【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(21)

「それは、ユウマさんの魔法を見てる限り、ユウマさんの魔法は魔法では無いと思いましたから――」
「俺の使っているのが魔法ではない?」

 エリンフィートは俺の言葉に、ゆっくりと頷いてくる。

「問題は、私でもユウマさんが普段使っている魔法の系統がまったく理解が出来ないということです。ですが、莫大な魔力をユウマさんに見て取れることも事実なんです。ですから――」
「土地神のお前でも分からないか……」

 戸惑いの感情を、その緑色の瞳に映している事から彼女が嘘をついてるとは思えないが、どちらにせよ、俺の魔法は魔法ではないと……。

「まぁ本来、踏むはずの段階を踏んでないからな――」
「――え?……」
「いや、何でもない」

 彼女は俺の事をジッと見てきたあと、大きく溜息をつくと「仕方ありません。それよりも決定的なのは、ユウマさんは彼女――リネラスさんの家族の名前を知っていますか?」と問いかけてきた。

「いや、リネラスの母親しか知らないが……それが何か関係があるのか?」
「大いに関係あります。名前というのは、その人物を現すものです。つまり……名前が付与されていないということは、人物の特性が存在していないということになります。そして世界を構成する大まかな設定はリネラスさんの深層心理が関与していて、細かな世界構成はユウマさんが行っているということです」
「ということは、俺が、この世界に来たのは失敗だったってことか?」
「そうとも言い切れないとも言えないのが、難しいところです。本来であれば、リネラスさんに語りかけて連れ出すだけで良かったのですが、ユウマさんが持つ特異性により、かなり解決しにくくなった世界になっていますから」
「ストレートに言うよな……」
「あなたの場合は、ハッキリと伝えないと理解してくれないと思いまして」
「……」

 エリンフィートの言葉に大きく溜息をつく。
 俺も関与してるということになると、問題はリネラスだけではなく俺自身にまで及ぶことになる。
 そうすると余計に解決方法が分からなくなる。

「――で、俺はどうすればいいんだ?」

 俺の言葉にエリンフィートはニコリと微笑んでくる。

「お前、へんなことを考えてないか?」
「いえいえ、まったく考えてないですよ? そうですね……ユウマさんの妹さんが言ってましたよね? あなたの気持ちを伝えればいいと――」
「俺の気持ち?」
「そう、ここの世界はリネラスさんの深層心理の記憶を利用しているとは言え、貴方が作った世界ということに変わりはないんです。つまり――」

 エリンフィートはまっすぐに俺を見てくると真剣な表情で。

「リネラスさんを、この世界から開放して元の世界へと戻すことが出来るかどうかはユウマさんの気持ちに関わっているのです。貴女は、リネラスさんが死んだと思った時にどう思いましたか? その気持ちを彼女に伝えればいいのです」
「……どう、思ったか……それを伝え……る?」

 戸惑いながら紡いだ言葉に、彼女は頷くと「どうやら、私は必要ない存在のようですね」と言いながら目の前から姿を消した。
 辺りを見渡してもエリンフィートの姿が無い。

「つまり、これからは俺一人で何とかしろってことか……」

 妹もエリンフィートも、俺が思った気持ちを直接伝えろと言ってきたが、一体何を伝えていいのかまったく分からない。

「仕方ない。これ以上は、ここに居ても出来ることは何もないか……」

 仕方なく、リンスタットやリネラスが待っている建物に戻ることにする。
 そして、建物が見えてくる位置まで近づくと「少しいいかな?」と、語りかけられた。 
 そこには、リネラスの祖父が立っており神妙そうな顔をしていることから断りづらい雰囲気を醸し出している。

「かまいませんが? 何か用ですか?」
「そうだな、エリンフィート様が来られたことだし、君には伝えたいことがある」
「――え?」

 俺は一瞬、リネラスの祖父が言った言葉が何を意味しているのか理解することが出来なかった。




「【書籍化作品】無名の最強魔法師」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く