ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第60話 闘技会

そしてとうとう後期闘技会の始まりの日となる。
今朝はいつも通り、レインや奈落山達と一緒に食事を取っていた。

「相手の人、誰か分かる?」
「いや、どこに誰を配置するかは自由だから分からん。選手は分かっているが六人も対策なんて取れねぇからな」

肩をすくめてそう言うシークに、奈落山は眼を吊り上げる。

「そう言ってこの前も舞華達に負けてたでしょ!」
「ぐっ……、いや、あれは連携がうまくいってなかったせいだろ。今回は一人だから問題ない」
「それは私が足手まといだったって言いたいの?」
「いやいや、待てって。そうじゃなくてな、うまく連携が取れてなかったことが敗因だったってことだ」
「ふーん、どうだか」

未だ負けたことを気にしているのか、奈落山はこの話題には敏感だった。

「まあ一応俺と当たる可能性のある奴はちゃんとピックアップしておいたよ。特に確率の高いのはプラシノス組五年、水弾のハープ。まあ次鋒はこいつでほぼ間違いねぇだろ」

七年生であるこの学園で、シークやヒツジのように一年生や二年生で闘技会入りするのは、本来異例中の異例である。

ハープは現プラシノス組闘技会では最年少であり、また実力的にも六人の中で一番劣るとされている。

「それでも五年生で、シークと違って叩き上げなんだから油断しちゃダメだよ!」
「分かってるよ」

時間の都合で特別推薦枠で闘技会メンバー入りをしたシークと違って、ハープは組内の厳しいランクマッチ戦を勝ち上がってきている。
油断はできない相手だった。

「まっ、何とかなるだろ」

その呟きは食堂の喧騒に掻き消されていった。



「さぁ、ついにこの日がやって参りました!学生同士がその知力と武力を競い合うセントラル最大の武の祭典、闘技会!若きエース達の血と汗と涙をぶつけ合うこの大舞台、実況をするのはこの私、コキノス組一年、ミーア・リオンがお伝えいたします!そしてゲスト解説者としてこの人!」
「コスモス・ホロウでーす」

控え室にいるシークからも聞こえるほどの大音声で実況が始まっていた。
既に会場は超満員になっており、コキノス組の組カラーである赤色とプラシノス組の組カラーである青色で真っ二つに分かれている。

「さて、注目の選手は何と言ってもコキノス組無敗の従者、ヒツジ選手!そして歴史上初の一年生にして闘技会メンバー入りを果たした期待の新人、シーク選手!特にシーク選手は一年生ゆえ殆ど情報がなく、期待がかかります」
「そうねー」

実況に熱が入るミーアとは正反対にのほほんとした雰囲気を崩さないコスモス。

「ええー、その少ないシーク選手の情報の中に、ホロウ先生の妹気味であられるシャーリーさんに勝った、未確認の情報があるのですが、如何でしょうか?」
「……」
「あのぅ、ホロウ先生?……ヒッ!」
「ふふふふふ、シークったら、私の可愛いシャーリーちゃんをいぢめるなんて……、ふふふ、お仕置きが必要のようねぇ……」
「え、ええーっと。そ、それでは、選手の入場です!」

コスモスの黒いオーラを間近で感じたミーアは、慌てて闘技場へと視線を戻す。

広い闘技場の中央では、ローエンを筆頭にしたコキノス組代表者達と、白髪の青年を筆頭にしたプラシノス組代表者達が並んでいた。

それぞれ、目の前にいる者が今日戦う相手である。
シークも真っ直ぐに立ちながら相手の特徴を観察する。

(半透明の青い髪に、透き通るような水色の瞳……。間違いないな、情報通りハープで間違いねぇ)

事前情報通り、シークの相手は水弾のハープだった。
昨年の成績は3勝2敗。攻め主体の水流使いである。

(水使いか……、またやり辛い相手だなぁ)

不定形の水を扱うハープの能力はシークの糸と相性が非常に悪い。

そう考えていると、ハープと目が合った。
そして、話しかけてくる。

「私は君の今日の対戦相手、ハープ・ウォッシュ。よろしくね、一年生君」
「シークだ。よろしく頼む」

無視するのも感じが悪いので取り敢えず軽く挨拶をする。

「ふーん、それにしても本当に一年生なのね。手加減はする気はないわよ?痛いのが嫌だったらいつでも降参してね」
「あんたも俺に負けても恥に思う必要はないから頑張れよ」
「なっ……」

あっさりと返され、少し頬を赤くさせる。

「その言葉、後で後悔させてあげるわ」

その言葉を皮切りに、審判役のフラグマが両サイドの中心に立つ。

「では、これよりコキノス組対プラシノス組の試合を始める!両者、礼!」

ハープは仕方なくといった風に少しだけ頭を下げ、シークも会釈で済ませ、控え室へと戻る。

ヒツジとその対戦相手だけは中心に残り、すぐに試合を始める準備に入る。

「さて、初戦の大一番、どちらも勝利を掴み、後期初の試合で勝利を飾りたいところ。コキノス組からはもちろんこの方、コキノス組三年、無敗の従者ヒツジ選手!未だ授業の模擬戦でさえ一度の敗北を知らない彼女の白星が今日もまた一つ増えるのでしょうか!?」

闘技会の始まりということでミーアの実況にも熱が入る。

「そして対するはプラシノス組六年、烈風のスレンコフ選手!前期闘技会にて副将を務めたその実力は折り紙つき!その勝率は四勝二敗と副将としては好成績を残しております!では、解説のコスモス先生、スレンコフ選手が副将から先鋒に変更した理由は何だと思いますか?」
「そうねー、まず注目すべきはヒツジちゃんとの試合を捨て試合にしていないってことかしらねぇ」
「ほぉ!」
「ヒツジちゃんの実力は、はっきり言って全組の闘技会メンバーでも五指には入るわ。コキノス組でも今すぐにでも大将になれるくらい。それはみんな分かっているでしょうから、本来であればヒツジちゃんとの試合は捨て試合にして、他で四勝を取りに行くのがセオリーなのだけど……」

闘技会は計五戦ある。
そのうち三勝すれば勝ちとなる為、逆に言えば、二回までなら負けていいのだ。

「彼らがそれをしない理由は何でしょう?」
「勝つ為、でしょうね。全勝を狙っているのでしょう。ヒツジちゃんの錬金系能力に対して、スレンコフ君の風系能力は非常に相性がいいわ。その彼をここで使ってくるということは、プラシノス組がヒツジちゃんとの試合を諦めていない証拠でしょうねぇ」
「なるほど、解説ありがとうございました!おおっと!そうこうしているうちに、開始時間がやって参りました!」

会場の中心ではヒツジとスレンコフが向かい合っていた。

「では、両者共準備はいいか?」
「ええ」
「もちろん」

二人が頷いたのを見て、

「試合開始!」

試合開始の合図をした。

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