【書籍化作品】無名の最強魔法師
絡み合う思想と想い(22)
「……お兄ちゃん」
妹のアリアが心配そうな表情で俺を見てくると思い視線を向けると、頭に俺が作ったスライムを載せてキリッとした表情で「相手を殲滅し返す? やっちゃうの?」と、聞いてきた。
どうやら、アリアはやる気のようだ。
「どうやら、私たち冒険者ギルドに直接喧嘩を売ってきたようね、ここは譲るわけにはいかないわ! 徹底抗戦よね!? ユウマ!」
リネラスも交戦する気があるのが困りものだ。
もう少しギルドマスターらしく戦況を見て発案してもらいたいものだが――。
「リネラス、アリア。現状の俺達の戦力はスライムと俺くらいなものだぞ? 3方向から同時に攻められたら守りきれないぞ?」
「それなら大丈夫よ!」
「何が大丈夫なんだ?」
「だって、ユウマはエルフガーデンのエルフ集落を守ろうと考えているのでしょう?」
「そうだが……」
さすがに力の無い、戦う術をもたないエルフを見捨てる訳にはいかないからな。
エリンフィートは放置しておいても問題ないとして、他のエルフはさすがに放置しておくのは不味い。
それに、エルフガーデンの森は迷宮爆発の影響で殆どが倒壊していて、もともと木々の上に居住施設があったエルフ達は、地面の上に家を建てて暮らしている。
つまり、弓矢があったとしても頭上から攻撃を仕掛けると言ったアウトレンジからの攻撃が出来ない。
文字通り数の暴力の前には、殆ど抵抗することが出来ないはずだ。
あとは、リネラスが幼少期に暮らした故郷であるし、見捨てるというのは好ましくないと俺は思っている。
「大丈夫よ! エルフは放置して正面突破で、そのまま包囲陣を突破しましょう!」
「いや、それをすると後に残ったエルフガーデンのエルフがユゼウ王国の兵士達に殺される可能性があるだろう」
「――? それが何か問題でもあるの?」
リネラスが俺の問いかけに首を傾げながら、おかしなことを言って! と、言った表情で答えてきた。
「ユウマ。エルフガーデンのエルフ達は、他種族から恨まれているの。どうしてか分かる?」
「それは――、男エルフが逃げたからだろ?」
俺は、サキュバス並みに精力が強い女性エルフ相手に危機感を覚えた男エルフが逃げた結果、男に飢えた女性エルフが男を奴隷として購入したということをアリアが目の前にいるから伏せた。
「そう――、男に飢えたサキュバスエルフが、男を奴隷として買い漁って快楽に浸っていたからよ! そして、それを放置していたエリンフィートを含めて助ける価値なんて無いのよ! それに私に散々嫌がらせしてくれたし――」
「……そうか」
――というか、俺が言い難いことを言葉にするなよな……。
一応、純真無垢な塊と言ってもいい俺の可愛い妹がいるんだがらさ。
瞬時に肉体強化の魔法を発動させて、妹の両方の耳を手のひらで塞いだからいいものを……。
セイレスだってセレンの耳を塞いでいるじゃないか。
少しはTPOというか、その場の状況を考えて発言してほしい。
「――と、言うことで私としてはエルフガーデンの純粋なエルフには寧ろ全滅してとまでは思っているのよね」
「――それは困るわ!」
宿屋というか冒険者ギルドの扉を音を立てて入ってきたのは、ユゼウ王国の土地神でありエルフガーデンの主である金髪ロリ美少女のエリンフィートであった。
「エリンフィートか? 何のようだ?」
これ以上、話が拗れると俺としては面倒になるんだが――。
「何のようか? じゃないわよ! 私の領地に人間が土足で踏み入ってきているのよ! しかも天の浮き舟まで使っているのよ!」
「天の浮き舟?」
エリンフィートの言葉の中にあった言葉に俺は疑問を呈する。
すると彼女は、頷くと「空を移動する飛行物体よ! ユウマ、貴方なら分かるはずよ!」と語りかけてきた。
「空を移動する物体か……」
俺は幼少期から頭の中に存在する知識の中からいくつかピックアップする情報を紙に書き出していく。
「お兄ちゃん、これは何なの?」
「ああ、これは飛行機って呼ばれるものだな……」
「――へー……」
妹のアリアが興味深そうに俺が書いていく絵を見ている。
さらに俺は絵を描いていく。
すると俺が書いた中で空想上、存在していたと言われている空飛ぶ船をエリンフィートが指差すと「あ、これよ!」と、俺に向けて話かけてきた。
「空飛ぶ飛行艇か……」
俺は小さく溜息をつく。
「そう、それに乗って陣頭指揮を執っているのは、ウラヌス教国の司祭みたいね」
「――なるほど……」
どうやら俺が思っていたよりも相手は大戦力を有しているようだな。
「エリンフィート、お前なら敵の戦力は大体把握しているんだろう?」
「具体的とは言えないわ、でも少なくても100万近いわね」
「ユウマ、すぐに正面突破して逃げましょう!」
リネラスの言葉に俺は首を振る。
相手が飛行艇まで保有しているということは、馬車で移動をする俺達では逃げることは出来ないし、何より――。
「リネラス、お前は前に言っただろう? 冒険者ギルドに喧嘩を売ってきた奴らには力を見せ付けると――」
俺の言葉に、リネラスが「それは……」と言いながら顔を伏せてしまう。
彼女も冒険者ギルドとして、そして冒険者ギルドマスターとして矜持があるはずだが、今回は戦力が違いすぎる。
そう判断して、正面突破して撤退を推奨してきたのだろう。
それに飛行艇は、魔法で何とかすればいいだろう。
――だが、それは駄目だ。
「俺は、冒険者ギルドの売られた喧嘩は買うって考えは嫌いじゃない。それに、関わっちまったからな――」
「ユウマさん――」
俺は、エリンフィートの方を見て「別にお前のためじゃない。サマラ達とも知り合ったし、何よりも俺の村を襲ってきた連中から逃げるのは好まないし、何より俺の仲間に――、イノンに脅しを掛けてきたことが許せないだけだ」と、告げる。
「それでもいいです、でも――、どうすれば?」
「エリンフィート、お前の――。エルフの精霊眼の力を借りたいんだがいいか?」
「別に構いませんが?」
「そうか――、ならやるとするか」
――さて、売られた喧嘩だ。
100倍にして、熨斗を付けてお返ししてやろうじゃないか!
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