【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

飯が不味い!

 ゆっくりと意識と感覚が覚醒していく。
 五感が眠りから覚めていき俺は……。

「気がついたかい?」
 重い瞼を開けると赤い髪の女性が横になっている俺を見下ろしていた。
 彼女がおそらくエルスと言う女性なのだろう。
 俺は、体を起こそうとして四肢に力を入れるがまるで自分の体とは思えないほど体が重い。

「…こ……こ、此処は?……」
 ユゼウ王国内というのは、寝る前の話しで知っている。
あとは、ここがどこか知るだけだが……。

「これでも飲みな」
 俺の状態を見かねたのだろう。
 女性は水の入ったカップを差し出してきた。
 カップを受け取り、中に入っていた水を見ると淀んでいた。
 村で飲んでいた清流の水とはまったく違う。

「何か食べられるかい?」
 俺は頭を振る。
 食事をしたい気分ではないと言うか、こんな水で作った食事を食べたら間違いなく腹を壊してしまう。

 俺は、【濾過】と【煮沸】の魔法を発動。
 カップの中の水を綺麗にしてから飲んだ。
 さて、これからどうすればいいのだろうか?
 考えが纏まらないな。

「そうかい、腹が空いたら言っておくれ」
 たぶん頼む事はないと思うが俺は頷く。

「それであんたは森でどうして倒れていたんだい?あそこは危険な死霊の森ってことくらいは知っているだろう?」
 そうなのか?
まったく知らなかったな。
 【探索】の魔法に何の生物の反応が無かったから変だとは思っていたが……本当に変な森だったんだな。

「いや……知らなかった」
 俺の言葉に女性は不審そうな目で俺を見てきた。

「それじゃ名前と、どこの村から来たのかくらいは教えてくれるかい?」
 名前か……村か……。
 妹アリアが魔王呼ばわりされない為には、名前だけ教えておいて出身の村を隠しておけばウラヌス教が邪推するかもしれないな・

「俺の名前はユウマという。出身地はアライ村だ」
 俺の言葉にエルスは頭を傾げてきた。

「アライ村ってのはどこなんだい?」

「アルネ王国にある」
 俺の言葉にエルスは。『ええええええええええ』と叫んできた。

「何か問題でもあるのか?それと俺もアンタの名前を教えてもらいたいんだが?」
俺の言葉に女性は俺の目を見た後に――。

「私の名前はエルスって言う。あんたを危険な森の中で見つけて運んで手当てをしたんだ」
 なるほど、この女性はエルスと言うのか。
 赤い髪に小麦色の肌、何より成人しているだろうに愛くるしい表情が男には魅力的に見えると思う。

「そうか……助かった。それでここはどのあたりなんだ?」

「――ここはユゼウ王国だよ。場所は教えられないけどね」
 俺はいま、ここがどこか教えてほしかったんだけどな。
 それにしても……。
 俺は家の中を見渡す。
 女性が一人で暮らしていくには不釣合いな程に大きな家だ。
 俺が生まれ育った家くらいの大きさはあるんじゃないだろうか?

 あまり詮索する必要もないな……。
 今後のことを考える。
 やりたい事が浮かばない。
 そしてエルスが、先ほど言っていた言葉を思い出す。
 場所が教えられないという事は、ここはそういう場所なんじゃないだろうか?
 ならすぐに出て行く必要もないな。

「しばらく厄介になってもいいか?教えてもらいたい事もたくさんあるし」
 厚意に付け入るのは気が引けるがユゼウ王国の情報を俺は何も知らない。
 だから知る必要がある。
 そんな事を考えている俺に、エルスが――。

「私はいいけど、あんたはそれでいいのかい?」
 ――と問いかけてくる。俺は頷く。
しばらくはここを拠点として活動したほうがいいな。
 話しが一段落したところでエルスが、見たことがない料理を持ってきた。

「これを作ったんだ。食べておくれ」
 差し出された料理は辛うじて麦粥と言うのは分かったが使っている水の質が悪いのだろう。
 とても変なにおいがした。

「すみません。食欲が沸かないんです」
 俺の言葉に意気消沈したエルスさんを見て俺は心の中でため息をついた。
 仕方ない、食べるか……。
 出されたものを食べないのは礼に失するからな。
 そして麦粥を食べた。

 その日、俺は生まれて初めておなかを痛めた。

 

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