【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(9)

「ユウマ」
「どうした? 謝罪なら受け入れてやるぞ? 素直にユウマ様! 勘違いしていてごめんなさい! と言えば!」
「え? 何を言っているの? あんたのことを馬鹿だとは思っていたけど……。まさか、お風呂洗浄スライムに、あそこまでの機能を持たせておいて……、あれが洗浄スライムだなんて誰も思わないからね!」
「おいおい、お風呂洗浄って言ったら、垢取りとか皮脂を含めた色々なものの掃除と、やることはいっぱいあるぞ?」

 どうやら、リネラスは、どれだけお風呂という文化に力を入れないと清潔さを維持できないのか理解できていないらしい。
 まぁ、たしかに少しだけスライムを強化したことは認めよう。

「ふっ。考えが浅いな――リネラスよ」
「今の、あんたの言い方すごくむかつくのだけど!」
「風呂場の営業! その過酷さを理解してないのは無知を通りこして罪! この俺が風呂場の何たるかをここでお前に教えてやろう!」
「別にいい」
「別にいいだと!? お前は風呂文化を舐めている!」

 俺は立ち上がり、リネラスを見下ろす。すると、リネラスが「あー。またユウマ病が始まった」と盛大な溜息をついてきた。
 なんだよ、ユウマ病って……。
 俺は細菌か何なのか?
 マジで突っ込みを入れたいが、そんなことは! 今はどうでもいい! 

 いま、リネラスに語らないといけないのは、俺がスライムを作るときに、どれだけの苦悩したのかというマイスター根性だ!

「リネラス! よく聞け!」
「何よ? どうせ下らない話なのでしょう?」
「くくく、よく聞くがよい! 妹が契約したスライムは俺が手塩をかけて作った特別製スライムだ!」
「ええー!? あ、あんた……まさか……」

 俺の宣言にようやく、リネラスが何かに思い至ったのか、口をパクパクと動かして俺を見上げてきていた。

「ふっ、いまさら驚いても何もならないぞ?」
「ううん、驚いたというか――。あんた、普通に孵化させればいいスライムに何か手を加えたのでしょう?」
「ふっ、このユウマ。普通の洗浄スライムを使うほど、オリジナルティの無い人間ではない!」
「もう、その言い方いいから普通に話なさいよ」
「わ、わかった……」

 せっかく興が乗ってきたところだったのに、台無しだ!

「とりあえず、スライムには自動増殖に、自己分裂。あと、風呂場についた垢を落とすための魔力集速砲。極めつけは、風呂場を一気に洗うための膨大な粘膜津波の発生に風呂場での問題点に対応できるように進化機能まで搭載! さらには仕事の効率化を考えて別の分裂スライムとの会話まで出来るオプションをつけた。ほら? どこから、どう見ても完璧なお掃除スライムだろう」
「ばかなの? あんた……馬鹿なの? ねえ? 馬鹿だよね?」
「おい! 馬鹿三段活用はやめろ!」

 俺の突っ込みにリネラスは、右手を額に当てると大きく溜息をついて――。

「ようやく分かった。ユウマって馬鹿なのね……。自動増殖に自己分裂? それって無限に増え続ける魔物みたいじゃないの! しかも魔力集速砲? 意味が分かんないんだけど!」
「ふむ……、魔力収束砲というのはだな! 魔力を凝縮して放つ技だ!」
「知っているから! 魔法師なら最初に習う攻撃魔法だから! あんた、まさか……その魔力収束砲の威力は、上限威力を設定してあるわよね?」
「上限?」

 俺は首を傾げる。
 はて? 俺はそんな設定をした覚えなどまったくない。

「…………上限なしで! あんたの魔力を使って魔力収束砲を撃ったら村どころか山脈が消し飛びかねないから!」
「お、おう……」
「妹と契約しているならアリアから魔力が供給されるんじゃないのか?」
「正式に契約しているわけではないのでしょう?」
「正式かどうかは知らないが……」
「作った本人が本来は契約するものなのよ? ユウマは、これまで気分とか体がだるくなったことない?」
「ふむ……、そういえばフィンデイカの村で魔力が枯渇したようなときがあったな……」
「間違いなく魔力収束砲を使用しているわね……」
「そうなのか?」
「そ・う・な・の! はぁ……、私、頭痛いわ」
「大丈夫か? やはり慣れない精神世界に来て疲れが出たんじゃないのか?」

 俺は心配になってリネラスに語りかけると「あんたのせいよ! あんたの!」と突っ込みを入れられた。
 少し、リネラスは神経質な感じがするな。





「【書籍化作品】無名の最強魔法師」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く