【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

魔王と妹とスライムな事情

その者は怒っていた。
 このような劣悪な環境化に自身を置いていった主に対して。
 彼らの業界では、自身を作った主と契約を結ぶ事で主から力を貰い生きることが出来る。

 生まれた当初、その者は膨大な魔力を持つ主と契約できるのかと期待に胸を躍らせた。
 スライム族という誇りを捨ててまで必死に媚を売った。
 なのに名前すらつけてもらえずゴミや汚ればかりを処理させられたのだ。、
 せっかくエリートスライム人生を送れると思っていたのに、これはあんまりな仕打ちではないかとその者は思った。
 そして到底許されるわけがないと言う結論に到達するまでには時間は大して必要なかった。
 先ほども一生懸命、声を上げたというのに主は聞いてはくれなかった。
 もはや実力行使しかないだろう、不当な労働には断固とした対応を取らねばならぬ!

 そして名も無きスライムは、分裂増殖を繰り返していき配水管の中を埋め尽くしていくのだった。
 そして、露天風呂の配水管が大爆発を起こした。

 時間はすでに夕方近く。俺は、日が沈みかけいていた中、ハシゴに乗りながら古代モルタルで教会の壁の隙間を埋めていた。

「――ん?……うおおお!?」
 突然、発生した爆風で俺が脚をかけていたハシゴが揺れる。
 ハシゴから落下しそうになるのを辛うじて堪える。
 爆風が向かってきた方向へ視線を向けながら――。

「露天風呂の方からか?」
 ――一人呟く。 
何かが起きている。
 そんな胸騒ぎが俺の胸中に湧きあがってくる。 
それも普通ではありえない何かが……。

 俺は、ハシゴから下りて爆発音がした方へ走っていく。
 そして、目を見開いた。
 なんと女性風呂の壁と配水管が爆発四散していたのだ。
 誰か、怪我人が出ていないのかと風呂場に踏み込む。
 そこには、何人も20歳以下の女性の裸体があった。

「ユ、ユウマ君……」
 振り返ると、体を洗っていたからなのか裸のリリナが呆けた表情で俺を見ていた。

「だ、だいじょう……」
 声をかけようとしたところで、言葉が止まる。
 リリナの体は成人前と言う事もあり、均整の取れた体つきをしていて、最近では村の食料事情もいいため、魅惑的な肉感を感じさせ……。

「ぎぁあああああああああ、目がめがああああああ」
 リリナの裸を見ていたら、リリナに両目に指を突っ込まれた。
 激痛で目を開ける事ができない。
 その場で転がりこんでいると――。

「信じられない!こういう事するためにお風呂作ったのね!?ユウマ君、そんな人だとは思っていなかった!」
 ――俺に向けてリリナが叫んでくる。
 《細胞増殖》の魔法を発動させながら目を開けると。
 リリナが顔を真っ赤にして俺を見てきている。

「俺は覗きをするために風呂を作った訳じゃないんだぞ?ただ、爆発の音が聞こえたからきたんだ。」
 俺の言葉にリリナが白い濁りがあるお風呂に体を沈めると上目づかいに怒りを含ませた言葉で話してくる。

「それで、何なの?はっきり言ってよね?」
 不信感を露わにしてリリナが話してくる。

「だから、爆発音がしたから来ただけなんだ。?少し考えろよ。リリナの裸ごときで風呂場を作る訳がなぐふぉおおおお」
 腹を、ボディを思いっきり殴られた。
 何故殴られたか分からない。
 俺はきちんと、お前の裸じゃなくて爆発に用事があったと。変な下心はなかったぞと説明したのに殴られた。
 しかも3発……。

 俺は、その場に倒れた。
幸い裸の女性達には怪我はないようであったが、女性達全員の目がゴミでも見るような視線を俺に向けてきている。
そこで気がつく。
 俺が作った配水管は余程の事で無い限り壊れない設計になっている。
 つまり……。

「ウラヌス十字軍の内部からの破壊工作か!」
 俺はギリッを歯軋りする。
 どうりで簡単に撤退したはずだ。
 まさか内部からの破壊を目的とするテロ戦術にシフトしてくるとは……。
 どこまでも見下げた奴等だ、
 俺の高感度上昇工作が、ウラヌス十字軍のテロ行為で全て無駄になってしまった。
 おのれ……。
 だがな……貴様らウラヌス十字軍が破壊工作をしようと行動しようが、俺にはお前達ウラヌス十字軍の場所は分かる。
《探索》の魔法を発動する――。

「……どういうことだ?」
 ――俺は頭を傾げる。
 頭の中に浮かんだ黄色い光点は俺自身であり青い光点は村の皆の光点、そして未確認はグレーの光点で赤色は敵対の光点だ。
 其れなのに黄色い光点が凄まじい速さで増殖していく。
 まったく持って意味が分からない。

「なるほど、これは俺を撹乱させようとしているのか。だがな、お前らはひとつ大きなミスを犯した!」
 俺は、立ち上がると走る。
そして、増殖し続ける黄色い光点を追う。
 そして……たどり着いた先は、俺が一生懸命建築していた教会であった。
 そして教会を覆うように半透明で巨大な物体がぷるぷると震えながら教会を溶かしてる。

「なるほど……」
 ようやく理解できた。
 おそらくウラヌス十字軍は、アース神教を邪教と呼んでいた。
 だから、彼らはアース神教のシンボルである教会破壊をしようとしたのだろう。
 どこまでも姑息な奴らだ!

