ノーリミットアビリティ
第26話 疑い
シークはシャーリーの過去を聞いた。
「五年前、君がヴァリエール家に引き取られたすぐ後、僕達は君の存在を聞いた。君は一般に公表されていない存在ではあったけど、現神憑であられるコルト様の直近の部下である僕達の父親はそれを聞かされていた。そして、将来の神憑であられるジン様の護衛を務める可能性の高い者達にも、ね」
「お前達がそうであると?」
「昔、君がヴァリエール家に引き取られる前にそういったパーティーが開かれたんだよ。才ある者達だけが呼ばれ、普段殆ど表に出てこないジン様とご対面させる集まりが、ね。畏れ多くも、そのパーティーに僕達も呼ばれている。もちろん、シャーリーもだ」
「へー……」
それは初耳だった。
だが、それほど驚きはしない。
実際、人材育成にヴァリエールほど力を入れている神憑はいないのだから。
否、ヴァリエール程、人材育成が重要な神憑はいない、と言ったほうがいい。
ヴァリエールの側近の最低条件は、強いこと。
事実、コルトの側近達はヘリオス中を見回しても最強クラスの能力者達が集まっている。
ヴァリエールがこれ程までに強者で身を固める理由。
それはヴァリエール家が代々神憑の中で最弱だから。
ヴァリエール家は神憑達の中で最弱なのは有名な話だ。他の神憑と一対一で正面衝突した場合、ヴァリエール家は十神の誰にも勝てはしない。
だからこそヴァリエールは自分の周りを強者で固めるのだ。いざという時、ヴァリエールだけでも逃がせるように。
「信じられないかもしれないけど、その時までのシャーリーは将来ヴァリエール家に仕えることを拒絶していたんだよ」
リーベルの言葉にシークは少し目を見開いて驚く。
今のシャーリーから想像もつかない。
「当時の彼女は少し……いえ、かなりやつれていたと思います」
「そうだな。昔のことだから朧げだが、いつも泣きそうな顔をしていたぜ」
「あのシャーリーがねぇ……。しかし、パーティーに行って、ジンに会って変わった、と」
「そういう事だね。あの日から彼女は恐ろしく強くなった。嫌々やっていただろう訓練を喜んでやるようになった。毎日、泣きそうな顔で学校に来ていたのが、嘘みたいに様変わりしたんだよ。そんな所に……君の話が出た」
リーベルの視線は厳しい。シークはヴァリエール家に引き取られた当初、ヴァリエール家に仕える者達に歓迎などされてはいなかった。
何故こんな汚らしい子どもを連れて来たのか理解ができない、といった空気が流れていた。
リーベルが言ったように、彼らは決してそれを口に出したりはしなかったが、その視線は非難に溢れていた。
だがそれも、シークが才能を開花させ、同世代の子ども達を抜いていった時には薄くなっていた。
「強いとは聞かされていましたたけど、噂は所詮噂。直接見るまでは絶対に私は認めないって意気込んでましたね」
「ああ、俺らは嫉妬で済んだが、シャーリーは憎悪していたと言ってもいいくらいだったぜ」
「そういう事だ。僕達が知っているのはこの位だ。参考になったかな?」
「ああ、助かった」
そう締めくくり、シークは立ち上がる。
「じゃあな」
そう言って背中を見せて帰ろうとするのを、リーベルが呼び止める。
「あ、それと……」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「昨日、君とシャーリーの間に何があったのかは僕達なりに調べたんだ。ああ、勘違いしないでくれ。詳しく聞くつもりはないんだ。ただ……」
「ただ?」
「彼女のことをよろしく頼む」
「……ああ」
その言葉を最後に、シークはバルコニーから出て行った。
そのまま自室に戻ると、レイン達が既に集まっていた。
「おかえり。で、どうだった?」
待ちきれないとばかりにレインが聞いてくる。
「結構有意義な話が聞けたよ。詳しくは分からんが何となく全容は掴めた」
「へー、どんな?」
「いやお前が聞いてどうすんだよ」
「そりゃそうだ」
そう言ってレインは笑う。そこに防蔓がお盆を持ってやってくる。
「み、皆さん!どうぞ、僕の領地で採れた野菜から作った野菜ジュースです」
お盆の上には緑色の三つのコップが置いてあり、中にはオレンジ色の液体が入っていた。
まずレインにお盆を差し出す。
「サンキュー」
そう言ってお盆からコップを一つ持っていく。
「あ、部屋にいるアルト君の分もどうぞ!」
そう言って、更にグイッとお盆を前に差し出す。
「お、マジか!サンキュー」
レインはお盆に手を伸ばし、もう一個のコップを持って自室へと戻っていった。
「あ、シーク君もどうぞ!」
そして最後にシークにコップを手渡ししてくる。
「ああ、ていうかお前、何で緊張してんの?」
「ふぇ!?し、してませんよ!」
コップを受け取り口に運びにながらシークは尋ねる。目がオロオロしており、明らかに動揺しているように見える。
しかし、防蔓は首をブンブンと横に振って否定する。
「そうか?」
「はい!僕は平常心ですよ!」
「ふーん、これ美味いな」
