ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第30話 噂

「へぇー、モテる男は大変だなぁ?」

つい先程あった出来事をレインに話すと、半笑いになりながらそう言ってくる。
昼になり、給食の時間になったため、シークはレインとアルト、そして防蔓の四人で一緒に食事を取っていた。

「いや、あれはヤバいだろ。いつ俺がカオスに行くって言ったよ?」
「いや知らんがな。俺、その場にいなかったし」
「んー、思い込みの強い女子っているし……。特に彼女は天職持ちだからね……」
「おい、天職持ちに対する偏見はやめろ。俺を同類にするな」
「同類だろうが。それにシーク以外に普通に話せそうな奴いたのか?」

レインのその言葉に、シークは数秒考え首を横にふる。

「……いなかったけどもー」
「いないのかよ。十人以上いて全滅なのか……。さすがは変わり者の巣窟」

レインが戦々恐々としていたその時、シークの視界がひんやりした何かに奪われる。

「だぁーれだ?」

突然の質問に、シークは落ち着いた様子であっさりと答える。

「ん?奈落山か。どうした?」
「つまんな!」

レインが吹き出すように突っ込む。

「普通の反応だろうが」
「いや知ってても、一回は間違えるのが普通だっつーの」
「は?意味分からん」
「シークらしいから私はいいと思うけどね」

奈落山がシークをすかさずフォローする。

「それにしても……」

先程までの軽口で笑っていた表情を一転、眉を顰める。

「シャーリーへの悪口、酷くなってるね……」
「え?」

奈落山の言葉に、シークは驚いた表情をする。
今でもシャーリーへの悪口は聞こえてくる。高飛車な態度で、周りを見下した態度だったとか歩いていたら突然睨まれた、とか。
根も葉もない噂が辺りに広まっている。

「悪く……なってるのか?」

よく分からないと言った感じで疑問符を浮かべるシークに、レインが答える。

「悪くなってんな。事実に誇張と嘘が混じりはじめてたぜ。酷くなる兆候だ」
「一度嘘を言うと次からは歯止めが効かなくなるからね」

アルトも同意する。
シークはともかく、あのシャーリーが他の顔も知らない生徒に意味もなく睨むわけがない。
何故なら、興味がないからだ。大方、何かその生徒がシャーリーに対して何か先に言ったとかそんな所だろう。

「まるで経験してきたかのような口ぶりだな?」
「経験はしてない。だがそう言う奴はどこにでもいる。有る事無い事大袈裟に言う奴はな。反吐が出るクソ野郎だったぜ」
「あーいたね、そういえば」

レインは昔の嫌な思い出を苦々しげに語る。
同郷のアルトも頷いている。

「そうか、そんなものか……。で、単刀直入に聞くが、どうすればいい?」
「んー、噂の根源を断つっていうのが一番なんだけど……。厳しいんじゃないかなぁ」
「ああ、誰が流してるかも分かんねぇ。それに分かって捕まえて辞めさせたところで、一度流れた噂が消えるわけじゃなんだからな」
「あ?なら対処の仕様がねぇじゃねぇか。言ってる奴ら全員シバくか?」
「それは逆効果だって!シークの評判まで落ちちゃうぜ?それに一々やってたらきりがない」
「ならどうすりゃいい?放置はまずいんだろ?」
「そうなんだけど……。んー、良い噂で上書きする、とかかな?」
「良い噂ねぇ……無理じゃないか?」

アルトの提案にシークは難色を示す。

「そうだね……。特に彼女は第一印象があんまり良くなかったから尚更難しいかも」
「「「うーん……」

結論が行き詰まり、四人が頭を悩ませる。
すると、今まで黙っていた防蔓がおずおずと手を挙げた。

「あ、あの……」
「どうした、防蔓?」
「え、ええっと……さっきのアルト君の意見をお聞きして思ったのですけど」
「アルトの意見?良い噂で上書きするやつか?」
「はい!あの……なら、他の噂でシャーリーさんの噂を上書きすればいいと思います!」
「それは……?」
「ああ、なるほど!」

分からないシークに対し、奈落山は分かったようで、手を打っている。

「だけど……それならやっぱり人手がいります」
「うーん、それなら私の伝手で何人か動かせるよ」
「僕は……少し難しいかもしれません」
「セントラルだからね……」
「おい、何の話をしてるんだ?もっと詳しく説明しろ!」

二人だけで話を進めていることに苛立ったシークが机を叩きながら聞く。

「ああごめんごめん。んーと、つまり、シャーリーのことを話題にしている人達は、実はあんまりシャーリーに興味がないってことだよ」
「シャーリーに何かしら思うところがあるから噂するんじゃねぇのか?」
「いや、それは違うな、シーク。恐らくだが、噂している人間の半分以上はシャーリー
に特に思うところはねぇだろうし、それ程嫌ってもいないはずだ」
「なら何でそんな奴の話をすんだよ?」
「友達作りの一環、だろうねだ。有名人のゴシップネタは一定以上に盛り上がるし、話していて楽しいからね」

大抵の生徒ははっきり言って、シャーリーのことなんてホロウ家ということ以外は知らないし、興味もないのだ。
単純に話のタネとしてその話題を使っているだけなのだ。
そしてそこにはシークには、強者には分からない弱者の嫉妬と羨望が混じっている。

「……分からないでもない、な」

シーク自身、過去に経験したことだ。
ジンの噂を聞きつけ、ジンがボロボロにされているのを嬉々として見ようとした過去がある。
そしてその姿をみて強烈に嫉妬し、殺意を持って行動にまで移したことがあるのだ。
もう四年も前だが、あの時のことは一日たりとて忘れたことはない。

確かに、あの時、ジンの噂以上に興味のある噂が流れていたらシークはジンのところには行かなかっただろう。
やっと理解したシークは頷くと、四人に頭を下げる。

「協力、感謝する」
「別に構わないよ。それで、どうする?アネモニアの友人なら何人か動かせるけど?」
「いや、そこまではしなくていい。そこまで分かればあとは俺の伝手でなんとかする」
「そう?頑張って!」

奈落山は特に固執することなく引き下がり、シークを応援する。

「ああ。じゃあ俺、闘技会に呼ばれてるから先行くな」
「おう!頑張れよ!」

シークも一つ頷くと、席を立ち上がり、配膳を片付けて食堂を出る。
伝手、と言ってもそれ程シークの顔は広くない。

ならば広い人間に頼めばいいだけだ。
闘技会にシークを入れた張本人である、ジンとヒツジ。
ジンならばそこら辺はそつなくこなすであろうし、ヒツジならば、シャーリーの噂の代わりになるような情報の一つや二つは持っているだろう。
何故ならば、ヒツジの役目の一つがそれなのだから。

少しの期待を胸にシークは駆け足気味に歩き出した。

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