【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(9)




「ギルドマスターとしての立場か……」
「そうよ。だから、私は――」
「…………リネラスは強いな」
「ユウマ……」
「――あっ、すまない」

 彼女の頭を無意識の内に撫でていた。
 それでも俺の手を彼女は振りほどこうとしないあたり、リネラスも気持ちが良いのかも知れない。

「俺は、ずっと――」
「駄目よ。イノンをどう思っているのか、どうしたいのか決断を急ぐのは早いわ。一時の感情に流されて決断をするのは、良くないと私は思うもの」
「……そうか」

 彼女の頭から手を離しながら俺は頷きリネラスの顔を見た。
 リネラスの頬は僅かに赤く火照っていて瞳は潤んでいるように見える。
 
 ――だが! リリナの時のように殴られるような感じはしない。
 
「早く行きましょう。イノンを助けるんでしょう? それがゼノンとの約束なのでしょう?」
「そう……だな――」
「何よ? 何かあるの?」
「いや――」

 肩を竦めながら俺は答える。
 正直なところ、俺達を裏切ったイノンに対して、俺は不信感と憤りを感じていたし、何より騙されたという気持ちが大きかった。
 だから俺は――。

「何か言いたい事があるならハッキリ言ってよね!」
「何でもない」

 移動式冒険者ギルド宿屋――、その中庭にあるダンジョンへの入り口へとリネラスが向かう。
 そのあとを着いて行くようにして俺はリネラスの背中を見る。
 俺よりも、本来は身長が低く頼りない――。
 その背中が、少しだけ大きく見えた。
 


 ダンジョンに踏み入り1階層に到着したあと、ユリカが待っている場所へと足早に二人で向かう。

「ユウマさん――」
「待たせてすまない」
「やっぱり双子よね……、髪型は違うけど、それ以外はそっくりだわ」

 リネラスは感慨深そうに呟いている。
 
「エリンフィートは、どこにいった?」

 周囲を見渡してもエリンフィートの気配が感じられない。
 また何か問題でも起こしたのかと思ってしまうのだが――。

「エリンフィート様は、リネラスさんの代わりに外へ出て精霊眼での伝達をすると言っていました」
「そうか……」

 ――だが、エリンフィートの精霊眼はエルフ達が見聞きした情報を得るためだけの物だったはず。

「ユウマさん、二人の意識の融合が始まっています。早く対処を――」
「融合? ユリカ、何のことだ? そんな話をエリンフィートから何も聞いていないぞ?」
「――え? そ、そうなのですか……。えっと、双子の場合は精神的な結びつきが強いために、自我が保たれていない場合にはお互いの精神境界線上が曖昧になって融合することがあるのです」
「何か問題でもあるのか?」
「ユウマ、大有りよ。精神融合なんて起きたら別人になるか、もしくは耐えられず死ぬことになるの! だから早く助けないと!」
「――ッ」

 俺は頷きながらユリカにイノンとユリーシャを見ておくように伝えたあと、リネラスの手を掴んで二人の精神世界へと干渉した。

 

 降り立った場所は、イノンと初めて出会った場所。
 草原のど真ん中に俺達は出たようだ。

「リネラス、大丈夫か?」

 腕の中で目を瞑って体を預けている彼女の体を揺する。

「ユ、ユウマ……」
「どうかしたのか?」
「ううん。精神世界に入り込んだ際に、一瞬だけ拒絶されたのよね」
「拒絶?」
「うん。イノンだけの時は、そうでも無かったのに……」
「そうか……。とりあえず立てるか?」

 リネラスが立って歩きだすが、すぐにバランスを崩してしまうのが見える。

「仕方ない……」

 彼女を両手で抱き抱えると俺は北に向けて歩き出す。
 予想通りにフィンデイカの町はすぐに見えてきた。




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