【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(15)




「そうね……、ユウマは9割くらい嘘で出来ているものね」

 ひどい言い草だ。
 俺ほど、自分の心に正直に生きている人間はいないというのに……。
 まぁ、俺の中にある謎知識や他人と比べて異なる魔法発動条件など仲間には隠している事は旅の同行者である皆に隠している事は多々あるが、それは聞かれないから答えないだけだ。
 聞かれても答えるかどうかは別問題だが。

「ユウマ」
「――ん?」

 リネラスが心配そうな表情で俺を見てくる。

「本当に、この世界を何とかできると思う?」
「さあな……、リネラスの精神世界も大概だったからな」
「私のも?」
「まぁな……」

 リネラスの精神世界を攻略するのに、どれだけ膨大な時間を費やしたことか……。
 まぁ、それでも――。

「イノンが、俺たちをどう思っているのか、それを確認しないといけないからな。そうしないと、ここに来た意味がないだろ?」
「そうね……」
「まずは、宿屋に直接乗り込むのはローリスク・ローリターンだが……」
「いい案があるの?」
「いい案というか方法というところだな。とりあえず、お前の時と同じでコツコツやっていくのがベストだろうな」

 俺は肩を竦めながらリネラスに言葉を返す。
 そう、リネラスの精神世界――彼女の心や記憶に触れて感じたのは人の気持ちというのは、とても不安定で脆い。
 だからこそ――。

「なにするの?」

 俺は、リネラスの頭の上に手を置くと撫でる。
 彼女も満更ではないようで頬を朱色に染めていて、口では「もう!」と言いながらも、離れようとはしない。
 一本一本が絹のように指の隙間を流れていく金色の髪は触っていて気持ちがいい。

「いや、なんでもない」

 そう、人という種族は不完全だからこそ完全で――。
 だから、愛おしいと感じるのだと俺の中にある記憶や知識が、そう囁きかけてくる。

「――さて、いくか……」



 フィンデイカ村に入り、まっすぐに冒険者ギルドへと向かう。
 もちろんリネラスには、広場で待機しておいてもらっている。
 今回は、前回のように冒険者ギルドでは問題を起こさないようにしないとな、余計なイレギュラーは問題にしかならないからな。

 冒険者ギルドに入って、カウンターの女性に直接話しかけようとしたら、以前、俺に絡んできたライルという男が絡んでくる。
 どうやら、こいつは初心者冒険者に対して、言いがかりや難癖をつけてくる人間のようだ。
 
「――で、ライル。お前の冒険者ランクはいくつなんだ?」
「――お前だと? 俺様のランキングは冒険者ランクCだ!」
「なるほど……、つまり雑魚ってことか」

 やれやれ、初心者いびりというのは雑魚のすることだが、本当に雑魚だとは恐れ言ったものだ。
 まぁ、マリウスや俺と戦ったSランク冒険者と比べても遥かに格下なのは雰囲気から分かるからな。

「……お、俺が……雑魚だと?」
「そうだ、大海を知らない小魚というところだな」
「なら、お前の冒険者ランクはいくつなんだ!?」
「Sランクだ」

 ライルの「――へ?」と、言う言葉と「ええ!?」という受付嬢の声が重なる。
 冒険者ギルドの受付の女性は、呆けた顔で俺を見上げてきているが奥まったところに座っていたコークが椅子から立ち上がると足早に、近づいてくると「本当に、Sランク冒険者なのか?」と、受付嬢を退かしながら俺に話かけてきた。

「一応な……」

 俺は肩を竦めながらコークの問いかけに答えると、コークが手の平を俺に向けてくると「冒険者カードを見せてもらってもよいか?」と聞いている。

「まぁ、いいが……」

 俺は、冒険者ギルドカードを入れている内ポケットに手を入れようとしたところで気がつく。
 ここは、イノンの精神世界を反映させた世界なのだと。
 なら、冒険者ギルドカードを俺が持っているはずがない。

「どうかしたのか?」
「いや――」

 俺は駄目元で自分の懐に手を差し入れる。
 すると、馴染みある硬質なプレートの感触が指先に伝わってきた。
 冒険者ギルドカードを、懐から取り出しコークに渡す。

「ふむ……、ずいぶんと新しい冒険者ギルドカードだ……16歳!? おぬし16歳でSランク冒険者になったのか?」
「まぁ――」
「信じられん。余程、人間離れした依頼を受けて完遂しないとどうにもならないというのに……どういうことじゃ?」
「まぁ、信じられないと言っても困るな……」
「それに、冒険者ギルドマスターの欄がリネラス? そんなギルドマスターを知らんぞ? じゃが――」

 コークは俺の方を見ながら大きくため息をつく。

「この冒険者ギルドカードが本物だというのは分かるが……、Sランク冒険者にお主のような若者がいるとは聞いたことがない。ひとつ実力を見たいのだがよいか?」
「実力? 別に構わないが、何をすればいいんだ?」
「この村は慢性的な水不足でな。それを解決してほしいのじゃ」
「なるほど……」

 そういえば、ユゼウ王国に入った当初の頃、フィンデイカ村に来たときに池が干上がったから、どうかしてほしいという依頼を受けたことがあったな。

「いいだろう。依頼量はいくらもらえるんだ?」
「金貨300枚でどうじゃ?」
「……」

 前回、受けたときは金貨3000枚だったような気がしたが、まあ金貨300枚もあればしばらくは暮らせるからな。
 その間に、イノンとユリーシャの情報を集めるとするか。
 

 


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