【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(42)




 扉の隙間から中を見ると、そこには幼少期の先ほどまで冒険者ギルドに居たリネラスの姿と――、もう一人……、見た事がない少女が一つの分厚い本を見て座っているのが見えた。思わず「何をしているんだ?」と、心の中で呟きながらも身体強化魔法を発動。
 リネラスと、もう一人の少女が見ている本へと視線を向けると、そこには双子が生まれた場合の対応――、その内容が書かれていた。

「ねえ? 本当に? これで妹は本当に助かるの?」
「うん! 間違いないと思う……、でも……、ここを見てみて」
「えっと……どこ?」

 リネラスの言葉に首を傾げる少女。
 
「えっとね、イノンが発症しているのは魔力を身体が受け切れていないからなの」
「それって、魔力を抜かないと駄目ってことよね?」
「うん。だけど、お父さんたちがカレイドスコープから帰るのを待っていたら確実にイノンは助からないと思う。これを見てみて……、魔力の過剰状態で発熱が一週間以上続いたら命が危険だって書かれているの。だから……」
「イノンを助けるには、これしか方法がない……そういうことよね?」
「だけど、これって貴女に――、ユリーシャに負担をかけることになるの」
「――で、でも! それで妹が助かるのよね?」
「うん。たぶん、ユリーシャは先天的に魔力の器に余裕があるから……、でも……それって双子だからだと思うから……」
「私は別にいいの。妹を助けるのがお姉ちゃんだから! やり方を教えてくれる?」
「だけど……、魔力を二人分受け入れるのは強い魔力を持つことになるの。そうなると――」

 どうやら、魔力が強くなった時のデメリットをリネラスは憂慮しているようだが、二人の会話からして猶予はないようだ。
 
「大丈夫! 私! 絶対に大丈夫だから!」

 ユリーシャとリネラスから呼ばれていた少女は立ち上がると凹凸の無い胸をドン! と、叩いて平気だとアピールして見せる。
 
「そう……。――で、でも、無理はしないでね。それと、この解決方法を取ったのは秘密にした方がいいと思う」
「そうね……。怒られたら嫌だものね」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけど……」

 話しが噛み合ったと思えばすれ違う対話を繰り返す二人を見つつ、俺はユリーシャが此方の方――、扉の方へと近づいてきたので、その場で跳躍し天井に貼りつく。
 幸い、日が暮れている事もあり暗い為、俺に気が付くことなく二人は廊下を歩き奥へと向かっていく。
 そんな二人を天井に貼りつきながら追いかける。

 二人は突き当りの部屋。
 その扉を開けて中に入っていく。
 俺も音を立てないように天井付近の壁を魔法で原子分解。
 中を見られるように小さな穴を作ったところで室内を覗き込む。

「あれは……」

 ベッドに横たわっているのは、まだ少女であったが――、間違いなく輪郭からしてイノンであった。



 

コメント

  • 神野

    アンチ、怖っ

    1
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