ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第62話 決着

どんな攻撃も消し飛ばし、どんな防御も打ち砕く。
それがこの世に存在するものである限り、ヒツジの錬金術から逃れることは出来ないのだ。

「あーっとここでスレンコフ選手一度距離を取る!流石に分が悪いと感じたのでしょうか?」
「そうねぇ、相性は決して悪くはないのだけれど……。能力の練度、そして状況判断において、ヒツジちゃんの方がスレンコフ君よりも一枚上手だったということになるわね」
「なるほどぉ……おおっと、解説の間にスレンコフ選手が両手に烈風を纏い始めました。また先程の突撃仕掛けるのでしょうか。それとも近接を避けて遠距離攻撃を狙うのでしょうか」

ゴゥゴゥと音を立てながら風を纏うスレンコフ。
だが、ヒツジはカウンター狙いに絞るのか、未だにその場から動こうとしない。

その間もスレンコフは両手に力を溜め続けており、草木が舞い、砂煙がもうもうと立ち込み始める。

「なななんとぉぉー、スレンコフ選手の烈風が舞い踊り会場を隠してしまったぁぁー!これでは戦闘の様子が全くわかりません!中では一体何が起こっているのでしょうか?」

会場中に木霊するようにミーアの絶叫が響き渡った。

一方で、当のヒツジは砂煙で一寸先も見えない様な状態の中、四方八方から迫り来る刃をかわし続けていた。

「……そろそろ
「挑発か?乗るわけなかろう?」

声があらゆる場所から反響する様に聞こえてくる。
風に声を乗せて自分の位置を分からなくしているのだ。

ヒツジは、声が聞こえた場所に錬金で作った紙手裏剣を投げてみるが反応がない。
それをどうやってか分かったスレンコフが薄く笑う。

「ふっふっふ、当たるわけなかろう。お前の周りは暴風が吹き荒れているのだ。仮にそこに私が立っていたとしても単なる紙でてきた手裏剣など私に届くわけがない」
「ずいぶん余裕ぶるじゃない?もしかして勝った気でいるのかしら?」

スレンコフは先程までと違い、どこか余裕を持った声音だった。

「油断はすまい。しかし、私の方が圧倒的に有利なのは事実。貴様こそこの状況で随分と余裕そうではないか?」
「私?だってピンチに陥っただなんて少しも思ってないもの」

ヒツジは凛とした佇まいで髪をかきあげながら言った。
その表情には彼女の言葉通り余裕が見て取れる。

圧倒的不利な状況の中でも余裕を崩さないヒツジにイラついたのか、スレンコフはやや声を低くしながら、

「……貴様のような自惚れた女には一度痛い目を見なければ分からぬようだな」
「ずいぶんな嫌われようね。僻みかしら?」
「知れたこと!」

その言葉を皮切りに飛んでくる刃の数は更に倍となり、ヒツジは避けることに専念せざるをえなくなる。

「そらそらそらそらぁ!」

縦横無尽に飛んでくる刃は全てスレンコフによって操られているらしく、互いにぶつかる事なくヒツジに真っ直ぐ飛んでくる。

しかし、シークの神経で作った糸と違い、繊細なコントロールが出来るわけではないのか、今ひとつ押し切れずにいた。

だが、業を煮やして姿を見せたりなどしない。
ヒツジは無尽蔵の機械ではないため、いつか必ず息切れを起こす。
闘技会には基本的に時間制限はない。

このまま、後で卑怯と罵られることになろうとも姿を隠し、遠距離からじわじわと体力を削り取りいたぶる。

「悪く思うなよ!これは勝負なのだからな!」

そう叫び、暴風を更に強めた瞬間、突如として目の前で身に覚えのない剛風が吹き荒れる。

「何っ!?」

ここは360度全方位を壁に囲まれた闘技場内である。
微風ならまだしも、こんな強風が吹くわけがない。
反時計回りに回転していたスレンコフの風とは真逆の流れを持ったその風によってスレンコフとの間に竜巻が発生する。
あまりに強い竜巻の吸収力によってスレンコフは一歩、二歩と竜巻の方に吸い込まれていく。

「くっこのままでは……!」

ジリジリと吸い込まれていく現状に耐えかねたスレンコフは、自身の能力を一度解除する。

次の瞬間、ドスドスドスという音がスレンコフの身体から鳴る。

「なに……?」

ゆっくりと自身の身体からでた音の正体を確認したスレンコフは呻き声をあげる。

「これは……俺の……がふっ!」

スレンコフの体に刺さっていたのは先程までスレンコフが操っていた特殊な形の曲刀だった。

「ああーっと!ここでスレンコフ選手、ダウゥゥゥウン!よって、勝者は無敗の従者、ヒツジ・スクレテールだぁぁぁ!」

先程までの竜巻が嘘のように消え去った会場からゆっくりと姿を現したヒツジは、倒れているスレンコフに近づき、

「ワンパターンなのよ、貴方の攻撃は。あれだけの時間があれば、曲刀の動きに規則性があることくらい誰だって気付くわ。次からは変則的な動きを入れておくことをお勧めするわ」

そう言って髪をかきあげながら、ヒツジは闘技場を後にした。

会場内、特にコキノス組の応援席は割れんばかりの歓声と賞賛の嵐で地が震えていた。

「さぁ、会場も盛り上がってきたところで、第二試合、コキノス組次鋒、期待の新人シーク・トト選手の入場です!」

名前を呼ばれたシークは少し緊張を滲ませながら入り口から出て行く。

ヒツジにはぼそりと

「負けたら承知しないわよ?」

という暖かい声援までもらった。

「続きまして、プラシノス組次鋒五年、変幻自在の水使い、ハープ・ウォッシュ選手の入場です!」

プラシノス組からの歓声が上がる。

だが、いつまで経ってもプラシノス組の入り口からは人が出てくる気配がない。

「あれれ、ハープ選手?人事変更などは聞いてませんね。寝坊でしょうか?」

ミーアのジョークに少し会場からは笑いが出るものの、すぐにざわざわし始める。
だが、そんな会場の心配もつかの間、すぐにプラシノス組の入り口の奥から一つの影が現れる。

「ああっとー、やっと出てきましたー!しかし、ヒーローは遅れてくるもの!ハープ選手の戦いはこのプラシノス組の一敗から逆転する一手と……ちょっと待ってください。あれは誰でしょうか?」

しかし、シークの反対側の入り口から入って来たのは、可憐で可愛らしくて……そして恐ろしいまでに悍ましい死神のような少女だった。

「なっ……!?」

その正体に気づいた瞬間、シークは呻き声を漏らす。
雰囲気だけで誰かわかる。忘れるわけがない。スラム暮らしのシークをもってして、人生で一番やばいと感じた人間の顔を忘れるわけがない。

「うふふ、お久しぶり、シーク。面白そうな事やってるじゃない」
「ミ、ミゼ……」

愛らしい笑顔に恐ろしいまでの殺気を混ぜながら、ミゼは悠然とシークの十メートル手前まで歩く。
会場内は彼女の殺気に当てられた観客たちがパニックを起こしていた。
しかし、その騒ぎの中心であるミゼはそんなことは微塵も気にすることなく平然という歩いてくる。
そして、止まると、ざわつき、失神する者まで現れ始めた闘技場の真ん中で、ミゼは咲き誇るような笑顔を見せてこう言った。

「私もいーれてー」


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コメント

  • クーファ

    おもしろいです!
    頑張って下さい!

    0
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