ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第49話 勝算

和解した四人は全速力で闘技場へと向かっていた。

「すげぇな!お前の天職!」
「それ、さっき奈落山とやったぞ」

走りながらシークは自分の能力について説明する。
それを聞いたレインの第一声がそれだった。

「俺らは聞いてねぇよ!それにしても追跡者に隠形ねぇ……。シークは裏の人間って感じがするな」
「実際は半々ってところだ」
「マジかよ……」

レインが呆れたように呟く。

「まあ別に後ろめたいことはっ!?避けろ!」
「!?」
「くっ!」

闘技場ももう目と鼻の先というところで、シーク達の足元に銃弾が降り注ぐ。

「レイン、アルト!無事か?」

奈落山とシークはとっさに横に避けたものの、レインとアルトを置き去りにしてしまった。
砂煙が立ち込めり、二人の安否が分からない。

慌ててシークと奈落山は砂煙の中に入っていく。
超能力者は不死身なわけでも体が鉄で出来ているわけでもない。
肉体強化系の生命系能力者でもない限りは普通の人となんら変わりはないのだ。
当然、刃物で切られれば傷付くし、銃弾一発で軽く皮膚を突き破り、死ぬ可能性がある。
放たれた銃弾はかなりの数だった為、レイン達が蜂の巣になっている可能性がある。

「くそっ!」

レイン達が穴だらけになっていないことを祈りながら砂煙の中、二人を探す。
そしてすぐに黒い二つの影を見つけ駆け寄る。

「レイン、アルト!無事か!?」

そこには手を前にかざしたレインとその後ろに隠れるアルトが立っていた。

「っぶねぇな!シーク、助かったぜ!」
「無事か?すまん、お前らが反応したのが見えたから構わず避けちまった」

ちょうどレインと話している最中だった為、声を出した瞬間の二人の動きは見えていたのだ。
シークに見えていたのは、レインが前方を見据え、何かに気付いたのか手を前にかざす瞬間だった。

「ああ、一発も掠っちゃいねぇよ。シークの反応が早くて助かったぜ」

銃弾は二人にかすりもしていなかった。

「……能力か?」

二人に当たるはずだった銃弾は地面不覚に突き刺さっている。
弾いた形跡はない。
この場面だけを見れば、奇跡的に二人には当たらなかったようにも見えた。
しかし、偶々ではないということをレインの得意げな顔が物語っていた。

「まあな。そして確定だな。シャーリーは連れ去られた。それも突然銃弾をぶっ放してくるようなやばい奴らに、な」
「ああ。しかも威嚇射撃じゃねぇ。間違いなく殺しにきてる」
「んー、一旦戻るかい?僕達の手にはおえそうにないけど……」

アルトが一旦引くという案を出す。
確かにこの状況ならば一旦引くのが正しいように思える。
未知の敵に対して、シーク達は何の準備もしてないし、相手が何人いるのかも分からない。
人だけじゃなく罠も警戒しなければならず、何よりシーク達はまだ学生の身だ。
そんな未知の状況に飛び込むなど自殺行為だ。

「……ああ、そうだな。奈落山、二人を連れて逃げろ。それと……、悪いが伝令役を頼めるか?誰でもいい、まず教師に事情を話して応援を呼んでくれ」
「……シークは戻らないの?」

だがしかし、シークには引けない理由があった。

「俺らは容赦なく殺しにきたくせに、シャーリーは連れ去った。つまり、シャーリーには連れ去られる価値、人質としての価値があったってことになる。なら、奴らがシャーリーを使って企んでいるのは……」
「ヴァリエールへの脅迫……だね」
「ああ。もしそうなら、俺らが来たことを奴らは密偵だと思ったのかもしれん。だとすると……シャーリーの命が危ない」

歩いて来ていたのならまだしも、シーク達は全速力で走っていた。この先闘技場以外は特に何もない場所に向かって一直線に。
向こう側から見れば、自分達の存在がバレている、と判断してしまうのは仕方のないことだろう。
しかもここは敵地である。
計画が失敗したのであれば、移動の邪魔になるであろうシャーリーを生かしておく必要はない。

と、二人で納得しかけたところ、事情のわからないけどレインが入ってくる。

「ちょ、ちょっと待て!もう少しわかりやすく説明してくれ」
「いや、すまんが一から説明すると長くなる。今は一秒が惜しい。悪いが先に行く!頼んだぞ!」

そう言って駆け出そうとしたシークの肩をレインが掴む。

「待てよ!お前だけ残して戻るわけねぇだろ。俺たちは……あー、何だ、友達だろ?」

少し恥ずかしそうに頭をかきながらレインが言った。

「ああ、そうだ」
「ああそうだって……、いや今はいい。友人一人残しておめおめ帰るなんて恥ずかしくて出来ねぇよ。よく分かんねぇが……急ぎなんだろ?」
「ああ……!また撃ってきやがった!」

敵が銃を撃つ瞬間に漏れた一瞬の殺気を敏感に感じ取ったシークは三人に忠告する。
シーク達がいつまでも砂煙から出てこないので、念の為もう一回銃弾の雨を降らしておこうと思ったのだろう。

「問題ねぇよ」

シークが避けようとするのを引き止め、レインは再度手を前に掲げる。
次の瞬間、降り注いだ銃弾はシーク達から逸れ、地面に降り注いだ。

「……これがお前の能力か?」
「ああ、この銃弾は俺が何とかする。その後はアルトを連れて、お前らは先に行け。あいつは俺がやる」
「……勝算はあるのか?」
「そりゃ愚問ってやつだ。俺は負ける戦いはしない主義なんでな。それに……」

チラリとアルトに視線を送りながら、

「俺よりもアルトの方が強い。強キャラは最後まで取っておくもんだぜ」
「レイン……本気、なんだな?」
「おう!それと……俺の本当の名前はレイン・リブラだ!」
「なっ……お前、それって」
「行けっ!ちゃんとシャーリーを救えよ!」

聞き返そうとしたシークの背を押し、レインは道のど真ん中に陣取る。
シーク達が少し大回りに行くのを確認してから、ゆっくりと前に歩き出した。

「友人……ねぇ」

レインは一人、呟く。
砂煙が消え、視界が晴れた目の前で、異質な雰囲気を放ち、誰が見ても分かるほどの殺意を発している男を目にしながらも余裕の笑みを浮かべていた。

「他の三人はどうした?」

薄暗い声。
暗い感情を宿したその男の声を無視しながら、レインは吼える。

負けはない。
何故なら……。

「いまの俺は最高に滾っているからだ!」

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