【書籍化作品】無名の最強魔法師
親類の絆(26)
「でもね、子ども達の面倒を見るのも、エルフガーデンで私達家族が暮らしていくための物資を集落の皆から融通してもらうためだったから……だから、私が居なくなっても……」
「お前の母親は一度、預かった子ども達を放り出してフィンデイカの移住することはしなかったということか?」
「うん……私のせいで、全部壊れちゃた……。だから、私は、とても悪い出来損ないのエル――」
「なるほど、つまり――そのおかげで俺はリネラスに出会えたってわけか」
「――え?」
リネラスは俺の言葉に目を丸くして呆けて――。
「だから、アレだろ? お前が魔力が見れた普通のエルフだったら、俺はお前と会うことは、なかったんだろ?」
「え? え? ぁ……う、うん……。そうなるのかな?」
俺はリネラスの両腕に手を添えると組まれていた腕を解く。
そして彼女の肩に両手を軽く添えながら。
「だったら、俺にとっては、とってもいい事じゃないか? まぁ、俺の独善的な理由ではあるが……お前が、駄目な奴ってことは前から知ってるし、お金にがめついってのも知っているが――自分で自分を卑下するのは止めろ。俺が、出会えて良かったと思っているんだから、悪いことばかりじゃない。まぁ、俺にとってはだが……」
「何、それ……」
リネラスは俺の言葉を聞くと、少しだけ眉を吊り上げて。
「私が、ユウマにFランクの冒険者に、本来受けさせたらいけないSランクの仕事を振ったことは? それで、ユウマに迷惑が掛かったかもしれないし、エルンペイアの配下の公爵たちに目をつけられたことだって!」
「やれやれ――」
俺は首を左右に振りながら少しだけ苛立ちを含ませた声色で彼女に語りかける。
「そんなのは今更だ。だいたい、俺だってお前に隠していることの一つや二つはあるからな。ほら、ウラヌス教国やウラヌス十字軍と敵対してる事とか!」
「え? 大陸1の軍事力を誇るウラヌス十字軍と?」
「ああ、だから、お前が俺に無理難題な仕事を任せようとしても、正直なところ、今更ってところだ」
「……そうなの……」
「ああ、だからお前が俺に迷惑をかけたことなんて、ほんの少しみたいなものだ。それに……」
「……それに?」
まぁ、なんというか、こうしてリネラスと話しているだけでも安心するというか何と言うか……。
俺は、彼女の頭の上に手を置く。
「まぁ、困ったときは、お互い様ってやつだ」
「お互い様……? …………ねえ?」
「――ん?」
彼女は、頭の上に置かれた俺の手に両手を重ねるとまっすぐに俺を見て――。
「どうして、ユウマは……ユウマは、ここまで私を気にかけてくれるの?」
「どうしてって、そりゃ、お前――」
上目遣いでリネラスは俺を見ながら、言葉を待っていて――。
頬には僅かに朱を帯びていて――。
「それは……」
「それは?」
「…………」
自分の気持ちが今一、ハッキリと分からない。
ただ、何と言うか上手く言葉に出来ない。
上手く表現が出来ない。
この、湧き上がる気持ちが何なのか、暖かいような胸を締め付けるような感情が理解できない。
これは、これは――。
「な――」
「な?」
リネラスは首を傾げるように、俺の言葉を復唱してくる。
その都度、彼女の金色の髪が光り輝きとても綺麗で――。
「仲間だから! そう! 一緒に、旅してきた仲間だから!」
「…………ユウマの……」
「――ん? どうし……」
「ばかあああああああああ」
リネラスが、全力で繰り出してきた拳は、俺の頬をモロに殴り、そのまま俺の体は空中に舞った。
「この、痛み、ひさしぶり……だ……」
幼馴染のアリアに殴られた時と同じくらいの衝撃があり、俺の思考は浮上していく。
「ハッ!」
気がつくと、そこはリネラスが寝かせていた部屋で。
窓から外を見ると日は、すっかり沈んでいて森は暗闇に閉ざされているのが一目で分かる。
「ユウマさん、もどりましたか」
エリンフィートが椅子に座ったまま俺に話しかけてくる。
そして――。
「リネラス!?」
「お母さん……」
リネラスが目を覚ましたことに気がついたリンスタットが、リネラスの右手を両手で包み込んで泣いている姿が目に入ってきた。
「どうやら、成功したようですね」
「まぁな……」
俺はエリンフィートの言葉に曖昧に答える。
そして心の中で、まぁ、最後に殴られるとは思っても見なかったが――と付け加えた。
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コメント
ノベルバユーザー191157
まじかーここでリネラスが好きとか…
ノベルバユーザー190181
幼馴染ってアリアじゃないよね?