ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第25話 妬ましい

「いいのか、あんな約束して」
「分からん」

あっさりと安請け合いをしたシークに、レインが注意をする。
だが、シークは食事に戻りながら、奈落山と防蔓に首を持っていく。

「と言うことで奈落山と防蔓、奴の情報をくれ」
「ふふふ、いいよ」
「はい!僕でお役に立てれば!」

シークも珍しくやる気になり、相手の情報を取り入れる作業に入った。
そして昼休みが終わり、五時間目の模擬戦闘の授業になった。
予定通り、リーベルはシークを指名し、シークもそれを了承した。
ルールは先日と同じ、木刀の破壊だ。

「では二人とも、用意はいいな」
「ええ、もちろん」
「ああ」
「よろしい!では、始め!」

審判のフラグマが手を下げると同時にリーベルの木刀を持つ右手が光り出す。

「いくよ、シーク君」
「かかって来いよ。リーベル」

その声と同時に二人は衝突した。

ーー数分後。

「勝者、シーク・トト」

フラグマが勝者の名前を高らかに宣言する。
校庭には地面に仰向けに倒れ伏したリーベルと、傷一つ負うことなくそれを見下ろすシークがいた。
リーベルの実力は同年代の学生の中では最高クラスだ。
しかし、その中でも突出した実力を持つ奈落山やシャーリーよりは一段劣っていた。

「はぁはぁ、やはり強いね。……なるほど、これは高いな。実際に手合わせをしてみるとよく分かるよ」
「……」

リーベルは、負けたと言うのにその表情は爽やかだ。

「……約束だ。お前の知ってるシャーリーの情報を話してもらおう」
「そうだね。後で寮の最上階のバルコニーに来てくれ」
「お、おう……」
(ここではマズイってのは分かるが……よりにもよってあそこかよ)

寮のバルコニー。
それはシークが最近で死を覚悟した場所。
そして最悪の少女、ミゼと出会った場所である。

「何か問題でも?」
「いや、別にねぇよ……」

乗り気ではないが、一応お願いをしている立場なのでそれを言うのも気がひける。
そのまま了承して、別れる。

それから奈落山は舞華と戦い、勝利した。防蔓は別の人と戦い、負けてしまった。

「二人ともお疲れさん。防蔓、どんま」
「あはは……また負けてしまいました」
「うーん、やっぱまだ攻撃が拙いな。まあ一朝一夕で身につくもんじゃないし、いいんじゃないか?」
「ど、どういうことでしょう?」
「ん、ああ、いや気を悪くしたら悪いんだが、別に戦いに勝つ必要はねぇんじゃねぇかなって思ってな」
「そ、それはどういうことでしょう?」
「ん?それはどういうことだい?」
「俺も昨日思ったんだが、勝利条件なんて各々の判断でよくねぇか?俺や奈落山は強さに自信を持ってるからルール内で如何に相手を倒すかに重点を置いている。だが、お前は防御に重点をおいているんだろ?なら別に攻撃する必要なくね?」
「ええっと……」
「ああ、なるほど。それは確かに面白い案だね」
「だろ?」

防蔓には分からなかったらしいが、奈落山には分かったようだ。

「つまり、自分の中で勝利条件を決めちゃえばいいってことだ。例えば、始まって何分間防御出来れば自分の勝ち、みたいな」
「……」
「ああ、もちろん強制じゃねぇぞ。ただ苦手分野やりまくるより長所伸ばした方がいいと思っただけだ」

シークの提案を難しい顔をしながら考え出した防蔓。

「でもそれだと攻撃が疎かにならないかな?弱点をそのままにしておくのは良くないと思うけど?」
「だからさ、最初の十分間は守りに入ってそれから攻撃には入ればいい。そしたら一挙両得だ」
「なるほど、それは名案ですね!」

それを聞いた防蔓が拍手する。

「ありがとうございます!これで自分の道が少し開けた気がします!」
「いや、そんな大袈裟なもんじゃねぇよ。それにやるとしたらこれはこれで茨の道だぞ。お前が最初の十分間攻撃しないと分かったらあいつらは攻撃に全神経を注ぎ込んで来るだろうからな」
「で、でもそれを防げなきゃ長所とは言えないですよね?」
「お?」

防蔓の言い返しに、シークはつい驚いてしまう。
そんなところに、シークの背後からフラグマが笑いながら近づいて来る。

「わっはっは、良いところに目をつけるな、シーク君。短所よりも長所を伸ばす。うむ、大事なことだ。短所に力を入れるばかり、長所を潰してしまっては元も子もないからな。皆も見習うように!では、今日は以上だ。解散!」
「……」

良い感じにダシされてしまったシークは複雑な顔をしながら木刀をしまい校舎へと戻って行った。

ーー数時間後の寮のバルコニーにて。

「待たせたか?」
「いや、それ程待っていない。さあ、座ってくれ」

リーベルに導かれたシークは六人がけの丸テーブルに座る。
そこには既に二名の男女が座っていた。
その誰もが訓練の授業を一緒に受けていた人物だった。

「……彼らも?」
「ご明察だ。彼らも僕と同じ、シャーリーの学生時代をしる友人達だ」
「マーセナリー・ディアルと申します。以後よろしくお願いします」
「ピリー・ラノスだ。よろしく」
「シーク・トトだ。よろしく」

自己紹介をして、超能力者式の挨拶をする。

「早速だが、シャーリーの過去を話して貰おうか」

シークは焦れたように先を進めようとするが、リーベルは手を前に出してそれを遮る。

「悪いけどその前に僕の方から質問させてもらうよ。この二人の家、ディアル家とラノス家は聞いたことがあるかい?」
「……ディアル家は知っている。ラノス家は……悪いが記憶にないな」
「そうか……。やっぱり君は何も知らないんだね」
「……どういう事だ?」
「気に障ったのなら謝る。だが君が何も知らない事実は変わらない。ここにいるディアル家、そしてラノス家、そしてホール家は現神憑、コルト様の側近を輩出している家だ」
「……」

確かにシークはその情報は知らなかった。
シークがディアル家を知っているのは、ディアル家がホロウ家程ではないしろ、ヘリオスでは古参の家で長い間ヴァリエール家に仕えているからだ。
ヴァリエールの歴史を知る上で知らずにはいられない名前だからにすぎない。
他の二家はごく最近、とはいっても百年以上の歴史がある家柄ではあるが、数千年を誇るヴァリエール家の歴史からいえばごく最近出来た家だった。

「だからといって僕達のあのお方への忠誠心は古参の家の者にも負けないと自負しているつもりだよ。それはもちろんシャーリーもね」

シークがスラム街にいた時に感じた粘りつくような空気や、シャーリーの狂気的な眼差しとはまた違った、感じたことのない嫌な視線。

「だからこそ……君の存在がどうしても嫉しくてたまらないんだ。出来るならば代わって欲しいくらいに」

その正体は嫉妬。

「ヴァリエールの崇高なる考えに一介の護衛である僕達が口を出すべきではない。何故ならあの方々のお考えには誰もついていけないから。僕達が各々の意思で命令を無視して勝手に動けば、あの方が積み上げた緻密な計算を狂わせてしまうかもしれないからね。僕達はそれを、君の存在を聞いた時から分かっていた。だけど僕達の中でシャーリーだけは……それを分かっていなかったんだ」

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