ノーリミットアビリティ
閑話 三人の話
「ふぅ……」
シークが出て行った扉を見つめ、シークが遠ざかる足音を聞いて秋沙は軽くため息を吐く。
「ふふ、お疲れ様」
「ん、ほんま疲れたわ……」
湖白の言葉に、秋沙は肩を揉み解しながら答える。
「それにしても……相変わらず相当ふっかけましたわね」
「当たり前やん。うちを誰やと思っとんねん。あの天條院やで?ふっかけるに決まっとるやん」
この交渉はシークの方が得に見えて、実は圧倒的に秋沙達の方が得をしているのだ。
「どう考えても釣り合いが取れていないかと……」
「分かっとる分かっとる。ヴァリエール家の身内に詐欺を働くほどうちの肝っ玉も太くはあらへん。後でちゃんと余剰分を返したるわ」
「どうだか……」
湖赤は複雑な顔で秋沙を見る。
それに秋沙は肩を揺らしながら答える。
「湖赤は相変わらず心配症やなぁ。ヴァリエール家始まって以来、義理とはいえ初めての兄弟やで?大事にするに決まっとるやろ」
ヴァリエール家は例外なく世界最高レベルの天才を産み続ける一族である。
しかし、その代償として彼らはたった一人しか子どもを産めないのだ。
故に、ジンに血の繋がった兄弟はいないし、ジンの父親も一人っ子であり、そしてコルトにも兄弟がいないのだ。
ヴァリエール家は、天才と産み続ける加護と一人しか子孫を残せないという呪いの両方を運命付けられた一族だった。
そして、ヴァリエール家は過去一度たりとも養子をとっていない。
何度勧められようと断り続けてきた。
しかし、コルトの世代になり初めてシークという養子を迎え入れ、家族同様に育ててきたのだ。
そんな異例の存在であるシークと恩の貸し借りが出来る。
つまり、何らかの繋がりができるというのは、ヴァリエール家の妻を狙う者として、その身内にアプローチできると言うのは万金に値するのだ。
「やっと見つけた穴や。ヒツジちゃんの家は頑固やったからなー」
ヴァリエール家に最も近く古い付き合いのあるヒツジの家は代々身持ちが固い。
過去に何度か賄賂などの贈り物などを行ってきたが、その全てが失敗に終わっている。
その分、シークは非常に口説きやすい相手だった。
「これからも良き関係を築いていきたいものですわね」
「当たり前や!何があってもシークはウチらの味方につけなあかん。だからこそ、下手な接触は避けたし、向こうから頼るのを待っとったわけやけど」
「……」
笑顔のまま秋沙は湖赤を見る。
「舞華と何かゴタゴタがあったみたいやけど、結果オーライやな」
「……申し訳ない」
秋沙が本心から言っていないのは、その目を見れば明らかだった。
ヘリオスでは終わりよければすべてよし、などという考え方をする為政者は少ない。
結果を前提として、過程も大事にしなければならないのだ。
「まあええ。シークも気にしてないみたいやったし、これを機に仲良くなってくれれば、ウチもアピールするチャンスが増えるっちゅうもんや」
それでも秋沙の顔には偽物ではない笑顔がある。
先行きの明るい未来がその目には映っているからであろう。
「舞華達に言っときぃ。シークが何か困っていることがあるようならどんな些細なことでも絶対にウチに報告するように、とな」
「はっ!」
湖赤が頷いたのを見て、秋沙は上機嫌で歩き出す。
「ジンを手に入れるのはうちや」
獰猛な虎のような笑みを浮かべながら秋沙は誰ともなく呟いた。
シークが出て行った扉を見つめ、シークが遠ざかる足音を聞いて秋沙は軽くため息を吐く。
「ふふ、お疲れ様」
「ん、ほんま疲れたわ……」
湖白の言葉に、秋沙は肩を揉み解しながら答える。
「それにしても……相変わらず相当ふっかけましたわね」
「当たり前やん。うちを誰やと思っとんねん。あの天條院やで?ふっかけるに決まっとるやん」
この交渉はシークの方が得に見えて、実は圧倒的に秋沙達の方が得をしているのだ。
「どう考えても釣り合いが取れていないかと……」
「分かっとる分かっとる。ヴァリエール家の身内に詐欺を働くほどうちの肝っ玉も太くはあらへん。後でちゃんと余剰分を返したるわ」
「どうだか……」
湖赤は複雑な顔で秋沙を見る。
それに秋沙は肩を揺らしながら答える。
「湖赤は相変わらず心配症やなぁ。ヴァリエール家始まって以来、義理とはいえ初めての兄弟やで?大事にするに決まっとるやろ」
ヴァリエール家は例外なく世界最高レベルの天才を産み続ける一族である。
しかし、その代償として彼らはたった一人しか子どもを産めないのだ。
故に、ジンに血の繋がった兄弟はいないし、ジンの父親も一人っ子であり、そしてコルトにも兄弟がいないのだ。
ヴァリエール家は、天才と産み続ける加護と一人しか子孫を残せないという呪いの両方を運命付けられた一族だった。
そして、ヴァリエール家は過去一度たりとも養子をとっていない。
何度勧められようと断り続けてきた。
しかし、コルトの世代になり初めてシークという養子を迎え入れ、家族同様に育ててきたのだ。
そんな異例の存在であるシークと恩の貸し借りが出来る。
つまり、何らかの繋がりができるというのは、ヴァリエール家の妻を狙う者として、その身内にアプローチできると言うのは万金に値するのだ。
「やっと見つけた穴や。ヒツジちゃんの家は頑固やったからなー」
ヴァリエール家に最も近く古い付き合いのあるヒツジの家は代々身持ちが固い。
過去に何度か賄賂などの贈り物などを行ってきたが、その全てが失敗に終わっている。
その分、シークは非常に口説きやすい相手だった。
「これからも良き関係を築いていきたいものですわね」
「当たり前や!何があってもシークはウチらの味方につけなあかん。だからこそ、下手な接触は避けたし、向こうから頼るのを待っとったわけやけど」
「……」
笑顔のまま秋沙は湖赤を見る。
「舞華と何かゴタゴタがあったみたいやけど、結果オーライやな」
「……申し訳ない」
秋沙が本心から言っていないのは、その目を見れば明らかだった。
ヘリオスでは終わりよければすべてよし、などという考え方をする為政者は少ない。
結果を前提として、過程も大事にしなければならないのだ。
「まあええ。シークも気にしてないみたいやったし、これを機に仲良くなってくれれば、ウチもアピールするチャンスが増えるっちゅうもんや」
それでも秋沙の顔には偽物ではない笑顔がある。
先行きの明るい未来がその目には映っているからであろう。
「舞華達に言っときぃ。シークが何か困っていることがあるようならどんな些細なことでも絶対にウチに報告するように、とな」
「はっ!」
湖赤が頷いたのを見て、秋沙は上機嫌で歩き出す。
「ジンを手に入れるのはうちや」
獰猛な虎のような笑みを浮かべながら秋沙は誰ともなく呟いた。
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