【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(13)

「はぁー……」

 俺は溜息をつきながら幼女姿のリネラスへと視線を向ける。

「――! リネラス! こっち、こっち!」

 俺の視線に気がついたサマラがリネラスの手を取ると俺から離れて、リンスタットの近くに寄っていく。
 そして、自分の母親の方を見たあと、エリンフィートを見て首を傾げると、俺の方を見てきて「あの人も、お母さんも、もう一人の女の人も、どうして裸なのかな?」と、リネラスが呟いていた。
 そんな疑問に答えたのは幼女姿のサマラであり。

「ハッ! そういえば、男女の逢引の際には裸でと友達から聞いたことがあるよ!」
「ええ? どういうこと?」
「リネラスは知らないかも知れないけど、男女の間では普通らしいよ!」
「そ、そうなの?」
「うん! 私も良く知らないけど……」

 俺は二人の会話を聞きながら「知らないのかよ!」と、思わず心の中で突っ込みを入れつつ、これからの事も含めて考える。

 一つ気になったのは、サマラやリネラスの態度から彼女達は、エリンフィートの事を知らない可能性があるということ。
 リンスタットが姿を現した時には確かな反応があったのに、族長であるエリンフィートを知らないというのはありえないだろう。

 そういえば……。
 エリンフィートは基本、迷宮の一室から出ない引きこもり生活を送っていた。
 つまり、エルフの中でもエリンフィートの姿を知っているのは少ないのかもしれない。
 ましてや、ここはリネラスの深層心理世界。
 彼女が族長に会っていないのなら、族長であり土地神でもあるエリンフィートを知らないことにも一応は説明がつく。

「リネラス?」

 先ほどまで絶叫していたリンスタットが、声を震わせながらリネラスの名前を呼ぶと、名前を呼ばれたリネラスは自分の母親を見ながら首を傾げ「お母さん、少し太った?」と、遠慮の無い突っ込みを入れている。

「私が太る分けないでしょう?」
「お、お母さん。か、顔が恐い……」

 リンスタットが両手をリネラスの華奢な両肩に置いて微笑んでいるのが見えるが、目が笑っていない。
 よくアライ村でもあったが、女性は太ってるとか年をとっていると言われると怒り出していた。
 おそらく、そのへんは女性にとって共通なのだろう。
 それにしても、すっごくいい笑顔で、「私が太る分けないでしょう?」と、リネラスに話しかけているのを見ると目が笑っていないだけあってマジで恐い。

「えー、だってお母さん。お腹にお肉ついてるもん!」

 リネラスの言葉に、リンスタットの眉がピクッと動くのが分かる。
 どう見ても、わざと挑発してるようにしか見えない。

「あ! お母さん、口元に皺があるの!」
「リ・ネ・ラ・ス! すぐにお洋服を取ってきなさい! いいわね? すぐにとってくるのよ?」

 リンスタットが、自分の娘の頬をつねりながら額に青筋を立て微笑みながらリネラスに命令している。
 おかしいな。
 せっかくの家族の再会なのに、まったくときめかない。
 むしろ心臓が違う意味でドキドキしてしまう。
 まるで、これは……そう……。
 一触触発前のやり取りだ。

「リンスタット、抑えろよ! お前が何か問題を起こしたら助けられるモノも助けられなくなるんだからな!」

 とりあえず釘を刺しておいた方がいいだろう。
 俺の言葉にリンスタットは、「ハッ!」としたような表情を見せると俺の方へと、ゆっくりと頷いてくる。

「いい? 洋服を取ってくるのよ? 私と、こっちの女性の分と、そこの人の分……3人分だからね?」
「う、うん……行こう! サマラちゃん!」

 リネラスから開放されたリネラスは、サマラの手を取ると森の中へと姿を消した。
 二人と後ろ姿を見送ったあと。

「リンスタットさん、この世界は、あなたの娘であるリネラスさんの深層心理の世界なのですよ? 無闇に感情を当てるような真似は避けてください。それでなくとも人の感情や思いは強い力を持つのですから」

 エリンフィートの言葉に、リンスタットが「わかりました」と、渋々頷いている。
 俺は二人の様子を見ながら何も言わない。
 村に居たときに、今みたいに感じる重苦しい時には、余計なことはしない方がいい。
 前は余計なことをして、よくリリナに殴られたりしたものだ。

「洋服とってきた!」

 すると、茂みの中からリネラスとサマラが姿を現した。
 まだ、洋服を取りにいってから数分しか経っていないのに、ずいぶんと早いお帰りだ。
 やはり、この世界はある程度精巧に作られているだけであって、元の世界とは別物なのだろう。




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