ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第37話 鎧の弱点

「参る!」
「行くぞ!」

始まりの合図と共に奈落山と舞華が一斉に駆け出す。
二人の間は一瞬で狭まり、ど真ん中でぶつかり合う。

舞華の上段からの切りおろしを、奈落山は下段からの切り上げで防ぐ。
二人の力関係は拮抗しており、一瞬の拘束を強いられる。

その時、舞華の視界に奈落山の背後にキラリと光るものが見えた。
その光る物体の正体は、シークの糸である。奈落山が動き出したのと同時にシークが糸を射出していたのだ。
数十本の糸の先が舞華に迫る。

その瞬間、校庭に数十発の発砲音が鳴り響いた。
それと同時にシークの糸が跳ね飛ばされる。

「っ!?」

驚く間も無くシークの足元から突起状の岩が迫ってくる。
シークはそれをジャンプでかわしながら舞華の後ろの二人の様子を見る。
すると、珊瑚は両手を地面に置き、昇華はその両手に、二丁のリボルバー式の銃を握っていた。

地面から岩を突起させたのは珊瑚の能力だろう。授業中でも使っていたため、それは予習済みである。
しかし、昇華は授業中能力を使っていなかった。事実、昇華は二回の模擬戦で二回とも敗北していた。
木刀の使い方も素人同然であり、生徒達の間でも「昇華、弱過ぎじゃないか?」という噂まで立っていたほどだ。

だが、それは自分の能力とは合わない武器を使っていたからに他ならない。
超能力を使わない超能力者など一般人と変わらないのだから。

(しかし、それにしても銃とは……。また変わったものを……?!)
「奈落山!避けろっ!」
「えっ?くっ?!」

シークが奈落山に注意したのは、昇華の放った弾丸が軌道を変え、奈落山に迫っていただ。
そのまま昇華の弾丸は舞華を巻き込んで奈落山に降り注ぐ。

軽い地響きと共に砂煙を巻き上げる。
暫くして砂煙が晴れるとそこには銃弾の雨の中でも傷一つ負っていない舞華が一人で立っていた。
一方で奈落山は空震を横に使い、銃弾の雨から逃れる。

しかし……。

「あら、腕を狙ったおつもりですのに……外れてしまいましたか」

そんな声が聞こえてくる。
奈落山は左肩を抑えながら一度シークの隣に戻ってくる。

「奈落山、大丈夫か?」
「うん、少し痛むけど問題ないよ」
「その割には痛そうだが……」

未だに肩を抑えている奈落山を見て、シークは心配そうな声をかける。

「大丈夫だって。それより、ほい」
「ん?」

奈落山から投げ渡されたものを見る。

「ゴム弾、か?」

銃自体は超能力者達の国でもそれほど珍しいものではない。
ゴム弾も殺傷能力を限りなく無くす目的でよくつかわれるものだ。

問題はゴム弾には何のタネも仕掛けもないということだ。

「つうことは……」
「うん、まず間違いなく……っと、話している時間はなさそうだね」

舞華は既にシーク達の下に走ってきており、昇華もシリンダーに新しい弾を込め終えている。

「銃弾の対処は任せるよ?」
「分かった。舞華は任せる。珊瑚は錬金系の能力者だ。地面に注意しろ」
「オーケー。……ところでシーク、最初に立てた作戦のことなんだけど」
「じゃあ俺、珊瑚狙いに行くから!後は頼んだぞ!」
「あ、ちょっ、シーク!」

奈落山の言葉を無視してシークは舞華の後ろで次弾を装填した昇華達に迫る。

「行かせるかっ!」
「それは私のセリフだよ!」

シークを追おうとしていた舞華を奈落山が足止めする。
その隙にシークは舞華の横を抜け昇華達へと迫る。
後数メートル、というところで先程と同じ発砲音が鳴り響く。

真っ直ぐに自分へと飛んでくるゴム弾を一発、二発と地面に叩き落とす。
叩き落としたゴム弾を横目でチラリと確認して、動かないことを確認しながら突き進む。
続けて昇華が銃を発砲し、三発目と四発目が放たれる。

シークは先程と同じようにゴム弾を叩き落とそうとしたその瞬間、ゴム弾の軌道が僅かにずれ、糸を避ける。

「っ!?」

先程ゴム弾の軌道が変わったところからある程度予想はついていた為、シークはすんでのところで避ける。
そしてさらに近づこうとしたその時、足に何かが絡まっておりその場に縫い付けられてしまう。

