【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

朝起きたら修羅場が待っていた!(3)

「い、いや――」

 俺も何が何だか分からない。
 起きたらいきなりリネラスの母親であるリンスタットさんが寝ていて、男女の事を教えるとか言ってきたのだから。

「そ、それにお母さんも何をし……て?」

 リネラスは、俺を見たあとに横で寝ている母親である裸の姿のリンスタットさんを見ると瞳に涙を溜めて走り去ってしまった。

 布団から出てリネラスを追いかけようとしたところで、リンスタットさんに腕を掴まれた。
 リンスタットさんの表情は、娘であるリネラスの事など歯牙に掛けてないように見える。
 その表情が俺に苛立ちを覚えさせる。

 ただ、俺としては、何となくこのままにしておくのがマズイ気がして、「すいません、離してもらえますか?」と、リンスタットさんに苛立った感情を含んだ声で言いながら腕を払う。

 そして、すぐに部屋から廊下に出る。
 すぐに【探索】の魔法を発動させて確認し。

「あ――俺、終わったかも……」

 俺は【移動式冒険者ギルド宿屋】の玄関の方へ向かい正面の食堂兼酒場へ視線を向ける。 
 するとそこには、イノン、セレン、セイレス、ユリカが椅子に座っていて、泣いているリネラスに声をかけていた。

「よ、よお……」

 俺は左手を上げて全員に朝の挨拶をする。
 いつもはしない行為だが、俺の姿を見届けたユリカが椅子から立ち上がって近づいてきて「ユウマさん! 一体、どういうことですか!?」と、怒気を孕んだ声色で問い詰めてきた。

「いや、じつはな――」
「ユウマくん!」

 俺が事情を説明しようとしたところで、後ろからリンスタットさんが抱き着いてきた。

「ユ、ユウマさん……ど、ど、どういうことですかああああああ」
 イノンらしくないほど大きな声で、声を荒げて席から立ち上がると俺に抱き着いているリンスタットさんを見て指さしている。

「いや、俺も良く知らないんだが……朝、目を覚ましたらベッドの中にリンスタットさんが裸で寝ていたんだよ!」
「ちょっとユウマさんが何を言っているのか理解できないです」
「お兄ちゃん最低なの……男が言い訳するなんて――」

 イノンに近づきセレンまで俺を責めてくる。
 どうして、俺がここまで責められないといけないのか……。

 納得できん!

 俺は纏わりつくリンスタットさんを酒場兼食堂の椅子に縄を使い亀甲縛りで括り付けると「まあ、まて落ち着け」と全員を見ながら語りかける。

 するとユリカが「ユウマさん……そういう趣味があったんですか……」と、リンスタットさんの方を見て呟いてくると、軽蔑な眼差しで「お兄ちゃん……」とセレンが見てくる。
 さらにはユリカとイノンが、「さすがはユウマさんですね」と言い、その横ではセイレスが黒板に「私も縛って!」と白いチョークで文字を書いて見せてきた。
 こいつ早く何とかしないとダメだ。

 そしてリネラスの方を見ると目を充血させて真っ赤な状態で俺とリンスタットさんを交互に見てきている。
 とっても、混沌としていて疲れてきた。

「まず! 俺とリンスタットさんは何もしてない!」

 とりあえず身の潔白を示すことが重要だろう。
 俺はですよね? という思いを視線に乗せてリンスタットさんの方を見る。

「ユウマくん、すごく情熱的だったわよ!」
「リンスタットさん、嘘はつかないでください!」

 俺の言葉にリンスタットさんは、頬を膨らまさせるとプイッと顔を背けてきてしまう。

「はぁ……」

 俺が溜息をついていると、「ユウマさん、ちょっとこっちに来て頂けますか?」とユリカが手招きしてくる。
 俺は首を傾げながらユリカに近づく。

「ユウマさん、セイレスさんの体の部分――どこでもいいので触ってくれますか?」
「別にいいが?」

 俺は、セイレスの頭の上に手を置く。
 すると、セイレスの表情が一瞬でトローンと蕩けると情熱的な眼差しで俺を見上げてくる。
 そしていきなり抱き着いてくる。

「おい! ユリカ! どうなってるんだ!?」

 俺は、抱き着いてきたセイレスを必死に引き剥がそうとするが、どこにそんな力があるのか、中々剥すことが出来ない。
 そんな俺とセイレスの光景を見ていたユリカは突然、両手をパンと柏手のように叩いてくると。

「ユウマさん、謎は全て解けました!」
「なんだよ……殺人事件の犯人でも見つかったのかよ」

 俺は、名探偵ばりに名言を語ってきたユリカに、鋭い突っ込みを入れる。
 事件の真相が解けたならさっさと答えてもらいたいものだ。

「犯人は、ユウマさんです!」

 ユリカが俺を名指しで犯人扱いしてきた。
 おいおい、どこをどう見ても善人な俺が犯人とか、ユリカは迷探偵決定だな。




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