【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(15)
精神世界に存在する偽りのフィンデイカ村――。
そこの冒険者ギルドのギルドマスターであるコルク爺。
「ほれ、これを持っていくがよい」
受付のテーブルの上に置かれたのは、初めて現実世界であるフィンデイカ村に来た時にリネラスに渡された冒険者カードと寸分違わないもの。
冒険者カードには、ユゼウ王国フェンデイカ支部所属Fランク冒険者ユウマと表記されている。
「どうかしたのか?」
「いや――、なんでもない」
少しだけ、昔の事といっても数か月前の事だが、ずいぶんとユゼウ王国に滞在していると思いながらもテーブルの上からカードを取る。
「ギルドマスター。彼はどうしましょうか?」
「ケイン。ライルは宿屋住まいであったな?」
「はい……」
「よし、レクサス! グアドル! お前らの仲間なんじゃから宿屋まで連れていけ」
「ええ!? コイツのせいでライルが怪我をしたのにか!?」
「仲間をやられただけでも腹が立つというのに!」
「しっかりと連れていけば、クエストということで出しておいてやるからの。支払いは、コヤツ――、ユウマが稼いでくることになるがのう」
「……俺が連れて行っても良いんだが?」
「お主には任せられん! すぐに手が出るからのう」
やれやれ――。
まったく信用されていないようだな。
こう見えても、俺は冒険者ギルドのクエスト達成率は現実世界では100%という男なんだが……。
まぁ、余計な事を言って面倒事になっても困るからな。
「わかったよ。ほら! ケイン仕事にいくぞ!」
「おい! 待て!」
ケインが何か言ってくるが、無視しながら冒険者ギルドの建物を出る。
――そして……、フィンデイカ村の冒険者ギルドマスターであるコルク爺が、テーブルの上に置いた依頼書の内、持ってきた分に目を通していく。
「とりあえず建物解体からか」
俺の得意分野だな。
10分ほど歩いたところで古びた2階建ての煉瓦作りの建物が見えてくる。
おそらく、あれがそうだろうな。
周りの建物と比べても明らかに古いからな。
「えっと……、近くに平屋の赤い煉瓦作りの家が――」
クエスト用紙を見ながら周囲を見る。
「あれか?」
少し離れた場所に建物がある。
――コンコン
「はい」
扉をノックしたところで中から人が出てきた。
見た目の年齢は30歳前後の細身の男。
「冒険者ギルドから建物の解体を頼まれてきたんだが?」
「君みたいな子供が?」
「子供じゃない。一応は16歳だ」
「そうか、すまないね。ちょっと着いてきてくれないか?」
「分かった」
やはりというか――。
「この2階建ての建物を解体して欲しい。資材については、再利用することは無いから隣接している建物に被害が及ばない事だけに注意してくれればいいから」
「なるほど、つまり解体方法はとくに指示はない! ということでいいのか?」
「そうだけど……、後ろに立っている彼も含めて2人だろう? 数日掛かると思うが――」
「いや、俺一人だ。もう一度、確認するぞ? 建物を解体――、もとい破壊し、尚且つ周囲の建物に被害が出ないようすればいいんだな? 解体後の資材は使わないということは、何も残さなく低位と言う事だな?」
「――え? あ、そ、そうだけど……」
「分かった」
それなら簡単だな。
周囲の建物と、破壊する建物の間――、僅かな隙間に強固な壁を作るイメージ。
事象を想像し、【漢字】という発動媒体で魔法を起動。
「【土壁】」
土の壁と言っても、イメージが異なれば、それはまったくの別物と化す。
建物を覆うように壁が作られていき――、それは2階建ての建物の高さを超えたところで停止する。
もちろん土壁と言っても、原子構造を組み替えていることもあり鉄の数十倍の固さを誇る。
右手を2階建ての建物に向けながら、頭の中で事象を想像する。
想像するは、全てを薙ぎ払う巨大な台風。
「【台風】」
魔法が発動すると同時に、2階建ての建物が根本から、空に打ち上げられる。
もちろん壁が周囲をガードしているので、周りの建物には被害はない。
さらに魔法を発動。
「【原子崩壊!】」
構成している物質全ての結びつきを――、俺の漢字魔法が消し去り無に帰す。
空には原子の名残である塵が浮いているだけ。
「よし! 作業終了! クエスト用紙に完了印を押してくれ!」
「――え? あ、はい……。こ、これでいいのかな?」
「うむ」
思ったより早く終わったな。
「…………お、お前――、い、一体何者なんだ?」
俺の仕事振りを見て恐縮した様子でケインが語り掛けてくる。
「俺か? さっき聞いていなかったのか?」
「聞いていなかった?」
「ああ、俺はFランク冒険者のユウマだぞ?」
「いや……、これは――、さすがに……、Fランク冒険者というのは無理があるぞ……」
やれやれ一々細かい奴だな。
俺は、魔法で作った【土壁】を消した。
まぁ、ケインごときに細かい話をしていたら時間が幾らあっても足りないからな。
「次の作業は、建物の補修か――、ケイン、次いくぞ!」
「お、おい! 待てよ!」
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