【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

目指す先にあるもの

 巨大熊を撃退した後、俺はリリナの母親であるユニイさんを背負いながら右手で4メートル近い熊を引きずり森の中を歩いた。

――そして1時間後

 森から出てきた俺を出迎えたのはリリナとリリナの父親であるヤンクルさんだった。
 二人は俺の姿を見るとすぐに走って近づいてくる。
 そして近くまで来ると。

「――え?これは……」

「……ユウマ君?」
 と二人とも言葉にならないようだった。

「すいません。ユニイさんを背中から下ろしたいので手伝って頂けませんか?」
 身長130cmほどの俺が150cm近い身長のユニイさんを背負ってきたのだ。
肉体強化のための魔法で神経を使い精神的に疲れてしまっていた。

「……あ……ああ、分かった……」
 動揺しながらもヤンクルさんはユニイさんを背中から下ろしてくれた。

「……これって……お父さん……タルスノートだよね?」
 リリナが俺が引きずってきた熊を指差しながら父親であるヤンクルさんに聞いている。
 ヤンクルさんも『ああ……そうだね』とどこか遠くを見ているような目で奥さんを抱えていた。
 何はともあれ、これで正式に俺はヤンクルさんの弟子という形になって魔法の修業を大手を振って出来るようになった。

「ヤンクルさん、明日から狩猟のご鞭撻の程、よろしくお願いします」

「……え?教える事があるのかな……?」
 とてもヤンクルさんが気弱な発言をしてきた。

「大丈夫ですよ!俺なんてまったく薬草とか知りませんから!その辺りを教えてくれると助かります!」

「……君、魔法使えるよね?……」

「ヤンクルさん!薬草採取は冒険の基本です?それに魔法は万能ではありませんし」
 そう、俺の魔法は万能ではない。
 地球の科学力、つまり俺の知識に沿った内容でしか発現させる事が出来ない。

「……そうなのかな?」

「はい!だから明日からがんばりましょう。ドラゴンとかと戦えると尚良いかもしれません!」
 以前は、アリアを助けたときに20メートル近いワイバーンを倒した事があるから、それより強いと魔法の練習になる。

「……そんなのが来たら国が滅んじゃうから……」

「またまた、そんな気弱なー」
「ドラゴン?ドラゴンって見た事ないよ?ドラゴンって金銀財宝もっているんだよね?」
 俺とヤンクルさんの話し合いを聞いていたリリナは、ドラゴンはお宝を持っているものと思い眼を輝かせていた

ちなみに、女性では、森で狩猟の許可は下りない。
 唯一女性でも、狩猟許可が下りるのが冒険者のみで登録が可能になるのが成人の15歳からだ。
 だから今のリリナでは狩猟に参加は出来ない。

 リリナが俺を見てきて連れていって! と、瞬きで合図をしてくるけど連れていけないものは連れていけない。
だからそんな目で見てもだめです。

「そういえばヤンクルさん」

「……なんだい?」

「この巨大熊……タルスノートでしたっけ? こいつはヤンクルさんが狩猟で倒した事にしてくれませんか?ほら、俺とか目立ちたくないですし」

「君はもう十分、村で目立っているよ? 村に魔物を呼んできたり勉強を教えたりしているじゃないか……」
 ヤンクルさんが何か言っているが聞かないことにする。

「ほら、これとか倒せる実力がある猟師なら村でも風当たりが強くならないと思いますし。早く畑とか貰えるかも知れませんよ?有能な人材を外部に出すほど愚かな村長とか居ないと思いますから」
 きっとたぶん大丈夫だろう。
 あのアライ村長の事だから、保身に走るからなあの人。
 有用性を見せ付ければ間違いなく大丈夫だろう。

「……そうかな……」

「きっとそうだと思います」
 まあだ駄目だったら最悪、きちんと話せばいいし。

「わかったよ。君が今回、妻と私を助けてくれたんだ。だから君の言うとおりにしよう」

「ありがとうございます」
 俺はヤンクルさんに頭を下げて、その場に巨大熊を置いて家に戻ろうとしたところで腕を掴まれた。
 掴んだ本人へ目を向けると、そこには顔を真っ赤にしたリリナが潤んだ目で俺を見てきていた。
 そしてはにかむような笑顔で
「ユウマ君、ありがとう」
 今まで見た事もないような感謝が込められた顔で俺にお礼を言ってきた。
 いつもとは違って素直な幼馴染の頭の上に手を置いて語りかける。

「気にするな。俺のためだから……」
 俺の言葉にリリナはますます顔を赤くしていく。
 そんな俺とリリナの会話を、奥さんを抱いたままのヤンクルさんは、ジッと見ていた。
視線から何とも言えない感じが伝わってくる。
きっと、娘を取られたと思ったのだろう。

 それから俺は、自宅に戻った。
 前からの望みであった魔法の練習場所が見つかった事もあり今日の俺は機嫌がいい。

 だが、いつもより帰宅が遅かったからか母親は俺に抱きついてきた。

「こんなに遅くて心配したじゃない。村の人から聞いたんだけど、ヤンクルさんの家に行っていたんだって?猟師をしているヤンクルさんの家にはあまり近づいたら駄目よ?村から変な目で見られてしまうから」
 母親は心配するように俺に語りかけてきた。
 でもその言葉には従う事は出来ない。
 俺には俺の目標があるからだ。
 強くなって、村を発展させるという目標が。
 だから……。

「……母さん、ごめん。俺は身を守る力がほしい。だからヤンクルさんに動物や魔物を狩る方法を教わるために弟子入りしたんだ」

「……え?……」
 母親は俺の言葉を聞いて信じられないと言った表情で数歩下がった。
 そんな母親を支えたのは父親だった。

「ユウマ、猟師見習いになるってのは本当なのか?」
 俺は頷いた。

「前から問題を起こすとは思っていたが……。分かった、好きにするがいい」
 父親は、以前から俺の事をあまり構っていなかった事もあり放任主義なのかすぐに許可を貰う事が出来た。

「――貴方!そんな事を簡単に決めたら……」
 母親は反対しているが、普段は俺の言い分を聞かず、何か問題が起きれば俺が悪いと決めつけて一方的に叱ってくるし、問題が起きるまで、好き勝手にしてればというスタンスなのにこういう時にだけ反対されると困る。
 きっと忌み職である猟師の仕事を子どもにされる事で、周囲の大人から良く思われない事に忌避感を抱いているのだろう。

「仕方ないだろう?ユウマは以前から自分が決めた事を曲げるような事はしないのだから。だから……ユウマ。無理はするな」
 俺は父親の言葉に頷いた。

「――私は反対です」
 いつもは父さんの意見を尊重する母さんとは思えないほど、即断で反対してきた。




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