ノーリミットアビリティ
序話 死神少女
カオス国の辺境に存在するとある訓練場。
そこではカオスで孤児になった子どもを引き取り、職業訓練と称して暗殺者を養成していた。
日々辛い訓練をこなし、満足とはいえない食事を摂って眠る。
その訓練場の一室にて、二人の未だ幼い少女が肩を寄せ合い、話をしていた。
「私……辛いよ」
「えっ、突然どうしたの?」
「ミゼちゃんは辛くないの?いつもいつも痛いことばっかり……私、こんなところに居たくないよぉ……」
涙声で彼女は呟く。
彼女の腕には擦り傷が複数あり、まともに水浴びもしていないのか、その顔は少し汚れていた。
「ふぅーん」
そんな彼女に対し、ミゼと呼ばれた少女には擦り傷どころか汚れ一つなかった。
それはミゼが特別何もしなくていいとか、水浴びをしているなどという好待遇を受けているからではない。
ミゼはこの訓練場始まって以来の天才と呼ばれており、戦闘訓練でミゼを傷付けられる人間がいないからだ。
どれだけ長い距離を走らせても、どれだけ激しい運動をさせても、汗一つかくことなかった。
生まれた頃から環境の厳しい廃れた孤児院で育ち、この訓練場に引き取られたミゼには、この環境を抜け出すという考えがなかった。
だからこそ、ミゼにはここにいることが辛いことだとは思っていなかった。
だが、涙ながらに訴える彼女を見て、初めてその事実を考えた。
「うーん……」
ミゼは暫く考えてから、咲き誇るような笑みで大きく頷く。
「じゃぁ、私がなんとかしてあげる!」
「本当に?」
「うん、任せて!」
自信に溢れたミゼの顔を見て、少女は安心して眠りについた。
そしてそれが、少女がした最後の会話となった。
次の日、その少女はベッドの上で死体で発見される。
死因は頸椎骨折。首をあらぬ方向に曲げられるも、表情だけは安らかで今にも起きだしそうなほど自然のまま、彼女は息を引き取っていた。
犯人は、昨夜彼女が辛いと打ち明けた同室の少女、ミゼである。
彼女が死んだ夜、ミゼは二段ベッドの上でぐっすりと眠り、当たり前のように目覚め、いつもの集合場所に集まった。
だが、いつまでたってもやって来ない彼女を訝しんだ教員がミゼを問いただして発覚した。
「彼女ね、昨日、ここにいるのが辛いって言ってたの。だからね、殺してあげたの」
褒めて、と言外にねだる子供のような無垢な笑顔で少女は言った。
「こ、殺したのか?」
「ええ!彼女ね、昨日泣きそうな声でこんな所に居たくないって言ってたの!けどぉ、私は彼女をここから出すことは出来ないから殺してあげたの。ふふふ、これであの子の魂は安らかに天国に行けるわ」
子どもが訓練の最中に死ぬのは当たり前。ここはそんな場所であり、教員達も死ぬ可能性のある訓練プログラムを組んでいる。
今や、目の前で人が死のうとその心の内にさざ波一つ起きないほどに、死に慣れていた。
だが、そんな彼らをもってしても、恐ろしいと感じさせるほどミゼの笑顔は晴れやかで透き通っていたのだった。
そんなミゼが気味が悪くて恐ろしくて、つい教官はミゼの頬を叩いてしまった。
「痛っ!ねぇ、何で殴るの?私、良いことをしたのに……」
「うるさい!いいから列に戻れ!」
ミゼは悲しそうに俯き、トボトボと列に戻りながらこう考えた。
(教官が私をぶったのは、私がどういう風に彼女を殺したのか見てなかったからだわ)
どれだけ早く、いかに鮮やかに彼女を殺したのか見れば教官も自分を見直すはず。
そう考えたミゼは次の日の夜、その教官の部屋に忍び込み、同部屋だった少女を殺した時と同じように頸椎を折り、殺害した。
あらぬ方向に首を折り曲がった元教官を膝の上に乗せ、その頭を撫でながらミゼは静かに呟いた。
「ね?私って、人殺すの上手いでしょ?」