特に問い詰めるようなことでもないと思ったシークは、飲み物に視線を戻した。
「五年前、君がヴァリエール家に引き取られたすぐ後、僕達は君の存在を聞いた。君は一般に公表されていない存在ではあったけど、現神憑であられるコルト様の直近の部下である僕達の父親はそれを聞かされていた。そして、将来の神憑であられるジン様の護衛を務める可能性の高い者達にも、ね」
「お前達がそうであると?」
「昔、君がヴァリエール家に引き取られる前にそういったパーティーが開かれたんだよ。才ある者達だけが呼ばれ、普段殆ど表に出てこないジン様とご対面させる集まりが、ね。畏れ多くも、そのパーティーに僕達も呼ばれている。もちろん、シャーリーもだ」
「へー……」
それは初耳だった。
だが、それほど驚きはしない。
実際、人材育成にヴァリエールほど力を入れている神憑はいないのだから。
否、ヴァリエール程、人材育成が重要な神憑はいない、と言ったほうがいい。
ヴァリエールの側近の最低条件は、強いこと。
事実、コルトの側近達はヘリオス中を見回しても最強クラスの能力者達が集まっている。
ヴァリエールがこれ程までに強者で身を固める理由。
それはヴァリエール家が代々神憑の中で最弱だから。
ヴァリエール家は神憑達の中で最弱なのは有名な話だ。他の神憑と一対一で正面衝突した場合、ヴァリエール家は十神の誰にも勝てはしない。
だからこそヴァリエールは自分の周りを強者で固めるのだ。いざという時、ヴァリエールだけでも逃がせるように。
「信じられないかもしれないけど、その時までのシャーリーは将来ヴァリエール家に仕えることを拒絶していたんだよ」
リーベルの言葉にシークは少し目を見開いて驚く。
今のシャーリーから想像もつかない。
「当時の彼女は少し……いえ、かなりやつれていたと思います」
「そうだな。昔のことだから朧げだが、いつも泣きそうな顔をしていたぜ」
「あのシャーリーがねぇ……。しかし、パーティーに行って、ジンに会って変わった、と」
「そういう事だね。あの日から彼女は恐ろしく強くなった。嫌々やっていただろう訓練を喜んでやるようになった。毎日、泣きそうな顔で学校に来ていたのが、嘘みたいに様変わりしたんだよ。そんな所に……君の話が出た」
リーベルの視線は厳しい。シークはヴァリエール家に引き取られた当初、ヴァリエール家に仕える者達に歓迎などされてはいなかった。
何故こんな汚らしい子どもを連れて来たのか理解ができない、といった空気が流れていた。
リーベルが言ったように、彼らは決してそれを口に出したりはしなかったが、その視線は非難に溢れていた。
だがそれも、シークが才能を開花させ、同世代の子ども達を抜いていった時には薄くなっていた。
「強いとは聞かされていましたたけど、噂は所詮噂。直接見るまでは絶対に私は認めないって意気込んでましたね」
「ああ、俺らは嫉妬で済んだが、シャーリーは憎悪していたと言ってもいいくらいだったぜ」
「そういう事だ。僕達が知っているのはこの位だ。参考になったかな?」
「ああ、助かった」
そう締めくくり、シークは立ち上がる。
「じゃあな」
そう言って背中を見せて帰ろうとするのを、リーベルが呼び止める。
「あ、それと……」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「昨日、君とシャーリーの間に何があったのかは僕達なりに調べたんだ。ああ、勘違いしないでくれ。詳しく聞くつもりはないんだ。ただ……」
「ただ?」
「彼女のことをよろしく頼む」
「……ああ」
その言葉を最後に、シークはバルコニーから出て行った。
そのまま自室に戻ると、レイン達が既に集まっていた。
「おかえり。で、どうだった?」
待ちきれないとばかりにレインが聞いてくる。
「結構有意義な話が聞けたよ。詳しくは分からんが何となく全容は掴めた」
「へー、どんな?」
「いやお前が聞いてどうすんだよ」
「そりゃそうだ」
そう言ってレインは笑う。そこに防蔓がお盆を持ってやってくる。
「み、皆さん!どうぞ、僕の領地で採れた野菜から作った野菜ジュースです」
お盆の上には緑色の三つのコップが置いてあり、中にはオレンジ色の液体が入っていた。
まずレインにお盆を差し出す。
「サンキュー」
そう言ってお盆からコップを一つ持っていく。
「あ、部屋にいるアルト君の分もどうぞ!」
そう言って、更にグイッとお盆を前に差し出す。
「お、マジか!サンキュー」
レインはお盆に手を伸ばし、もう一個のコップを持って自室へと戻っていった。
「あ、シーク君もどうぞ!」
そして最後にシークにコップを手渡ししてくる。
「ああ、ていうかお前、何で緊張してんの?」
「ふぇ!?し、してませんよ!」
コップを受け取り口に運びにながらシークは尋ねる。目がオロオロしており、明らかに動揺しているように見える。
しかし、防蔓は首をブンブンと横に振って否定する。
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