人ならざる者

朝比奈 江

盗みを働くクズ野郎

討伐隊は、簡単に言うと現代版の陰陽師。
式神や使いを操り、悪さをした妖たちを討伐する。
やっている事はあまり変わらない。
(使い=討伐隊に忠誠を誓った妖たちのこと)
普段、生活しているときは大体妖たちと共存だ。
人間と一緒に働いてる者もいる。
気配を消し、姿も消し悪戯をする者も中にいる。
その者を見定め、捕らえるのが討伐隊だ。


討伐隊に入るための第1条件は、霊感だ。
隠れている妖たちを、見つけなければならない為だ。

第2条件は、適応能力。
式神や使いを操れなければ、討伐隊にいる意味はない。

第3条件は、身体能力。
式神や使いを操るのには体力がいる。
機動力も必要。長時間の張り込みなど、負担がかかるからだ。


大体の場合、成人した大人が討伐隊に所属する。
雅と、涼平は別格だ。

雅の場合は、様々なものが見えてしまう。
それと、適応能力がずば抜けている。
適応能力はほかの討伐隊のメンバーと比べても1、2を争う。
どんなに暴れ凶暴な妖も、雅が目を見て頭に手を当てさえすれば、静まってしまう。
そして、どんな妖たちも雅の使いになるのだ。


涼平の場合、身体能力と人を引きつける魅力がある。
例えるなら、男をたぶらかす女狐のような。
その魅力とコミュ力、情報力で何でも手に入れてしまう。
涼平に口説かれたら、男でも落ちてしまう程だという。

そんな2人がバディを組めば怖いもの無しだ。
もう、6年になる。
初めて会ってから、今までずっと一緒だ。


「雅、今日さナギいないから頼むわ」
凪とは涼平の使い。女狐で、九尾の末裔らしい。
涼平は、基本的に術を唱えて相手の動きを封印する事を主流にしているから式神や使いを操って戦わない。
まぁ、班長が小鬼の式神を無理やりつけさせられているが。
「まぁ、いい今日のはお前1人でも抑えられる」
今日討伐するのは、下級クラスの弱い鬼だ。
2人なら、素手でも倒せる。

「ん?お前は使いどうした」

「今朝から姿が見えないんだ。‥‥あのクソ鬼」
涼平の隣を歩きながら愚痴をはいた。
刹那セツナまた、消えたの?」
「あのサボリ鬼帰ってきたら説教だ」
あまり変わらないクールなトーンで言われる方が恐ろしい。

「森田さんも相当手を焼いてたみたいだったしね」
やれやれと、涼平はため息をついた。
「まぁ、僕らだけでもやっていける」
絶対的な自信。2人は自分が常に負け知らずで、優秀だという自信を持っていた。
それもそのはずだ、2人がコンビを組んでから1度も負け無しなのだから。

大通りから、一本ずれた裏道を通り人通りのない道へ出る。
「今回の獲物は、この時間に必ずこの道を通る」
タブレットを操作しながら任務内容を涼平に説明をする雅。
「対象は、鬼なの?」
「あぁ、盗みを働くクズ野郎だ」
サラッと毒を吐きながら小道に入り対象を待つ。
「女?」
「いや、男だ」
あからさまに嫌な顔をした涼平をよそに、雅は必死に無線を飛ばしていた。

どのくらいだっただろうか。
日が落ち始め、空が街がオレンジに染まる。
「‥‥きた」
微かに気配を感じ、2人は神経を集中させる。
殺気を放たない程度に気をこらし、近くへ来るまで待つ。

対象の鬼が近くまで来たことを気配で確認し、すっと道へ出る。
見た目は中年のおじさん。ボサボサの髪とひげが不清潔さを物語っている。
そして、眉毛の少し上に2本の角が生えている。

「討伐隊です、少しお話よろしいですか?」
雅が鬼の前に立ち、雅が問う。
「討伐隊?お前らみたいなガキが何言ってんだか。まだ、中坊だろ?」
2人が胸元から、討伐隊の印である手帳をだし見せるとあからさまに嫌な顔をした。
「よく作ってあんな」
「本物ですよ〜」
涼平がニコニコとした笑顔で告げた。
「で、お話聞かせてもらってもいいですか?」
再度、雅が鬼に問うと素直に応じてもらった。