彼女の心の中には恨みを晴らしたなどという暗い感情は一切ない。
ただ褒められたくて。ただ感謝されたくて。
それだけが理由で教官を殺したのだ。
「はっはっは」
そんなミゼの行動を見て、笑う人間がいた。
「やはり君は素晴らしい逸材だよ!見事な暗殺と美しいまでの殺し方。惚れ惚れするねえ!」
両手を広げ、高々にミゼを褒める。
「ねぇ、貴方は私のことを褒めてくれるの?」
「もちろんだとも。私の名前はリブライ・バロン。ここの訓練場の長をしている。気軽にバロンと呼んでくれたまえ」
「へぇ!私はミゼラブル!ミゼって呼んでね、バロン!じゃあ早速……」
子どもが父親に物をねだるような、そんな透き通る無邪気な笑顔でミゼは言った。
「殺してあげるね!」
その瞬間、ミゼはその場から消え、一瞬後にバロンの肩の上に現れる。
それと同時に右手を容赦無くバロンの首に振り下ろす。
「っ!?」
だが、その右手はバロンの首へと続く軌道の最中にバロンの右手によって防がれてしまう。
「ねぇ、何で止めるの?貴方は私を褒めてくれるんじゃないの?」
「はっはっは!ミゼはせっかちだね!それに、私が死んでしまっては、私が君を褒めることなど出来ないだろう?」
つい今殺されかけたというのにバロンは怒るどころか愉快そう笑っていた。
「あっ!それもそうだわ」
ポンっと手を打ち、ミゼはバロンの肩から降りる。
「んー、じゃあ誰を殺したらバロンは私を褒めてくれるのかしら?ここにいる人達全員殺したら褒めてくれる?」
「気が早いねぇ、ミゼ。もう少しだけ待つんだ。すぐに君に人を殺させてあげよう」
「わーい、楽しみ!」
その数日後、ミゼはとある要人の家に侵入し、家人全員を殺害した。
その日、偶々外に出かけていたたった一人の男の子を除いて。
コードネーム・死神少女。
彼女に命を狙われた者は死を免れない。
そこではカオスで孤児になった子どもを引き取り、職業訓練と称して暗殺者を養成していた。
日々辛い訓練をこなし、満足とはいえない食事を摂って眠る。
その訓練場の一室にて、二人の未だ幼い少女が肩を寄せ合い、話をしていた。
「私……辛いよ」
「えっ、突然どうしたの?」
「ミゼちゃんは辛くないの?いつもいつも痛いことばっかり……私、こんなところに居たくないよぉ……」
涙声で彼女は呟く。
彼女の腕には擦り傷が複数あり、まともに水浴びもしていないのか、その顔は少し汚れていた。
「ふぅーん」
そんな彼女に対し、ミゼと呼ばれた少女には擦り傷どころか汚れ一つなかった。
それはミゼが特別何もしなくていいとか、水浴びをしているなどという好待遇を受けているからではない。
ミゼはこの訓練場始まって以来の天才と呼ばれており、戦闘訓練でミゼを傷付けられる人間がいないからだ。
どれだけ長い距離を走らせても、どれだけ激しい運動をさせても、汗一つかくことなかった。
生まれた頃から環境の厳しい廃れた孤児院で育ち、この訓練場に引き取られたミゼには、この環境を抜け出すという考えがなかった。
だからこそ、ミゼにはここにいることが辛いことだとは思っていなかった。
だが、涙ながらに訴える彼女を見て、初めてその事実を考えた。
「うーん……」
ミゼは暫く考えてから、咲き誇るような笑みで大きく頷く。
「じゃぁ、私がなんとかしてあげる!」
「本当に?」
「うん、任せて!」
自信に溢れたミゼの顔を見て、少女は安心して眠りについた。
そしてそれが、少女がした最後の会話となった。
次の日、その少女はベッドの上で死体で発見される。
死因は頸椎骨折。首をあらぬ方向に曲げられるも、表情だけは安らかで今にも起きだしそうなほど自然のまま、彼女は息を引き取っていた。
犯人は、昨夜彼女が辛いと打ち明けた同室の少女、ミゼである。
