【書籍化作品】無名の最強魔法師
姉妹の思い出(15)
「そうだ、私もイノンとユリーシャ姫との話を――やりとりを聞いて、まさか? とは思ったけど……」
エルスの目をまっすぐに見るが、嘘をついているようには思えないが――。
「もしかして――」
「どうしたんだい?」
俺は、ふと重要なことに気がつく。
そうか――。
よく考えれば分かることだ。
まさか、この俺が! そんなことに! 気がつかないとは!
「お前、もしかして誰かに見せるために猿轡をして縛ってもらって放置されていたわけじゃないんだな! そう、お前は……」
俺が完璧な推理を披露しようとしたところで、「ユリーシャ姫に、フィンデイカの村に住む戦に関係ない人間をどうして人質に取ったのかって詰め寄ったら、こんなことに……ね……」と、事のあらましと言うか確信部分をエルスが語ってきた。
人が、話の流れが分かったところで独白しようとしたのに、それを直前でばらすとかマジで止めてほしいんだけが――。
「ユウマ? どうして、膝を抱えて座っているんだい?」
「……ふっ、お前には分からないだろうさ。俺の気持ちなんてさ――」
「そんなことより! ユウマは、どうやってユリーシャ軍に来たんだい? まさか、仲間になったわけじゃあにんだよね?」
「――俺が、こんなメンドクサイ集団に加入するわけないだろ?」
「そうだよね……。アンタは、そんな人だったよね」
エルスの言葉に俺は頷きながら小さく溜息をつく。
「そういえば、外の見張りはどうしたんだい?」
「倒した」
「――え? 倒したって……アンタ、そんなに強かったのかい?」
「まぁ、そこそこは……」
俺の言葉にエルスは、そっと天幕――外に通じる布を開けて外を見てから、顔を青くして俺の方へ視線を向けてきた。
「ユウマ、助けてくれたから言いたくないけど……」
エルスが、前置きをしたあと。
「アンタ、倒した人間をそのまま道端に転がしておいてどうするの? 兵士が走って近づいて――」
最後までエルスが言い切る前に、甲高い音が辺りに響き渡る。
「ああ! もう! やっぱりアンタ素人だわ! 倒した人間を放置しておくなんて侵入者がいるって教えているようなものじゃない!」
「そうだな……」
やれやれ――。
これでは、情報収集どころではないな。
まったく、次から次へと問題ばかり起きるな……。
「まぁ、遅かれ早かれ起きていたことだし……気にするな!」
「気にするわよ! ユリーシャ様が率いてる軍の総数は、地方貴族からの支援もあって3万を超えているのよ?」
「ふむ……3万か――」
俺は顎に手を当てながら、身体強化の魔法を発動させる。
さらに、探索の魔法を展開させる。
「さて、どうしたものかな……」
イノンからは、何も説明はされていないがフィンデイカ村の住人が人質にされてると聞いたら、さすがに俺も詳しい事情を聞かないわけにはいかない。
なにせ、フィンデイカ村のレストランと親父やリンゴをくれたおばさんなど、俺の知り合いでもあるからな。
「とりあえず、あれだな――。お前は連れていくとして、イノンも浚った後、きちんと話を聞くのがいいだだろうな」
俺の言葉を聞いていたエルスが、呆けた表情をして俺を見てくる。
「アンタ、馬鹿なの? どれだけ強いのか知らないけど、たった一人で3万を超える軍勢を相手に出来るわけがないでしょう?」
「まぁ、そのへんは信じてもらう他はないな――ん? そういえばカークスとかはどうしたんだ? アイツは、一応、ユリーシャのことを知っている人間じゃないのか?」
「それがね、カレイドスコープに滞在していたときに、別の場所へ派兵されたらしいんだよ」
「なるほどな……」
俺はエルスの言葉に頷きながらも、どこか釈然としない。
カークスは反乱軍のリーダーだった男で、簡単に言えば参謀だったはずだ。
そいつが別の場所で任務につく?
その理由が俺には、思いつかない。
まぁ、今は――そんな事よりもだ……。
「ちょ、ちょっとユウマ!?」
俺は天幕から出る、
すると、パッと見ただけでも100人以上の兵士達が天幕を中心に俺達を取り囲んでいた。
「貴様! そこで何をしている!」
一人の男が声を張り上げてくる。
男は、やたらと容姿が整っていた。
まるで貴族らしい豪勢な鎧を着込んでいて、話し方が苛立ちを与えてくる。
そして、どうやら何かに気がついたような表情をして「――き、きさま!? ま、まさか! ユリーシャ姫を暗殺しようとして捕まえた女の仲間か? 助けにきたのか?」と、叫んできた。
「おい、エルス。お前、暗殺者とか言われているぞ?」
「……そ、そんな――。意見を申し上げただけで、暗殺者などと――」
どうやら、エルスはショックを受けているようだが、今まで行ってきた行動から総合的に見てもユリーシャってのは、相当、正確悪そうだからな。
恐らく裏で色々とやっていそうだし。
「とりあえず、イノンでも連れて帰るとするか……」
「ユウマ? アンタ、どこにイノンがいるのか分かって――ッ!?」
問いかけていたエルスの言葉が途中で止まる。
俺達を囲んでいた槍を持って牽制してきていた100人近い兵士の後方に配置されていた兵士達が一斉に矢を放ったからだ。
その数は――。
「41本か……」
俺は飛来してくる矢を瞬時に数えると、体を半身にし左手一本で全ての飛んできた矢を叩き落とした。
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