「くそっ、珊瑚の能力か!」

いつの間にか足を手の形をした岩に掴まれていた。
更に続けて鳴り響く銃声音。

「弦曲・糸金!」

シークの右手に半透明の糸の刀が造り、それを使ってゴム弾を叩き落としていく。
しかし、昇華の後ろには珊瑚がいた。
突然地面から突き出した岩がゴム弾の嵐を叩き落としている最中のシークの腹に直撃する。

ズドンという衝撃音が鳴り響く。
だが、その岩の一撃にシークは多少仰け反るも、鎧のおかげでほぼ無傷と言ってもいい。

「ぐっ……!」

ところが一瞬の硬直の隙に昇華の放ったゴム弾がシークに直撃し、呻き声をあげる。

「うふふ、やはり貴方の鎧では銃弾は弾けませんか」
「まあ最初見た時から気づいていたけどねー」
「鉄の鎧とかじゃなくて良かったですわ」
「このドS女が……」

岩の一撃よりも明らかに威力で劣るゴム弾がシークの鎧を貫通できるのは、シークの鎧が糸という細い物質で構成されているからである。
線や面に強くとも点の攻撃には滅法弱いのである。
シーク自身その弱点には気づいているからこそ、ゴム弾を弾くという行動をしたのだから。

だがしかし、今の行動で相手の能力の弱点に気付いたのは昇華達だけではない。

「昇華、お前、落ちたゴム弾は動かせないんだな。それに軌道を変えられたゴム弾も、な」
「あら、それはどうかしら?」
「ふん、無理すんなよ。さっきのタイミングで落ちているゴム弾を動かさない理由はないだろう?」
「うふふ」
「それはどうだろうねぇ」

惚ける二人を無視して、チラリと横目で奈落山と舞華の戦いを見る。

「……あっち、あのままにしておいていいのか?舞華じゃ奈落山には勝てんぞ?」
「構いませんわ。元からそう言う作戦だったのですから」
「それはお前らが俺に負けて、舞華が奈落山に負けるっつう作戦か?」
「あはは……もちろん、君が僕達に負けて試合にも負けるって作戦だよ!」

珊瑚はシークの挑発に乗ってしまい、キレ気味に叫んで地面に手を叩きつける。

「二度も同じ手を喰らうか!弦曲・天駆」

シークは自分の足を掴んでいた岩の手を切断し自由になったところで、真っ直ぐに昇華達へと向かっていく。
さっきと違うのは、シークの足が三十センチほど宙に浮いていると言うことである。
高くすれば高くするほど糸の強度がシークの重さに耐えきれなくなってしまうため、この程度でしか持ち上げられないが、地面を歩かなくていいと言うことに意味がある。

「させないよ!」

珊瑚は更にシークの前に巨大な石壁を作り、進行を防ぐ。
だが、シークはその岩を足掛かりに跳ぶ。
岩を登っている最中、シークを捕まえようと何本もの岩の手が伸びてくるが、シークは軽々とそれらを切り落としていき、同時に飛んでくるゴム弾を虫のように叩き落としていく。

そして十メートル近い石壁の頂上まで辿り着いた瞬間、シークはお返しとばかりに糸を降らせようとして、気付く。

「昇華がいない?だが!」

見下ろした先には珊瑚しかおらず、昇華の姿はなかった。
しかし、シークは珊瑚の撃破を優先してそのまま糸を降らせる。
珊瑚は石壁をもう一枚作りシークの糸を防ごうとするが、シークの糸はただの石壁程度では止まらない。

あっさりと石壁を貫き粉々に砕いた石壁の破片を足場に、更に加速しながらシークと糸が迫る。
その瞬間、シークは背後に冷水を浴びせられたような感覚に陥り、咄嗟の勘で背後に防御膜を張る。

だが、シークは一つ忘れていたことがある。
それは今、シークのすぐ後ろに迫っていた舞華には未来視としか言いようのない予知能力があることを。
糸の膜の合間を正確に穿ち、無理やりこじ開けた舞華はシークとしっかりと目が合う。

「お前が強いことは知っていた。だから私達がお前を倒すために練った時間は一日じゃない!」

シークが奈落山と戦ったあの日から、舞華はシークを倒すための手段を考えていたのだ。

「くらえっ!」

舞華の渾身の一撃がシークへと迫る。

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