「この近くで窃盗がありまして、防犯警戒で回ってるんですよ。その犯人が鬼の男性なんです」
大型スーパーで人から見えにくい商品棚から、たくさんの被害届が出されている。
防犯カメラの映像で写っていたのが、この鬼だ。
「俺は知らねーな。鬼ってだけで決めつけられちゃたまったもんじゃない」

「じゃあ、おじさんこれ見てよ?」
涼平が差し出したのは防犯カメラの映像を出来るだけ解析した写真を見せた。
「この人見たことないですか?‥‥って凄くおじさんに似てますね〜」
証拠あると、遠まわしに言いながら涼平は距離を詰めていく。

「‥‥知らねーな」
しらを切り通すらしい。
「そうですか、じゃあ最後に持ち物だけ確認させてください」
雅が鬼に告げると、秒の速さで断られた。
「なにか、怪しいものでもあるんですか?」
「別にねーよ、なんでお前らに見せなきゃいけねーんだよ」
鬼は2人から少しずつ距離取ったが、雅たちはその距離をさっさと詰めた。

その瞬間、一瞬のすきをつき鬼は二人の間から逃亡した。
すかさず、涼平は持ってた『封印』の札を取り出す。
急急如律令キュウキュウニョリツリョウ!!」
札は勢いよく飛び、走っている鬼の背中に張り付くとたちまち、鬼はなにかに縛られたかのように手足を動かせずその場に倒れ込んだ。

「なぜ逃げた?」
倒れ込んだ鬼の横に立ち、冷徹な雅の目が鬼を見据える。
「‥‥」
その冷徹な目すら見ようとしていない。
「黙秘か、なら‥‥」
雅は涼平に何やら合図を送った。
すると、鬼に縛り付けられていた何かが勢いよく絞めあがった。鬼は苦しくて思わず悲鳴をあげる。

「うああああああぁぁぁぁぁああああ」

鬼の体に見えない縄のようなものがくい込んでいる。
「なんだ、喋れるじゃないか。ならばもう1度問う、なぜ逃げた?」
今度は鬼がしっかりと雅の目を見た。
「あ‥‥う、ぁぁ‥‥」
何かに取り憑かれたように見えた。
涼平が、鬼の拘束を緩める。
「言えないのか?しっかりと喋れ」
「‥‥」
また、黙り込んだ。
「これは命令だ。なぜ逃げた」
その言葉ともに、雅は鬼の手を踏み潰した。

グシャ!
「ああああぁぁぁぁぁああああ!!」
嫌な音だ。涼平の術にかかっている為、体がもろくなっている。
簡単に潰れた。
「もう言えるだろう、言え」
雅は鬼の頭に手を置きしっかりと目を合わせた。
「リュックの、なか、を見られたく‥‥ながった」
鬼が操られたように喋り出した。
「中身はなんだ、盗んだものか?」
「そ、ぞうだ‥‥」
ガサガサと涼平がリュックをあさり、被害届に書かれていた物と、同じ物が出てきた。
「ビンゴ〜」


涼平が事情聴取をしている間に雅は班長である森田を呼んだ。
数分たった後、黒のワンボックスカーが細い道ギリギリを通ってきた。

「ったく、狭いなこの道。車に傷ついたら本部に請求書送り付けてやる」
降りてきたのは、30代半ばの男。黒色のスーツにサングラス、髪は長くなったのを後ろで束ねている。
パッと見ヤクザだ。
「お疲れ様です、森田さん」
この男が雅と涼平のいる森田班の班長、森田真司。
「あーあ、またお前酷くやったな。手を潰しちゃダメだろ」
涼平に事情聴取されていた鬼を見たとたん、顔をしかめて言った。

「この前よりはいいでしょ〜、この前は腕取っちゃったからね〜」
鬼の事情聴取を終えた涼平が笑いながら告げた。
「お前さー、止めようよ。本部に怒られるの俺なんだよ」
雅は前にも同様の事をしていた。
腕をおったり、潰したりなど一番酷かった時は両目を潰してしまった。

「無理無理〜、ああなったら俺じゃ押さえきれないも〜ん」
俺の腕が取れちゃうよ、と言いながら雅の方を見た。
「お前の腕は取らない」
「対象の腕も取るな」
森田に一括された雅は少し縮こまったあと、車に乗り込んだ。

森田は後ろに対象を詰め込み、運転席に座った。
涼平は雅の横へ座り、電話をかけ始めた。

森田が運転する車は討伐隊本部へ向かった。

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