【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

愛憎昼ドラの町カレイドスコープ(4)

 冒険者ギルドの制服を着たリネラスが、食堂兼酒場の椅子に腰を下ろす。
 俺は前から気になっていた事をリネラスに聞く事にする。

「なあ、リネラス。どうして、イノンの宿屋が次々と拡張されていくんだ?」
「えっと、それはね……私も良くは知らないんだけど……冒険者ギルドの建物になった場所は自動的に所属人数で拡張されていくみたい」
「お前も知らないのかよ! それと所属人数に応じて拡張されていくとかイノンは何もないのか?」

 俺は、イノンの方へ視線を向ける。
 するとイノンは慌てて俺から目を背ける。
 その頬は若干、赤く染まっているように思える。

「ま、まぁ……リネラスさんのおかげでこういう関係になっているわけですし、そこまで言う事でもないです」
「はぁ……イノンも人がいいな。両親の形見の宿屋なんだから、駄目な処は駄目ときちんと言わないと駄目だぞ?」

 まったく、こんな性格で世の中を渡っていけるのか心配になってしまうな。
 きっとリネラスが悪影響を与えているのだろう。
 俺が一人、考えていると。

「リネラスさん……昨日の夜の事がユウマさんにバレていました」

 リネラスは、テーブルの上に置かれているポットからお茶をカップに注いで飲んでいると突然蒸せたのか何度も咳をしている。
 そして、落ちついたところでリネラスはイノンの顔を見ると。

「――え?それってアレでアレなやつ?」
「はい、アレでアレな奴です」

 イノンの言葉を聞いたリネラスは、顔を青くして俺を見てくる。
 俺は溜息をつきながら。

「リネラス、別に俺は怒ってはいない。エターナルフィーリングにそういう特性があるのなら、コソコソせずにきちんと話してほしい」

 まあ、俺の知識の中には男女共に浮気を結構するとかあるからな。
 男女にとっては気になるところなのだろう。

「まあ怒ってはいないが、リネラスにはペナルティで金貨700枚を後でもらうからな? そこそこ稼いでるんだろう?」

 俺の言葉にカップを持ったリネラスの両手がカタカタと震えている。
 怒ってはいないがお金は払ってもらわないとな……。
 妻が貯蓄せずに旦那の給料で豪遊して、後日に発覚した時の旦那の気持ちが何となく分かった気がする。

「……は、はい」

 さて、今回の失態でリネラスとイノンもしばらくは俺に強く出れないだろう。
 おかげでしばらくの間は、ここでの地位は安泰だな。

「それじゃ、イノンと町に行って来るから囚人リネラスくん。きちんと金貨は払っておいてくれたまえ」
「ねえ? ユウマは絶対怒ってるよね? 怒ってるよね?」

 リネラスが俺の服の袖を掴んで上目づかいに聞いてくるが……何を言ってるんだろうか? この子は……。

「チッ! まな板に怒るわけないだろ? まったく……」

 おや、思ったより俺は怒っているようだ。
 まぁ仕方ないな、そう仕方ない。
 勝手に俺の資金を使われたのだからな。
 少しは反省してもらいたいものだ。

 俺の言葉を聞いたリネラスは、「――ま、まな板?」と、呆然とリネラスは自身の胸に手を当てている。
 そして顔を真っ赤にすると「うぇぇぇぇぇん、ユウマのばかぁあああああ」と、叫んだ後、泣きながら自分の部屋に入って扉を大きく音を立てて閉めた。

「ユウマさん、エゲツないですね。女性を身体的特徴で攻めるのはよくないですよ? それでなくてもリネラスさんは気にしているのですから」

 イノンも大概であった。

「大丈夫だ! 身体的特徴で攻めるのはリネラスだけって決めてるからな!」

 アイツなら何を言ってもすぐに復帰しそうだし。

「そ、そうですか……」

 リネラスの言葉を聞きながら、俺は相槌を打つ。
 そして今後の事を考えると、やはり情報が必要だなという結論に達する。
 解放軍はリネラスを狙っている事は明らかであり、動向を知っておきたい。
 そうすると知ってる奴と言えば……。

「一度、アレフと会う必要があるな」
「アレフさんって、カレイドスコープの代表者の?」
「ああ、アレフに会って町の様子と、ユリーシャが率いる解放軍の様子を確認にいかないとな。まずは町にいくかな。イノンはどうする?」
「はい、お供します」

 俺とイノンはとりあえず町の探索のために宿屋を出ると町の方角へ向かう。
 そして俺とイノンは、帆馬車に乗り5分程で海の港町カレイドスコープに到着した。

 ちなみに、俺が旅をしているエルアル大陸は、人口規模が大きい町は基本的に壁で囲まれている。
 それはカレイドスコープも例外ではなく4メートル程の高さまで石が積まれており、それらが町を囲んでいる。 そして町の西と南は海に面している為に、町に入る事が出入り口は町の東と北のみであり兵士が常駐している……というか常駐していたと言い直した方がいいかもしれないな。

 現在は、町の代表者であるアレフが組織した義勇団の義勇兵が北門と東門を、それぞれ守っている。
 門前で俺が帆馬車を停止させると義勇兵の男が走ってくる。

「申し訳ありません。身分証のご提示をお願いできますか?」

 兵士の言葉に俺は首を傾げる。
 俺を知らない奴はこの町にはいないと思ったのだが……。

「どうしてだ? この前から俺は出さなくてもいいとアレフ殿から許可は貰っているのだが?」

「い、いえ。規則ですので……」

 ふむ。なるほどな……。

「分かった」

 俺の言葉に兵士はホッとした顔をする。

「イノン、すまない。今日は帰ろう」

 俺は手綱を操り帆馬車を方向転換させる。

「え? ええ?」

 そこで困惑した声が声が聞こえてくる。
 突然、身分証証明の提示が求められたという事は、何か問題が起きてるかもしれない。

 これは一度、一人で潜入して町の中を調べてみる必要がありそうだな。 



「【書籍化作品】無名の最強魔法師」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー69968

    たまにイノンとリネラス間違えてる時ありますよね

    0
コメントを書く