ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第38話 刹那の瞬間

キンキンといった金属のぶつかり合う音が鳴り響く。
舞華の使っている得物は刃を落としてあるが鋼で出来ている刀である。
奈落山の木刀の材質は木であるが、奈落山の能力によって超振動を常に帯びている。
それは舞華の鋼で鍛えた刀にさえ打ち勝つほどの強力なものだった。
両者の刀がぶつかり合うたびに火花が飛んでいる。それは木材からは飛ばないものだった。
つまりそれは超振動を帯びた奈落山の木刀よりも舞華の木刀の方が脆いことを意味している。

「くっ、やはり強いな。それにその木刀の材質……アネモニアの神樹から取り出した物だな?」
「正解。よく分かったね。それに舞華こそかなり鍛えているね?」
「ふん、謙遜するな。私は能力を使っても貴殿の太刀筋についていくのがやっとだ」
「ふふふ、まあ絶刀流は世界最速を謳う流派だからね。動体視力だけでまともに付いていけるシークが異常なんだよ」
「確かにな。あいつは強い。だからこそ
分からないな。……何故、あんな怪しい人間に協力する?あいつはヘリオス人だと聞いているが、実はアネモニアの密偵なのか?」

未だにシークを疑う舞華に、奈落山は呆れた顔をする。

「だから違うってば。昨日寮でも話したでしょ?私はシークを以前から知っていたからだって」
「だが、知り合い関係にはなく、一方的に貴殿がシークを知っていただけなのだろう?しかも会って二日で握手までするとは……狂気の沙汰としか思えない」
「信じるに値する人間かどうかは目を見れば分かるよ。彼は一見怖そうに見えるのは否定しないよ。だけど、話してみれば結構面白い人だし周りをよく見て気を遣ってる。まあ少し食い意地が張ってるけどね」
「そうか……だが、貴殿の信用は裏切られたみたいだぞ?」

舞華がそう呟いた瞬間、舞華の背後からゴム弾が飛んでくる。

「くっ……っ!?舞華!」」

数弾のゴム弾を弾いた奈落山だったが、その隙に舞華は奈落山に背を向け、シークの方へと真っ直ぐ向かってしまう。

「行かせない!」

そう叫びながら空震を発動させ、舞華を追う。
だが、舞華と入れ替わりに奈落山の前に立ち塞がったのは、シークと現在戦っているはずの昇華だった。

舞華は昇華と入れ替わる瞬間、小さな声で、

「右上からの切り落とし」

と、奈落山の次の攻撃を教える。
神速で近付いた奈落山は、舞華の想定通り右上からの切り落としを行い、昇華は手に持っていた二丁の拳銃で防ぐ。

「くっ……銃剣術!珍しいものを使うね」
「うふふ、綺條院家では幼少の頃から習う一般的な武術ですわ」
「へぇー……っ!?」

昇華の言葉に相槌を打った瞬間、奈落山がいた場所に数発のゴム弾が降り注いだ。



一方で、シークは自身へと迫ってくる舞華の刀を目視する。
その一瞬で、舞華の刃が自分に到達すれば間違いなく戦闘不能になると確信した。

その刹那、シークは躊躇うことなく隠していた更なる力を発動させる。
シークはまるで世界が止まったかのような錯覚を受ける程の動体視力とともに、本来ならば避けることができないタイミングのそれを空中で背中を大きく仰け反らせ刃を躱す。
そして、そのまま舞華の腕に回し蹴りを放つ。

「舞華っ!」

下で珊瑚が叫んでいるのが聞こえる。
舞華は辛うじて刀を手放さなかったものの、腕を蹴られたことによって腕を広げた無防備な状態を晒す。
躱せるはずがない。何故なら、舞華の両目にはシークが刀に突き刺され倒れる姿まで見えたのだから。
だがしかし、シークは実際にかわしてみせたのだ。
その驚愕の事実が舞華の身体を硬直させ、動きを鈍らせた。

(やられるっ!)

