出していく。しかし人数が一人少ないこともあり、第四線の方が不利なことに変わりはなかった。
結局、第三線の方が多くの銅鏡を見つけ出してしまった。
「どうだ、やっぱり下の部隊は上には勝てないんだ。これで分かっただろ!」
御所は、西和に対して得意気に言った。しかし、西和は納得いっていない様子だった。
「お前ら……。全員、血祭りにあげてやる!」
西和は言うと、ポケットに手を入れ、小型ナイフを取り出した。それを見ると、御所は一歩後ろに下がった。
「おい、よせ!」
すると、誰かが西和の腕にチョップし、ナイフが地面に落ちる。
「バカなことやめて、潔く負けを認めなさいよ」
朱雀が、西和の暴走を止めてくれたのだ。朱雀はその後、ごねる西和を引きずって山を下りていった。その後を、香芝や藍も追っていった。御所は腰が抜けてしまったように、その場にしゃがみこんでいた。
「何なんだよ、あいつ……」
合戦に勝利した第三線のメンバーも、それを見て気が重くなったようだ。
部屋に戻ってくると、朱雀は西和の方を振り向いた。
「誰を信じろって?」
「あ……、いや、これは……」
「へぇ、言い訳するんだ」
「ちげーんだよ、色々と計算ミスがあったみたいでさ……」
西和が何とかして弁解しようとするが、朱雀は認めてくれないようだ。そして、自分のポケットから金槌を取り出した。それを見た西和は、ドキッとし後退る。
「さぁ、覚悟はできてる?」
朱雀は、不気味な笑顔を見せた。
「ひぃ~!」
逃げる西和を、朱雀は追いかけ始めた。それを止めることなく、藍と香芝は見ていた。
「あかねちゃんの暴走って、西和君より止めるの苦労するのよね」
朱雀は、まるで獅子のような目で西和を追い回していた。
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