 俺は事象を頭の中に思い浮かべる。
 それは大火の時に発生する火炎旋風と呼ばれる竜巻。
 イメージがまとまり魔法を発動させる条件は満たされた。

「お前は、誰かに操られただけの存在かも知れない。だが破壊工作をするのは見過ごしてはおけない!恨むなら主を恨むんだ!」
 俺の言葉に、粘液の化け物は教会から離れて俺に近づいてくる。
 ピギーピギーと何やら抗議をしてきているが、そんな事で俺が許すとでも思っているなら大間違いだ。
 教会を覆うほどの粘液の化け物は脅威になる、生かしておたらいけない。
 だから心を鬼にして《火炎旋風》の魔法を発動させた。
 巨大な炎の竜巻が教会を飲み込んで捕食していた粘液の化け物を悉く焼きつくしていき蒸発させていく。それに伴い《探索》の魔法で調べるが俺の光点に似せられた光点も急速に減っていくのが分かる。やはり俺の魔力に同期するように作られた存在だったのかも知れない。
 ウラヌス十字軍、恐るべき組織だ。

「おにいちゃん!だめえええええええ」
 最後の一欠けらまで燃やし尽くそうとした所で、妹が走ってきて大声で叫んできた。
 俺は妹の声を聞いて魔法発動を思わず中断してしまった。

「だめだよ!その子は……」
 妹が泣きそうな顔で俺に何かを訴えかけようとしている。
 俺は頷きながら妹に近づく。

「その子は、おにいちゃんが作ったスライムさんで使い魔さんになりたいだけなの!」
 妹の大声が周囲に響き渡った。
 そして周囲にはいつの間にかこの大惨事を引き起こした粘液の化け物を討伐しようとしている俺を見に来ていた村人で溢れていた。
 村人と俺の視線の先には、粘液の化け物と言えないくらいまで小さくなった俺が見知った存在のスライムが居た。

「な、なんだと?俺が作っただと?」
 俺の言葉に妹のアリアが頷いてくるが……。
 一連の騒ぎが俺のせいだった事が判明した事で、俺へ注がれる村人の視線が冷たい。
 さらに妹は語ってくる。

「うん、スライムさんが言っていたの。労働契約を結ばないのに仕事をさせるなんて酷いって……」

「アリア。もしかして……スライムの声が聞こえるとか、そんなファンタジーが起きてるのか?もうすぐ12歳になるんだぞ?そういうのは……」
 そう俺が呟くとウカル司祭様が話しかけてきた。

「ユウマ君。もしかしたら妹さんはモンスターを従属させる為の力を持っているのかも知れません。っというかユウマ君は、スライムと契約しなかったんですか?してくださいって説明しましたよね?

スライムを作ったら主従契約を結ぶのは、アルネ王国の法で決まっているのです。そうしないと彼らは死んでしまいますし襲いかかってくるのですから。

とりあえずユウマ君がスライムと話せないとなるとテイマーの才能はないのでしょう。どちらにしてもスライムと契約をしたほうがいいですね」
 ウカル司祭様の言葉に頷きながらスライムに近づくと。

「お兄ちゃん、この子がね……何度も契約してって頼んだのに暴力を振るった人を雇用主としては認めないって……」
 そ、そうか……。

「だが、それなら誰と契約するんだ?」
 すると俺の言葉に反応したスライムがアリアの足元に近づいていく。
 するとウカル司祭様が――。

「もしかしたら妹アリアさんには、テイマーとしての才能があるかもしれません」
 そこで俺は、ウラヌス十字軍の司祭が、魔王は魔物を従える力があると言っていた事を思い出しす。
 慌ててアリアに近づこうとするとウカル司祭様に腕を掴まれた。
 そしてウカル司祭様が、俺以外の誰にも聞かれないほど小さな声で話しかけてきた。

「ユウマ君、妹のアリアさんは、魔王の可能性が高いです。
魔物と意思疎通できるのは、魔王の証です。アリアさんが生まれてからワイバーンを含む魔物の姿を見た事があったと聞いた事がありますが、実害は発生していませんよね?

そしてその魔物が現れた時には、アリアさんかユウマ君がいたと村の人間から聞いています。
私はずっと、どちらかが魔王かと思っていましたが……ようやく、魔物の先ほどの魔物と話しができるという言葉で理解しました」
 俺はウカル司祭様の顔を見ると、そこにはいつにもまして真剣なウカル司祭様の表情があった。

「妹のアリアさんは、まだ幼いです。ここはモンスターテイマーとして契約をさせましょう。スライムならだれでも契約できますし魔物と話せるという特異な事であっても、スライムが経由しているという事にすれば……ある程度時間が稼げます。ですからユウマ君、妹のアリアさんには、モンスターテイマーとして振舞ってもらうようにしましょう」
 俺はウカル様の提案に頷いた。
 そして妹アリアがスライムと主従契約を結んだ。

 それから数日後。
 スライムは、妹アリアと村に貢献している。 
 すごい人気で、特に女性達から愛くるしいと評判のようでよく色々と食べ物を貰ってはマッサージをしてるようだ。
 まったくうらやまけしからん。
 その立ち位置は俺の物だったのに……。



コメント

  • ノベルバユーザー69968

    ウカル?説明してないよな??というか村人がカス過ぎて何とも言えない。

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