ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第50話 ゆっくりと

とうとう闘技場へと辿り着いた。
いつもは放課後とはいえ、まだ太陽は登っており、空は明るくこれから使用するため電気も通っていた。
しかし、今はすでに太陽が沈んでおり、月が空に昇っているだけで電気もついていないため、辺りは殆ど見えないほど暗くなっていた。

「今日は満月か……」

シークは空を見上げながらそう呟いた。
辺りは不気味なほど静けさに満ちていた……わけではない。
背後からはレインが戦っているのか、銃声が鳴り響いている。
散発的に聞こえてくる銃声を背に受ける。
レインが激しく戦闘をしている証拠だった。
アルトはともかく、シークもそれ程心配はしていなかった。

何故なら、任せろ、といったレインの顔には自惚れではないと分かる根拠ある自信が見て取れ、そして何よりレインが最後に呟いた彼の本名だ。

リブラ。
シークはその名前を知っていた。
表世界にも超能力者は生まれる。基本的に表世界に生まれた超能力者達もセントラルに通うように要請がくる。だがしかし、偶にヘリオスに見つからず、そのまま大人になることがある。
何もしなければ、もしくはちょっとした特技やマジシャンなどとして少し身銭を稼ぐくらいであるならば問題はない。
だが、悪事に手を染めた場合は速やかに排除……殺害しなければならない。
その組織こそ、『アステリスモス』。
十二の星座を名乗る十二の氏族であった。
その中の一つ、リブラは『天秤座』だった。

そして、アルト・タウロス。
聞いた時は分からなかったのだが、言われてみれば分かる。
タウロスではなく、アルトの本名はアルト・タウラスだった。
タウラスとは『牡牛座』である。

彼らの目的は犯罪者を取り締まることではない。
軽い万引き程度でいちいち取り締まりはしないが、殺人などや銀行強盗などを犯した犯罪者などには例外なく行きつく結果は一つとなる。
死刑。アステリスモスの目的は犯罪者を秘密裏に殺すことである。
そして、その為に育てられた彼ら二人の実力が中の上なわけがないのだった。

「あれだけ騒げばすぐに人が来るだろうが……」
「状況をすぐに伝えられる人がいた方がいいからね。それに興味本位で近づいて来る生徒がいないとも限らないし、シークの判断は正しかったと思うよ」

この場にいるのはシークとアルトだけだった。
奈落山には、空振を使った俊足の足で一度校舎へと戻り、応援を呼んできてもらったのだ。

「ただでさえ少ない人数をさらに割るのは愚策のような気がしないでもねぇが……」
「僕たちは碌に連携の訓練をしてないからねー」
 
シークの追跡者が示す方角は闘技場のグラウンドであった。
おそらくそこで敵は待ち受けているだろう。
二人はグラウンドへと真っ直ぐに続く道を見据えながら話し合う。

「どうする?」
「うーん、ごめん。僕、あんまり作戦とか作れないんだ……」
「え、マジでか?レインより頭が良さげに見えたんだが……」

シークの失礼な発言に、アルトは少し困った顔をする。

「勉強は僕の方が上なんだけど、チェスとかの戦略ゲームはからっきしでね……」
「そうか……。策とも呼べないやつが一つあるが……どうする?」
「……聞くよ」

ーー数分後。

「うん、それが一番いいかな。それでいこうか!」
「いいのか?策と呼べるような代物じゃないし、お前を危険な場所に放り込むんだぞ?」
「あはは、構わないよ。それに、僕はこう見えて切り込み殴り込みが専門なんだ。『牡牛座』に就く人間は、上の命令に従ってただ突撃し、暴れまくるだけ。下手に連携をとるよりはよっぽどいいと思うよ」
「……すまん、もしかしたらお前の方が危険かもしれないのに」
「あはは、別にいいよ、本当にね。僕達にはあの場で帰る選択肢があって、それでも付いていく覚悟を決めた。ならどうなっても自己責任さ。それに、危険なのはシークも一緒でしょ?」
「……分かった。ありがとうな。じゃ、ここで別れよう。気をつけろよ」
「うん、シークもね!」

そう言ってシークは手を振るアルトと別れた。
アルトが向かったのは観客席にいるかもしれない敵の排除である。
先ほど銃を見せられた為、それに対応する為だ。
シークの能力は銃などの一点集中攻撃に弱く、遠くから狙撃されるのは非常に不利なのだ。

アルトを周りの索敵と排除を任せ、シークは一人で闘技場の中央へと向かう。
その雰囲気は一歩歩くごとに冷たく、先程までの仲間に向ける真剣ながらも優しい瞳は鋭くなっていった。

シークは一般人ほど人殺しに忌避感はない。
昔のシークにとって死は隣り合わせのものだったし、一日のうちに死体を見ない日の方が少なかった程だったからだ。
積極的にやろうとは思わない
だが、必要にかられればいつでも殺す覚悟がある。

それが今だ。
シャーリーとは殆ど無関係といってもいいレインとアルトを死地に向かわせているのに自分だけヘタれているわけにはいかない。

殺意を胸の内に秘めながら、静かに、そしてゆっくりと自分の気配を消していく。
中央へと続く廊下には明かりがついては居らず、ただでさえ、そこに人がいるとは分からない。
そんな暗闇に紛れ込むようにシークは存在感を消していた。
日中でさえ道端の石ころ程の存在感へと自分を変えれる。それを暗闇でやったシークを認知出来る人間はいないであろう。

物音一つ立てずにゆっくりとシークは歩いて行った。

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