【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(4)
「まったく……」
頭を掻きながらダンジョン入り口がある中庭へと向かう途中で俺は足を止める。
「そういえば、イノンをベッドごと移動した時に壊した壁がそのままになっていたな……」
自分の魔法で壊した建物や窓、そして柱など魔法を使い修復していく。
建物修復などは原子や分子を組み替えるだけで構成物質を作り返ることが簡単なんだが……。
「精神世界か……」
俺の魔法は事象を想像し現象として構築したあとに小さい頃から持っている異世界の記憶と思われる文字――【漢字】を口に出すか発動する際の媒体として利用することで魔法を使っている。
そこには、ウカル司祭様が言っていた神々の力を借りて魔法を使うような事は一切していないし、そもそも魔法発動に必要な魔法陣を空中に展開することもしていない。
ウカル司祭様が魔法を使う際には、魔法発動のための触媒と、空中に魔法陣を描くこと、そして魔法詠唱が必要になってくる。
そのことをヤンクルさんに教えてもらってはいたが、まさか俺以外の全員がそういう魔法発動方式を利用しているとは、まったく思っていなかった。
ウラヌス教国のウラヌス神の従属神ですら見た時には驚いていたことから俺の魔法は異質であることは想像に難くないが……。
「そもそも俺の扱う魔法って何なんだ?」
旅を出てから時々思う疑問。
それは俺の魔法の特殊性だ。
「エメラダに魔法の事をもう少し詳しく聞いておけば良かったか……」
俺は修復が終わった壁を見ながら溜息をついたところで後ろから肩を軽く叩かれた。
「セイレスか……、どうかしたのか?」
振り返ると、そこにはセレンの姉であるセイレスが立っていた。
彼女は、俺がクルド公爵邸で死にかけていたところを魔法で助けたエルフで、パーティメンバーのフォローに回ることが多い。
俺だけじゃパーティメンバーのフォローを仕切れないというのもあるから助かっているが……。
「ふむ……。用意には、まだ時間がかかるということか?」
俺はセイレスが見せてきた板を見ながら口に出して読んでいく。
そこには、ユリーシャとイノンを同時に診る必要があるので、用意に時間が掛かると書いてある。
「分かった。それじゃ用意が出来たら――」
話の途中でセイレスが板に文字を書いていく。
そこには、何かあったのですか? と文字が書かれているが……。
「いや、特に問題はないと思うが……」
「絶対何か問題あると思うのよね!」
後ろからガシッと両肩を掴まれた。
声色からして――。
「リンスタット……さん。避難しておくようにとセイレスやセレンから話がありませんでしたか?」
何故か分からないが、リネラスの母親には気をつかってしまう。
「そんなことよりも! うちの娘! すごく悲しそうな顔していたわよ?」
「いたわよって言われても……。俺には、何も心当たりとか無いんですが……」
「あら? そうなの? あの娘があんな顔をするなんてきっとユウマさん絡みだと思っていたのだけれども……」
「そんな無茶な……」
何か問題が起きたら、とりあえず俺が悪いという風潮は止めてほしいものだ。
「でもセイレスさんもユウマさんが何かしたって思っているみたいよ? ほら!」
セイレスが手に持っているホワイトボードには、ユウマさんが女絡みで問題を起こしたんじゃないんですか? と書かれている。
「――酷い言い掛かりだ!」
俺が、そんな屑な人間に見えるのか! と、抗議したい。
「それなら、娘とどういうことを話したのか教えてくれないかしら?」
「まぁ、いいですが……」
俺に落ち度は無いはずだ。
俺はエメラダの事を含めて二人に事情を説明していく。
二人に話ながら頭の中で整理していくが、俺に落ち度はない。
「――と、言う事なんですが……」
「それはユウマさんが悪いわね」
リンスタットさんは呆れ顔で俺に語り掛けてくる。
セイレスも黒板に「ユウマさんは、乙女心が分かっていないです!」と書いて俺に見せてくる。
「ユウマさん、いいですか! 好きな人が自分と話をしている時に、別の異性の話を持ち出してきたら、どう思いますか?」
「どうって……。何とも思わな……」
「それだから駄目なのです! 娘はユウマさんを……。これ以上は、私の口からは言えませんけど、もう少し女性に配慮した行動や話し方をしないと駄目ですよ?」
「あ、はい……」
そんな事言われてもどうしたらいいのか分からないな。
とりあえずリネラスに会って謝っておけばいいのか?
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