【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(2)

 リンスタットさんと合流した俺たちは、冒険者ギルドのエルフガーデン支部まで戻ってきた。

「ようやく戻ってきたな」

 俺が感慨深く呟くと、リネラスが俺の方を見てきて「私の勘違いで悪かったわね!」と言ってくるが、本当にそのとおりだ! と言いたくなったが言うとまた何か言われそうだと思い何も言わないようにした。
 そんな俺とリネラスを交互に見てリンスタットさんが何故かしらないが微笑んでいるのが気になったが、それよりも……。

 エルフガーデン支部の前で黒板を持って駆け寄ってくるセイレスの表情はとても怒っているようで――また、ひと波乱ありそうだなと俺は内心溜息をついた。



 ――30分後

 イノン、セイレス、セレンを加えた俺とリネラスとリンスタットさんは【移動式冒険者ギルド宿屋の入り口右側に併設されている食堂に集まっていた。
 リンスタットさんが夜に何故、俺を迎えにきたのか? どうしてリネラスが森の中へと駆けていってしまったのか? という理由を再度説明するはめになったことは想像に難くない。

「それじゃ本格的な話をしたいと思う。まずはエルフ側からの族長から、俺に会いたいと打診があった」

 俺の言葉を聞いて顕著に反応したのは2人。想像どおりエルフの容姿をしたセイレスとリンスタットさんであった。「エリンフィート様がですか?」とリンスタットさんが、驚いた表情で言葉を紡ぐと同時に、セイレスは首から下げている小さな黒板に文字を書いて見せてくる。そこには「エリンフィート様が人間と会う事は滅多にないことです」と書かれている。

「族長の名前はエリンフィートと言うのか?」

 俺はリンスタットさんの方を見ながら話しかける。すると「はい、そうですけど……」とリンスタットさんは、半信半疑ながらも頷き答えてきた。

「なるほど……つまり人間に滅多に会うことのない人物が俺との対談を望んでいるということか?」
「そうなりますね」

 リンスタットさんは、俺の問いかけに答えてくる。
 そしてリネラスと言えば「でも、どうしてユウマなの? ユゼウ王国の国王ですら興味を示さないエルフガーデンの族長がどうして……」と、思案顔で呟いている。

「さあな、可能性として考えらえるのはエルブンガストの消滅とエルフ達を力でねじ伏せたくらいだが――」

 俺がボソッと呟いた言葉に、リネラスとリンスタットさんは驚きの顔を見せると共に、他のメンバーはたしかに! という顔を見せてきた。

「え? もしかして……ユウマ。あなた……エルフ達と戦ったの?」
「ああ、戦ったぞ? とりあえず顔面殴っておいた」
「なんてことを……」

 リネラスは両手で頭を覆うとテーブルに伏せる。
 そしてリンスタットさんと言えば、一瞬呆けたあとに「リネラス、あなたの思い人はすごいのね!」と笑っている。
 対照的な二人を見つつ。

「――で、だ。今後の方針と方策についてだが……まず、俺たちがユゼウ王国内の問題事に関与するのは、どうかと思う訳だが皆の意見を聞きたい」
「うーん、エルフガーデンに住むエルフとしては、人間の些事には関わらないと思うわよ?」

 リンスタットさんはしばらく考えた後に俺の問いに答えてくる。セイレスの黒板に「人間同士の争いには干渉しない方がいい」と書いて見せてきた。

「私は……なるべく早く戦乱が終わってほしいです」

 イノンは、俺の方を見て呟いてくる。
 この変はエルフと人間の考えての差なのかもしれないな。

「私もお姉ちゃんの意見に近いかな……」

 セレンもセイレスの意見に賛同か……。
 この辺は、やはり姉妹だからというのがあるんだろう。

「戦乱が長引くと皆が困ると思うんです。そういう時は冒険者ギルドはどうするんですか?」

 ユリカはリネラスの方を見て話しかける。どうやらユリカは、内乱が長引くのは嫌だと思っているようだな。問題は……。

「戦乱って言っても、結局は国内の政策の問題でしょ? そんなのは冒険者ギルドが関わるわけにはいかないの。冒険者ギルドに干渉するなと各国に通達してる以上、こちらが内政問題に手を出す事は、内政干渉にあたるから。だから、【移動式冒険者ギルド宿屋】としては内乱に手を貸すつもりは一切ないわ」
「そ、そうですか……」
「で、でも……」

 ユリカとイノンは納得してないみたいだな。
 二人とも俺を見てきているし……。

「でも、ユウマが戦うと決めたのなら冒険者ギルドマスターとしては仕方ないけど、支持するわ。だって戦うのはイノンでもユリカでもないし、戦うのは結局のところ、ユウマなんだし――」

 リネラスは俺の方を見て、そう語ってきた。


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