【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(7)

「どうかなさいましたか?」

 エリンフィートが怪訝そうな瞳をして俺に問いかけてくる。

「どうなさいましたか? は、俺のセリフなんだが? どうして、妹たちが話していた事をお前は知っているんだ? その場に居たわけじゃないんだろう?」
「はい、居りませんでしたが、それが何か?」
「何かじゃない! 誰かから報告を受けているのか?」

 イノンの事があったからなのか、どうしても用心深くなってしまう。
 こちらの情報が筒抜けなのは、どうしても気持ちがいいものではない。

「そういうことではありませんが……リンスタットさん、少し席を外していただけませんか?」
「リンスタットが一緒だと話せない内容なのか?」
「ええ……。そうです……」
「そうか。リンスタット、部屋から出ててもらえないか? どうしても、こいつに俺は聞いておきたいことがあるからな」

 俺とエリンフィートの2人に部屋から出ていくように言われたリンスタットは、唇を噛み締めると部屋から出て扉を閉めた。
 その様子を俺は横目で確認した後、エリンフィートの方へと視線を向ける。

「エリンフィート、以前は土地神ということで、お前がこの国全体の事を知っていてもおかしくは無いと思っていたが、よく考えるとお前は、サマラの偽者が俺と一緒に寝ている場面を見たときに驚いていたよな?」
「そうですね……」
「つまり、お前の力は、万能ではないということになるが、問題はそこじゃない」
「どういうことでしょうか?」
「それはお前が、自身の力を万能であるように見せ付けた。その事にこそが重要だったんじゃないのか?」
「何を言いたいんでしょうか?」

 エリンフィートは、苛立つような仕草を俺に見せてくる。
 その様子から、俺が考えていた憶測に信憑性を持たせていく。

「何故、リンスタットをこの場から遠ざけた?」
「それは、私が土地神だということを彼女に知られたくな……「違うな、お前はそんなことを考えてはいない」……どういうことでしょう? はっきりと言ってくださらないと……」
「ハッキリとか……」

 エリンフィートの問いかけに俺は一呼吸置く、
 そして――。

「お前の目をなり耳となる物、それはエルフじゃないのか?」
「そ、それは……何を根拠に?」

 エリンフィートの声色に、本当に少しだが動揺の感情が一瞬だけでも含まれたことに、何故だか気がつくことが出来た。

「根拠は、リンスタットを部屋から追い出したこと、そして……リネラスの状態をお前が知っていたことだ」
「……それだけで、私が保護するはずのエルフを目として耳として利用しているというのですか?」 
「利用しているというか……駒として扱っているんじゃないのか? そして、それに関して感づかれると困るからリンスタットを部屋から追い出したんじゃないのか?」
「…………」
「沈黙は肯定として受け取るぞ? そもそも以前から気になっていたことがあったんだ。どうして魔力を見ることが出来ないだけで、お前は俺にその解決を頼んできたのかと。本来なら自分達で何とかする案件だったはずなのにだ。つまり、お前は駒として使っていたエルフ達には、本当の事を言うことが出来なかった。 そりゃそうだよな! いつも見張られてると知ったらエルフは、どう出るか分からないからな」
「どうして……そんな風に考えることが……」
「さあな? 種明かしを俺が親切にすると思ったのか?」

 エリンフィートの問いかけに答えながらも、俺は心の中で妹とスライムの事を思い出す。
 妹がアライ村で話していた。
 スライムは分裂すると、分裂した固体から情報を離れていても受け取ることができると。
 つまり、それと同じことがエリンフィートとエルフの間でも出来るのでは? と何となく思っていたのだが、エリンフィートの様子を見るに正解に近いようだ。

「さて、さらに種明かしをすると……だ。お前が干渉できるのは、エルフとして魔力を見ることが出来るかどうかが鍵になると俺は考えている」
「――ッ! ど、どうして……」
「どうしても何も、お前は魔力を見ることが出来ない奴らに対して、村人が何かをしようとしても止めるような真似をしないだろ?」

 そう、本来なら治安などを踏まえてエルフの族長であるエリンフィートが何とかして対応しないといけない案件だったにも関わらず対応を取らなかった。

「お前は、自分の手駒にならない者に対しては、どうでもいいと思っていた。そうじゃないのか?」

 
 

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