【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(27)




「目を覚ましたところで辺りを見渡す」
 
 目の前に見えたのは、ダンジョン内の壁に背中を預けてぐったりとしているユリカの姿。
 それと――。

「サマラ、どうなっている?」
「蛇のような化け物が、出現したと思ったらダンジョンの入り口に向かって逃げて――」
「エリンフィートは?」
「族長は、蛇の化け物を追って……」
「分かった。イノンとユリーシャとリネラス達のことを任せた」
「分かりました」

 答えが返ってくるのを確認する前に、ダンジョン外に通じる階段を上がる。
 数十段上がったところで景色が切り替わる。
 ダンジョン内とダンジョン外では空間が違うという証であったが、いまはそれはどうでもいい。

「ルーグレンス。逃がすような事はしない!」

 一度、目を閉じる。
 発動する魔法は”探索(サーチ)”の魔法。
 魔法が発動した際の事象を現象として捉え――、それをフィードバックする形で自身の頭の中で周囲の光景や生命体の反応を確認する。

「探索(サーチ)」

 本来なら、頭の中で漢字を思い浮かべるだけで発動する魔法だが――、散々――、俺達を掻きまわしてきた奴を探して倒すことを考えると思わず声が出る。
 一瞬で、周囲2キロメートル以内の地形や、存在している全ての動植物の――、膨大な情報が頭の中に流れていく。
 その中で、明らかに二つ――、他の生物とは存在力の異なる物が確認できる。

 一つは、土地神であるエリンフィート。
 そして……、もう一つは――。

「こっちか!」

 最大限の身体強化魔法を発動すると同時に――、中庭を蹴りつけ空中に跳躍する。
 跳躍すると同時に、蹴られた地面は罅が無数に入り砕けた。
 それを視界の中で確認しつつ、空中で体勢を整えながら――。

「物質錬金!」

 何もない空間内の酸素や窒素などの元素構成を無理やり分解し作り変えていく。
 それと同時に空中に巨大な1トンを超える鉄の塊が一瞬で生成される。

「移動は速いが――」

 逃がすような真似はしない!
 この俺に喧嘩を売った以上、確実にし止める!

 東へと移動し続けるルーグレンスを追う為に、俺は、空間上に作りあげた鉄の塊を思いきり蹴り――、
 パン! と、言う音速を超えた音が周囲に鳴り響くと共に一気に加速し――、破壊し尽されたエルフガーデンの上空を音速を超えた速度で飛翔する。

 瞬きすら許さない刹那の時間で――、ルーグレンスとの距離を詰め――。

「ルーグレンス!」

 俺は、上空に鉄の塊を錬成して作り上げると、それを足場にして逃げ続けるルーグレンスへと一気に落下し――。

 その白い蛇のような鱗を持つ10メートルを超えるルーグレンスの背中を蹴りつける。
 音速を超えた蹴りを食らったルーグレンスは、「あああああああ」と、叫びながら吹き飛び地面の上を転げていくと同時に、俺は地面の上に立つ。

「き、貴様……、一体――、どうやって我に追いついたのだ……」

 かなりのダメージがあったのだろう。
 上半身は、人間の女。
 下半身は蛇の化け物。
 従属神ルーグレンスが震えた手で――、震えた声で俺に問いかけてくるが――。

「黙れ!」

 有無を言わさずにルーグレンスを吹き飛ばそうとしたところで、「待ちなさい!」と、エリンフィートが、俺の魔法発動を中断させようと姿を露わした。

  
 

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