【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

愛憎昼ドラの町カレイドスコープ(6)

 俺はすぐに倉庫から飛び降りると建物の間――裏路地に足を踏み入れる。
 そして町の様子を確認するため、周囲を調査する事にする。
 何故か知らないが、兵士がいた時よりも街中の雰囲気がギスギスしてる気が……。

「それにしても……」

 俺は裏路地に生えてる七色に光る花を引きぬく。
 それと同時に【探索】の魔法で表示されていたグレーの光点が一つ消失した。

 俺の【探索】の魔法で表示されるのは、緑が味方・赤が敵・青が俺自身で・グレーの色が生物だが敵か味方が未確定の場合だ。
 つまり、この花は生物と言う事になるが……。

「花も木も生物と言えば生物だからな……」

 俺は抜いた花を、その場に捨てると路地裏から大通りに視線を向ける。
 すると、俺がさっき引き抜いたのと同じ花を持った女性達が、何やら男に詰め寄って叫んでる事が聞こえてきた。

「信じられない! あの子とまたキスをしたなんて! うそつき! もう付き合わないって言ったのに! 私を大事にするって言ったのに! ばかあああああ」

 ――と、叫んだ女性が右手で男の顔を殴り、そして流れるように腹を殴っている。
 理想的な攻撃であった。男性は、「ぐふぉあ」と言いながら地面に倒れ付して痙攣している。
 まったく、痴話喧嘩かよ……。

 俺は、その場を離れる。
 するとまた声が聞こえてきた。

「貴方! もう分かれたって言わなかった? あの女とは遊びだって言ってたわよね!?」

 また通りで男女が喧嘩している。
 金髪の美人風のお姉さんは、「違うんだ!これには訳があって!」と言い訳をしてる男性を赤いラインが入った物籠で殴りつけている。

 そしてその横では。「信じられないわ! 実家に帰らせて頂きます!」と叫んでる女性が――。
 男性は、「まってくれ!誤解なんだ!」と、言いながら女性に謝罪しているが許して貰えてないようだ。



「一体、どうなっているんだ?」

 俺は、海の港町カレイドスコープを見ていくが。

「4又なの!? 私! ……信じていたのに……」
「違う!違うんだ!俺は君だけを愛して」
「嘘ばっかり! どうせ、あの子の方が綺麗だって私の事を捨てるつもりなんでしょう? 許せない許せないユルセナイユルセナイ」といいつつ女性がナイフをバックから取り出す。すると、男性は、「ひいいいい。違うんだよ! 相手が誤解してるんだよ! 相手が勝手に思ってきただけで!」とナイフを振り回してる女性から逃げ回っている。

「一体どういうことなんだ? 町全体に変な魔法とか掛けられたりとか薬物が使われているのか?」

 まったく心当たりがない。
 これは、カレイドスコープの代表者であるアレフに話しを聞く必要がありそうだ。
 俺は、屋根伝いに総督府の方へ走っていく。
 すると……。

「最近、家に帰ってくるのが遅いと思ったら浮気してたのね!」
「どこに証拠が!?」

 女性がピンク色の花を男性の前に差し出す。
 それだけで男性の顔が真っ青になっていく。

「これが証拠よ!」

 俺は男性と女性が喧嘩をしている答えにようやくたどりついた。
 そして、目の前では状況証拠を出されて、うろたえているアレフの姿が!
 そうか、アレフお前もなのか……。

「だが、事件の謎は解けたな」

 どうやら……あの花が全ての諸悪の根源のようだ。だが、問題は、海の港町カレイドスコープの至るところに咲いている花が一日でどうやって咲いたのか……その理由がいまいち分からないが……。

 これ以上、放置しておけば大変な事になりかねないというか、すでに大変な事になっている。
 それにしても、これだけの大規模な攻撃。
 相手はかなり狡猾に物事を進めてきた奴らのようだ。
 考えろ、手がかりはあったはずだ。
 そう、手がかりが……。
 思い出す。
 そうだ。俺はエルスと出会った。
 そしてエルスは解放軍に属してると言っていた。
 そして解放軍は、ユゼウ王国のエルンペイア王と敵対をしている。
 ここまで考えれば答えは、おのずと出てくる!

「そうか、そういうことか?ここには解放軍の別働隊が展開してるとエルスが言っていた気がする。つまり、これは『海の港町カレイドスコープ』で、あの得体の知れない花を使い互いの不信感を煽る事で疑心暗鬼にさせ人間関係を壊して治安を悪化させようという計略か?」

 なるほどな。
 よく考えられてる計略だ。
 だが、ここに俺がいた事が運の尽きだろう。
 類稀な才能を持つ俺だからこそ気がついた相手の作戦!

 一度、皆に町の状況を説明して対応策を考えた方がいいのかも知れないな。

 俺は、港の断崖絶壁方面から町を出ると『移動式冒険者ギルド宿屋』に向かう。

 今、男性にとって未曾有の危険な香りに海の港町カレイドスコープ包まれようとしていた。


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