【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

遠き遥かな理想郷(中編)リネラスside

 ユゼウ王国ネイルド公爵領の北方に位置する村そこは人口1500人程度の村。
 私とお父さんは色々あってエルフガーデンから、引っ越してきた。

「本当に大丈夫なのかい?」

 お父さんは相変わらずの心配性。

「大丈夫だよ! 私、冒険者ギルド職員になってエルフガーデンの冒険者ギルドを立て直して皆がきちんと暮らせるようにがんばるから! そしたら、戻れるよね?」
「……そうだな」

 私は、自分の体と同じくらい大きいリュックを背負い、フィンデイカ村の広場に向かう。
 そこで、私と同年代くらいの最近魔法に秀でてきたという女の子とすれ違う。

 私は振り返る。
 エルフの血を引いている私だからこそわかる。

「一人なのに……二人分も魔力を持っている?」

 私が首を傾げていると。

「リネラス、馬車が言ってしまうよ」

 フィンデイカ村の冒険者ギルドマスターに任命されたばかりのお父さんが、後ろから走ってきて私の頭の上に手を置くと話してかけてきた。

「うん! 行ってくる!」

 私は、お父さんの言葉に頷く。
 そしてフィンデイカ村と海の港町カレイドスコープの間を行き来する馬車が停まっている噴水前に向かう。
 噴水前には三台の隊商である帆馬車が停まっていた。

 馬車には三台ともアルトリア商会のマーク【鳥の翼】が描かれている。
 アルトリア商会は大陸一の商会で、衣類と食料の輸送を主に取り扱っているらしい。
 どこの町にも均一に商品を提供しているおかげで、どこの町も物価が安定していると前に本に書いてあった。

「商会もいいかも……」

 そしたらきっとたくさんお金が入って、妹や弟達にきちんとした洋服とかご飯を食べさせる事ができるかも。
 私はそこまで考えたところでかぶりを振った。

 商会に就職したらエルアル大陸中を商売で回らないといけない。
 魔物もいるのに、そんなのは無理。

「あら? あたなも乗るのかしら?」

 一人考えこんでいると、銀色の髪に赤い眼の肌の白いとても綺麗な女性が私に話しかけてきた。
 私より5歳から6歳くらい年上?
 私がジッと見ていると。

「アルバさん、この子が?」

 女性はお父さんの名前を呼んでいた。
 お父さんは私の頭の上に手をおくと。

「ジョゼフィーヌさん、うちの娘をリネラスをよろしく頼みます」
「ええ、わかりました」

 お父さんは私の頭を何度も撫でてくると回り込んでしゃがんでから私と同じ目線になると。

「リネラス、お前にこれを渡しておこう。もし、私に何かがあった場合にはこれを使うんだぞ?」
「何かって何?」

 お父さんが何を言ってるのか分からない。
 でも、その何かはきっと私が望まない物だと思う。
 私がお父さんから受け取ったのは一枚の白紙の冒険者ギルドカードと金色の鍵。

「何もなければいいんだが……」

 お父さんは意味深な独り言をつぶやいたあとに立ちあがると。

「ジョゼフィーヌさん、カンナさん……娘を……リネラスをカレイドスコープまでよろしくお願いします」
「大丈夫ですわ! アルトリア商会は、どんな時でも誠実を旨としていますから!」

 お父さんは何度も、ジョゼフィーヌさんという女性に私の事を頼むと私の方へ近づいてきた。
 そしてしゃがむと私を強く抱きしめてきた。

「リネラス……冒険者ギルドの職員試験に受かれば、会うのは6年後になる。怪我や病気をしないようして変な物を食べないように、しっかりとがんばるんだぞ?」
「うん! 大丈夫! 私、きっと合格して戻ってきてお父さんと一緒にフィンデイカ村の冒険者ギルドを大きくして、エルフガーデンのおじいちゃんの冒険者ギルドを再建するから! そしたらお父さんとお母さんとみんなで一緒に暮らすの!」

 私の話を聞いていたお父さんは、私の頭を撫でると。

「待っているからな、気をつけていってくるんだぞ? 無理をするんじゃないぞ?」

 私はお父さんの言葉に頷いてアルトリア商会の帆馬車に乗り込んだ。
 そして、出立の鐘が鳴らされて私は、フィンデイカ村を出て海の港町カレイドスコープに向けて一週間かかる旅に出た。



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