彼女が死んだ夜、ミゼは二段ベッドの上でぐっすりと眠り、当たり前のように目覚め、いつもの集合場所に集まった。
だが、いつまでたってもやって来ない彼女を訝しんだ教員がミゼを問いただして発覚した。
「彼女ね、昨日、ここにいるのが辛いって言ってたの。だからね、殺してあげたの」
褒めて、と言外にねだる子供のような無垢な笑顔で少女は言った。
「こ、殺したのか?」
「ええ!彼女ね、昨日泣きそうな声でこんな所に居たくないって言ってたの!けどぉ、私は彼女をここから出すことは出来ないから殺してあげたの。ふふふ、これであの子の魂は安らかに天国に行けるわ」
子どもが訓練の最中に死ぬのは当たり前。ここはそんな場所であり、教員達も死ぬ可能性のある訓練プログラムを組んでいる。
今や、目の前で人が死のうとその心の内にさざ波一つ起きないほどに、死に慣れていた。
だが、そんな彼らをもってしても、恐ろしいと感じさせるほどミゼの笑顔は晴れやかで透き通っていたのだった。
そんなミゼが気味が悪くて恐ろしくて、つい教官はミゼの頬を叩いてしまった。
「痛っ!ねぇ、何で殴るの?私、良いことをしたのに……」
「うるさい!いいから列に戻れ!」
ミゼは悲しそうに俯き、トボトボと列に戻りながらこう考えた。
(教官が私をぶったのは、私がどういう風に彼女を殺したのか見てなかったからだわ)
どれだけ早く、いかに鮮やかに彼女を殺したのか見れば教官も自分を見直すはず。
そう考えたミゼは次の日の夜、その教官の部屋に忍び込み、同部屋だった少女を殺した時と同じように頸椎を折り、殺害した。
あらぬ方向に首を折り曲がった元教官を膝の上に乗せ、その頭を撫でながらミゼは静かに呟いた。
「ね?私って、人殺すの上手いでしょ?」
彼女の心の中には恨みを晴らしたなどという暗い感情は一切ない。
ただ褒められたくて。ただ感謝されたくて。
それだけが理由で教官を殺したのだ。
「はっはっは」
そんなミゼの行動を見て、笑う人間がいた。
「やはり君は素晴らしい逸材だよ!見事な暗殺と美しいまでの殺し方。惚れ惚れするねえ!」
両手を広げ、高々にミゼを褒める。
「ねぇ、貴方は私のことを褒めてくれるの?」
「もちろんだとも。私の名前はリブライ・バロン。ここの訓練場の長をしている。気軽にバロンと呼んでくれたまえ」
「へぇ!私はミゼラブル!ミゼって呼んでね、バロン!じゃあ早速……」
子どもが父親に物をねだるような、そんな透き通る無邪気な笑顔でミゼは言った。
「殺してあげるね!」
その瞬間、ミゼはその場から消え、一瞬後にバロンの肩の上に現れる。
それと同時に右手を容赦無くバロンの首に振り下ろす。
「っ!?」
だが、その右手はバロンの首へと続く軌道の最中にバロンの右手によって防がれてしまう。
「ねぇ、何で止めるの?貴方は私を褒めてくれるんじゃないの?」
「はっはっは!ミゼはせっかちだね!それに、私が死んでしまっては、私が君を褒めることなど出来ないだろう?」
つい今殺されかけたというのにバロンは怒るどころか愉快そう笑っていた。
「あっ!それもそうだわ」
ポンっと手を打ち、ミゼはバロンの肩から降りる。
「んー、じゃあ誰を殺したらバロンは私を褒めてくれるのかしら?ここにいる人達全員殺したら褒めてくれる?」
「気が早いねぇ、ミゼ。もう少しだけ待つんだ。すぐに君に人を殺させてあげよう」
「わーい、楽しみ!」
その数日後、ミゼはとある要人の家に侵入し、家人全員を殺害した。
その日、偶々外に出かけていたたった一人の男の子を除いて。
コードネーム・死神少女。
彼女に命を狙われた者は死を免れない。
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