【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(30)




 エルフガーデンから、エルブンガストまでの距離は徒歩なら本来、一日近くの時間が掛かるが、すでにエルフガーデンもエルブンガストも大半の木々は折れて倒れている事から視界を邪魔されることもない。
 そして、常人の数百倍まで身体強化魔法で強化されている俺の肉体は音速で移動している。

 数分で、エルンペイアの軍勢を視界に捉えた。
 
「――さて……」

 俺は仮面を装備。
 そして黒マントを羽織る。

「いくか!」

 探索(サーチ)の魔法で確認したところ、エルンペイアの軍勢は百万。
 よく搔き集めた物だと感心してしまうが、まぁ――、相手の出方次第では戦闘になるのだから、相当の人数が屍を晒す事になるだろうな。

 俺は、悠々と歩を進め一般人でも俺の姿が肉眼で見える位置で足を止める。
 すると、「――なんだ!? エルフガーデンから――」と、言う声が、聞こえてくる。
 どうやら、こちらの事を発見してくれたようで何よりだ。
 おそらく先兵だと思うが、一人の兵士が俺の姿に気が付くとあっという間に視線は俺に集中する。

「ここから先は、ユゼウ王国の国王陛下エルンペイア様が陣を張っている場所になる! 何の用で、こちらに近づいてきた!」

 一人の――、一般の兵士とは明らかに違う赤いプレートメイルを身にまとった髭面の50歳の男が俺に話しかけてくるが――。

「我は魔王ユウマ! 此処から、先に――、エルフガーデンの中へと踏み入るのなら我と戦うことになるが、貴様らは我との戦いを所望するか!」
「魔王? ユウマ? 一体……、何の話を……」
「貴様らが、我が領内のエルフガーデンに攻め入ったと言う事は、全てのエルフとエリンフィートも敵に回したと言う事になるが!」
「まて! 何の話をしているのかまったく分からん。俺の名前はSランク冒険者のベイツと言う。いま、エルンペイア軍は、混乱していて指揮系統が上手くいっていないのだ」
「――ん? どういうことだ?」

 此奴らは、先ほどまではユリーシャ軍と戦うどころかエルフガーデンに攻め込んできたと言うのに、指揮系統が混乱しているという意味が分からん。

「――では、お前がエルフガーデンの代表者ということでいいのか?」
 
 半信半疑でベイツが俺に話しかけてくる。
 その言葉に俺は、仕方なく頷く。
 戦う予定で来たはずなのに、とんだ肩透かしだ。

「――では、しばらくそこで待て! 本陣に確認をとってくる。他の者も、この痛い服装をしている者に手を出すなよ! 実力だけは本物だからな」

 ずいぶんと失礼な物言いだな。
 一発殴りたくなってきたぞ。
 それにしても、どうなっているんだ?


 

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