【書籍化作品】無名の最強魔法師
絡み合う思想と想い(28)
「そ、そうですか……」
何故か知らないが落ち込んでしまったサマラに何と声をかければいいのかと考えていると。
「お兄ちゃん! あれって、あの赤いのって!」
俺は妹が指差している方向へ視線を向けると、一匹の30メートル近いレッドドラゴンが飛翔しながら近づいてくることに気が付いた。
「アリア、少し下がっていろ」
「ユウマさん、我々でも対処は可能ですが?」
「いや、いい」
サマラの申し出を俺は断る。
先ほど、ドラゴンやワイバーンを倒しているのは確認していたが、瞬殺をするという形ではなく、少しずつ相手を弱らせてから止めを刺すという方法をとっていた。
つまり、何かあれば周辺に被害が及ぶということだ。
「さて――」
俺は、迫ってくるレッドドラゴンに向けて魔法式を組み立てていく。
そして頭の中で漢字を思い浮かべるところで。
「お兄ちゃん! スラちゃんが戦ってみたいって!」
「スライムがか?」
妹の頭の上に乗っていたスライムが、地面の上を跳ねて俺の前に鎮座すると、口のようなものを開くと光を放つ。
それは直進すると、レッドドラゴンの翼を根元から切り裂いていた。
「なるほど……」
まずは移動を制限するということか。
「さすがスラちゃんなの!」
妹が、スライムを褒めているが、スライムはそれ以上身動きをしない。
止めを刺すつもりはないように見える。
「そうなの? ええ、出来るの?」
なにやら、スライムと話をしているようだ。
碌なことにならなければいいんだが……。
「アリア、どうかしたのか?」
「えっとね! スラちゃんが、ドラゴンを仲間にすれば移動が楽になるんじゃないか? って言っているの」
「ふむ……」
たしかにスライムは仲間に出来たかも知れないが、ドラゴンはどうなんだろうな?
何か問題があったら妹を大事にしていた両親に何と言っていいのか……。
それに俺だって妹には、あまり危険な真似はしてほしくないからな。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん、スラちゃんが大丈夫って言っているの」
「なるほど……」
俺は地面に落ちているスライムを手に掴むとドラゴンの口に向けて投げる。
すると、ドラゴンはスライムをパクッと飲み込んでしまう。
「どうやら、大丈夫ではないようだな……」
「お兄ちゃん! スラちゃんが!」
「分かったから近寄ろうとするのは止めなさい!」
「着いていくの!」
「ユウマさん、どうしましょうか? あれを殺りますか?」
「いいから! 黙って見ていろ」
「はい、わかりました」
仕方なく妹を同伴してレッドドラゴンに近づく。
俺の言うことなぞ聞く可能性はとても低いな。
とりあえずバラバラにしてからスライムでも取り出すのが早いか。
「貴方が、今! 飲み込んだ物を吐き出しなさい!」
魔法を発動させようとしたところで妹が大声で命令を下すとレッドドラゴンは、体を震わせると口元からスライムを吐き出した。
「――も、もしかして……」
俺は、こんな光景を以前に何度も見たことがある。
それはスライムとアリアが何度も話をしていた食事の時であったが……。
「アリア、レッドドラゴンと会話できるのか?」
「うん! この子とは出来るみたい。……と、言うか、この迷宮に住んでいるワイバーンやドラゴンとは会話出来る……よ?」
「……そうなのか。――ん? つまり、この迷宮の外の魔物とは会話は出来ないということか?」
「出来ないというか、上手く話が出来ないみたいな?」
「なるほど……」
俺は顎に手を当てながら考えサマラ達のほうへ視線を向ける。
「サマラ。お前達エルフの中にドラゴンと会話出来るやつはいないよな?」
「もちろんです! そうでなかったら倒していませんので!」
「だよな……」
つまり妹だけが話せるということか……。
やはりウカル司祭が言った通り、妹の魔物を操る力を関係があるのかもしれないな。
「お兄ちゃん! ドラゴンの翼を治してもらってもいい?」
「……分かった」
危険度から見て治すのは、あまり気が進まないが妹の頼みなら仕方がない。
すぐにドラゴンの翼を修復する。
すると、ドラゴンは妹を頭の上に乗せて空を飛び始めた。
「うわー、はやーい」
「ああっ、あぶないから! 立つな!」
ドラゴンの頭の上に乗っている妹が落ちたらまずいと思い俺は地面の上に手を置いて見渡す限りの地面をマットに変化させた。
これで落ちてきても大丈夫だろう。
今後、妹にはドラゴンに乗らないように言っておかないとだめだな。
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