舞華は一瞬後に訪れるであろう衝撃に思わず目を瞑ってしまう。
だが、いつまでたっても衝撃は来ず、ゆっくりと目を開けると、なんとシークは舞華をお姫様抱っこして地面に向かっていた。

「なっ、お、お前!何をしている!?」
「るせぇ、ちょっと黙ってろ」
「ふざけるな!離せ」

舞華は無理やり暴れるも、シークがガッチリと身体を掴んでいる為抜け出せずにいた。
そして、ゆっくりと地面に降り立ったシークは暴れる舞華を地面に下ろす。

「何のつもりだ、シーク!」
「……律葉先輩」

律花は牙條院の方に行っている為、今近くにいるのは律葉だけだ。
その律葉にシークは声を掛ける。

「何でしょう?」
「俺らの負けだ。降参する」
「なっ……ちょっ……」
「……それでいいのですね?」
「ああ、俺らの負けだ」
「分かりました。では、シーク・トト、降参により牙條院舞華チームの勝利とします!」

律葉が声を上げるのと同時に、律花も声を上げる。
ゴム弾の嵐を叩き落としていた奈落山は驚きに目を見開き、奈落山と近接戦闘を演じながらゴム弾を撃っていた昇華もこちらを見る。
そして、シークが負けを認めたことがようやく頭に染み込んで来たのか、奈落山はいつもの笑顔ではなく、本気の怒り顔をしながらゆっくりと近づいてくる。

「……どういうことなのか説明してくれるんだよね?」

流石の奈落山も眉間にしわを寄せ、今にも飛びかかって来そうだった。
シークも神妙な顔で頷き、降参した理由を告げる。

「俺は二人いるんだよ」
「二人……?それって……まさか!」
「ああ、俺は変人種ってやつだ」

変人種。
それは一つの肉体に二つの肉体と二つの能力、そして二つの心を持つと言われる世界で最も珍しい種族だった。
一説には超能力者だけが持つ独特の器官である、超能力核の突然変異によって起こると言われているが真相は謎のままである。
時代によっては差別の対象となり、迫害を受けた時代も短くない。
しかし、現在は時代の流れとともにそれらは無くなりつつあるのだが、人に話せば要らぬ争いを生む可能性もあるものだった。

「ああ、天職持ちより珍しいやつだ。すまなかったな、奈落山。せっかく来てもらったのにこんな負け方して……」
「うー……うー、そんな事言われたら怒るに怒れないじゃんか!」

奈落山が地団駄を踏む。

「すまん……」
「もういいよ!だけど後でもっと色々聞くからね!」
「分かったよ」

シークが頭を上げたところで、律花と律葉が声を上げる。

「では、勝負はつきましたので私達は失礼いたします」
「もし、舞華達は彼が契約を反故にした場合、再度私達に異議申しだてをおこなってください」
「分かりました。ありがとうございます」

二人が去ったのを見て舞華が改めてシークの方を見る。

「そちらの事情は分かった……。だがしかし、こちらの約束を反故にして貰っては困る」
「分かってるよ。……はぁ、そうだな。秋沙先輩がお前達に俺の事を教えないのは……分からん!」
「「「「は?」」」」

シークは胸を張って堂々と言い切った。
だがそのすぐ後に舞華に胸倉を掴まれ持ち上げられながら恐喝される。

「貴様……約束が違うぞ?」
「いや、本当に知らないんだって。それに俺がした約束は俺の知っていることを教える、だ。く、ぐるじいがらはなぜ……」
「……くそっ!」

シークを下ろして怒りに任せて地面を蹴っ飛ばす。
一族を愛しているからこそ、上が自分に隠し事をしているのに苛立ちを感じていたのだ。
そんな舞華を見て、シークは口を開く。

「煙に巻いたのは悪かったよ。だが……はぁ、言うしかないか」
「何だ?まだ何か隠しているのか?」
「ああ。お前ら俺の家名を聞いたことなかったとか言っていたよな?」
「ああ、トト家、だったか?聞いたことがない」
「だろうな」

シークは相槌を打つと、頭をかき話すか話さないか迷う。だがそれも一瞬のことで、ここまでやっておいて何も教えないのは不義理だと感じ、更に言葉を続ける。

「三人とも、ここからの話は内密で頼むぞ」
「……分かった」

舞華が頷いたのを見て、昇華と珊瑚も頷く。

「俺の本名はシーク・トト・ヴァリエール。ヴァリエール家の次男坊だ」

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